認知症の発症リスクが2倍近くなる? 「認知的フレイル」の状態について作業療法士に聞く
「認知的フレイル」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。認知的フレイルは認知症と異なり、ちょっとした物忘れや集中力の低下や筋力低下、疲れやすさなどの症状を併せ持つ特徴があるようです。この認知的フレイルの有効な予防方法や早期発見のコツについて鹿児島大学特任研究員で作業療法士の赤井田将真さんにお話しを伺いました。
著者:
赤井田 将真(鹿児島大学医学部保健学科理学療法学専攻 特任研究員)
共著者:
牧迫 飛雄馬(理学療法士)
目次 -INDEX-
認知的フレイルとは
編集部
認知的フレイルとは、どのような状態なのでしょうか?
赤井田さん
「認知的」という言葉から、認知機能にのみ衰えがある状態としての印象をもつかもしれませんが、認知的フレイルは認知機能の低下に加え、身体機能の低下を併せ持つという特徴があります。認知的フレイルは、「認知機能の低下」「身体機能の低下」を単独で有する状態よりも認知症の発症リスクが2倍近く高いことが報告されています。
編集部
認知症との違いについて教えてください。
赤井田さん
認知症は記憶力や判断力の低下に加えて脳の画像検査(CTやMRI検査)や脳機能検査(脳の血液の流れの検査)をおこない、日常生活に支障が生じている状態です。一方、認知的フレイルは、物忘れや集中力の低下に加え、疲れやすいことや筋力の弱さなどの身体的な問題も併存している状態です。日常生活への影響は大きくないですが、認知症を発症するリスクが高い状態と考えられます。
編集部
軽度認知障害(MCI)とは関連しているのですか?
赤井田さん
軽度認知障害と認知的フレイルは高齢者の健康を考えるうえで重要な概念です。軽度認知障害とは、正常な認知機能に比べ、物忘れなどの認知機能の低下がみられ始めている状態です。認知症の診断はされていないが、正常と認知症の中間ともいえますね。他方、認知的フレイルは軽度認知障害に相当する認知機能低下と身体機能の低下を併せ持つ状態とされます。これらのことから認知的フレイルと軽度認知障害には密接な関連があると考えられます。
認知的フレイルが与える影響
編集部
認知的フレイルが、認知症リスクに与える影響について教えてください。
赤井田さん
認知的フレイルを有する人は有さない人に比べ、認知症の発症リスクが高いといわれています。そのメカニズムとして、身体機能に関連する筋肉には身体の小さな血管の大部分が含まれており、血液の流れを効果的に増加させる能力を有しています。つまり、筋肉量が少なくなってくると血液の流れが弱くなり、脳の機能にも影響が及び、認知機能の低下につながる可能性があります。これらのことは、認知的フレイルが認知症リスクに与える影響のひとつとして考えられます。
編集部
認知的フレイルは身体機能にどのような影響を与えるのでしょうか?
赤井田さん
認知的フレイルの影響により転倒のリスクが増加することが挙げられます。認知的フレイルを有する者は、歩行時にバランスを取るために必要な下肢の筋力や体幹の筋力が低下していること、さらに認知機能で注意力や情報処理能力が低下していることから、日常生活において転倒が発生しやすい状況にあります。さらに、日常的な活動性も低く、認知的フレイルを有する者は、健常な高齢者に比べ死亡リスクが2倍近く高いことが報告されています。
編集部
認知的フレイルのサインや早期発見のコツはありますか?
赤井田さん
認知的フレイルは身体機能の低下および認知機能の低下を併存する特徴から、それぞれの機能低下のサインを早期に捉えることが予防における重要な視点です。具体的には、「歩くのが遅くなってきた」「疲れやすく活動量が減ってきた」など、身体機能が衰えてきた可能性を見逃さないことが重要です。さらに、認知機能低下の早期発見には、日常生活における、物忘れを自覚することが挙げられます。具体的には、電話の扱いや買い物、料理、薬の管理などの日常生活上で些細な誤りが生じるようになってきた場合や、身近な方から見て違和感を覚える場合は認知機能が衰えてきている可能性があります。日常生活における些細な変化を見逃さないことが認知的フレイルを早期発見するポイントです。
認知的フレイルを予防する
編集部
認知的フレイルは予防することが可能ですか?
赤井田さん
身体機能および認知機能の低下を未然に防ぐことが、認知的フレイルの予防として効果が期待されています。日常的な生活習慣を見直して、生活を整えていくことが重要です。また、行政や自治体が実施している健康チェックに定期的に参加し、自身の健康状態を把握することも予防に重要な行動になります。
編集部
具体的な予防の方法について教えてください。
赤井田さん
具体的な予防方法としては、普段の活動量を増やすことが重要といわれています。1日の歩数を目安にすることも有効ですね。具体的には、65歳以上だと一日7000~8000歩以上をおこなうことで身体機能の低下の予防に有効であるといわれています。さらに、社会的な交流をもつことも認知的フレイルの予防方法のひとつです。地域でのサロン活動や行事への参加をすること、友人とコミュニケーションをとるなど、週に2回以上は目的をもって外出することなども認知的フレイルの具体的な予防策として挙げられます。
編集部
日常生活でできる予防方法やアドバイスはありますか?
赤井田さん
日常的には厚生労働省の身体活動指針である「アクティブガイド」で推奨されている“プラステン(今より10分多く体を動かそう)”を生活の中で意識することが役立つでしょう。例えば、「掃除や洗濯などの家事は積極的に動き、家事の合間にはながら体操をおこなうこと」「友達と外出することなどで外に出る機会をつくって活動的に過ごすこと」「テレビをみるときに10分は立ってみる」など、日常生活のなかで行動を変えていくことが重要になります。
編集部まとめ
認知症とは異なる認知的フレイルですが、自他ともに日常生活の中で認知的、身体的な衰えがないかを気にかけることで、早期発見につながるとのことでした。予防方法は、日常生活での活動量の増加や社会交流が有効なようです。今よりも10分だけ多く身体動かすことだけでも健康寿命を伸ばすことが可能かもしれません。ぜひ、今一度ご自身の生活を見直してみてはいかがでしょうか。