社交不安症(社交不安障害・SAD・あがり症)を抱える人が人間関係や仕事を続けるためのコツ【医師解説】
「緊張のあまり◯◯できない」「失敗したらどうしよう……と不安のあまり、大事な◯◯なのに逃げてしまった」などのメンタルの問題は、医療機関で治療ができるのだそうです。今回は、「社交不安症(社交不安障害・SAD・あがり症)」を抱える人が人間関係や仕事を続けるためのコツについて、「ペディ汐留こころとからだのクリニック」の近野先生に解説していただきました。
監修医師:
近野 祐介(ペディ汐留こころとからだのクリニック)
手の震え・赤面・大量に汗をかく…社交不安症とは?
編集部
社交不安症とは、どんな病気ですか?
近野先生
社交不安症は、人に見られている場で話や食事をしたり、字を書いたりすることを過剰に恐れ、生活に支障をきたしてしまう病気です。会議やプレゼンでの発言、大事な試験のときなどは、ほとんどの人が緊張してしまうと思います。これは自然な反応ですが、「プレゼンでの発言の度に頭が真っ白になって何もできなくなる」「会食でご飯が食べられない」「手元を見られると字が書けない」「大事な試験やプレゼンを回避しようとする」など、極端な影響がみられる場合は社交不安症の可能性があります。
編集部
社交不安症と社交不安障害は違うのでしょうか?
近野先生
いいえ。社交場面に強い不安が生じてしまう病気を表す「SAD :Social Anxiety Disorder」を日本語に訳す際、2種類の訳し方となってしまっているというだけで、同じものと考えていいです。
編集部
社交不安症では、どのような症状が出るのですか?
近野先生
身体症状としては、「ドキドキして息苦しくなる」「頭が真っ白になる」「手足や声が震える」「大量に汗をかく」「顔が赤くなる」「吐きそうになる」などがみられ、ひどい場合はイベントの何日も前から通常の生活が送れなくなってしまいます。また、精神症状としては、「不安」や「緊張」、「予期不安」なども伴います。予期不安とは「また同じ症状が出るのではないか」と不安に陥ることです。悪化すると、そういった状況から逃げたいがために、仕事をやめたり、死にたくなったりするようなケースもあります。
編集部
社交不安症の原因はなんでしょうか?
近野先生
原因はほとんどわかっていませんが、脳の扁桃体が人よりも過剰に反応していることが関係していると言われています。また、例えば「もともと人前で話すのが不得意」といった性格的なことも要因となり得ます。
社交不安症の治療法
編集部
社交不安症の人は、どのようにして日常生活を送ったらいいのでしょうか?
近野先生
まずは、専門家に相談することをおすすめします。適切なアドバイスをしてもらったり、カウンセリングや専門的な治療を受けたりすることで楽になると思います。
編集部
具体的に、どのような治療法があるのですか?
近野先生
患者さんの希望や置かれている状況に応じて治療を選択しますが、主に「薬物療法」と「精神療法(心理療法)」の2つがあります。薬物療法では、症状やご本人の状態に応じて、抗うつ薬・抗不安薬・ベータ遮断薬などの薬が処方されます。ご自身に合った薬が処方されれば、費用も安く効果の高い治療法と言えるでしょう。ただし、社交不安症そのものを治療するわけではないことや、薬によっては眠気や吐き気などの副作用があることなどは注意していただきたいですね。
編集部
精神療法についても教えてください。
近野先生
「認知行動療法」と呼ばれる治療方法がよく用いられます。認知行動療法とは、物事の見方(認知)と行動の仕方を変えるアプローチ法です。極度な不安感を覚えていたり、「上手にできないと嫌われてしまう」と思っていたりしたことも、周りはそこまで気にしていないということに気づいてもらい、見方を変えていきます。精神療法を繰り返し受けて見方が変わると、不安を感じにくくなり少しずつ症状が気にならなくなってくるでしょう。
編集部
カウンセリングについても教えてください。
近野先生
保険適用内の医師の診察ではどうしても時間が限られてしまうので、詳しく話をしたい場合は、自費診療になりますがカウンセリングを受けることもできます。カウンセリングでは、専門知識やスキルを持ったカウンセラーとの対話によって、悩みや困りごとを解決していきます。
社交不安症を抱える人が人間関係や仕事を続けるためのコツを精神科医が解説
編集部
社交不安症を抱える人が、生活の中で取り入れやすい対処法やアドバイスがあれば教えてください。
近野先生
まずは、ご自身の症状を認識・理解しましょう。不安や恐怖を抑えようとするのではなく、どのような状況やトリガーが不安や恐怖を引き起こすのかを認識することが第一歩です。そして、そうした状況やトリガーに上手に対応することで負担を減らすことができるでしょう。
編集部
なるほど。ほかには何かありますか?
近野先生
人間関係や仕事を続けるためには、身近な友人や家族に社交不安症について話して、理解してもらってみてはいかがでしょうか。身近な人に伝えることができたら、次は職場の上司や人事部門などに相談し、適切な調整やサポートを受けるように伝えてみましょう。ただし、こうした試みが逆にストレスとなる場合もあるので、無理のない程度で大丈夫ですよ。
編集部
そうですね。1人でも取り入れられる生活のコツなどはありますか?
近野先生
基本的なことですが、良質な睡眠、栄養バランスの取れた食事、適度な運動習慣などを普段から意識してみてください。また、自分にとって効果のあるリラックス法を知っておくといいと思います。「自分は深呼吸をすると少し落ち着く」「数分だけでもトイレで1人になると症状が和らぐ」などの対策を持っておくと少し安心できるでしょう。いずれにせよ、「社交不安症を今すぐなんとかしよう」と思わず、「ゆっくりでいい」と今の自分を受け入れてほしいですね。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
近野先生
極度の緊張に悩みながら「性格だから仕方がない」と、何年もずっと辛い思いをして頑張っている人がとても多いと感じています。我慢していてようやく受診して、診察の最後に「こんなことで来てよかったの?」という質問をする患者さんもたくさんいらっしゃいます。今回紹介した症状に当てはまると思った人は、気軽に相談してください。我々は、そうした悩みを抱えた人の力になりたいと思っています。
編集部まとめ
社交不安症(社交不安障害・SAD・あがり症)を抱える人が人間関係や仕事を続けるためのコツについて、解説していただきました。「緊張しすぎてつらいというだけで、病院に行くのはどうだろうか」を思う人は多いようですが、しっかりとした治療法があります。症状に当てはまっている人は紹介した「生活のコツ」も取り入れながら、一度専門のクリニックに相談してみるのもいいかもしれませんね。
医院情報
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アクセス | 都営地下鉄大江戸線・ゆりかもめ線「汐留駅」 徒歩1分 JR・東京メトロ「新橋駅」 徒歩7分 |
診療科目 | 精神科、心療内科 |