日々のストレッチでフレイルを予防 柔軟性の大切さを理学療法士に聞く
加齢によって生じる虚弱状態「フレイル」予防のためには体の柔軟性も大切な要素になります。筋力やバランスのみを鍛えるのではなく、手軽なストレッチをおこなうことで日常生活においてもメリットがあるようです。そこで今回は、フレイルと柔軟性の関係から、すぐに始められるストレッチの方法に至るまで、鹿児島大学助教で理学療法士の白土大成先生に詳しく教えていただきました。
著者:
白土 大成(鹿児島大学医学部保健学科理学療法学 助教)
共著者:
牧迫 飛雄馬(理学療法士)
柔軟性とフレイルの関係
編集部
フレイルと身体の柔軟性の関係について教えてください。
白土さん
持久力や筋力、バランス能力と比べて、柔軟性とフレイルの関係性については、まだ分からないことが多いのが実情です。しかしながら、上半身または下半身の柔軟性が低下していることと、フレイルであることとの関連性はいくつかの研究で指摘されています。また、柔軟性が低下すると、転倒しやすくなったり、怪我をしやすくなったりすることも考えられ、フレイルの危険を高めることにもつながります。
編集部
柔軟性と年齢の関係にはどのような関係がありますか?
白土さん
柔軟性は、20代後半から低下する傾向がありますが、その低下率は柔軟性を測定する関節や個人の運動習慣などによって異なります。例えば、一般的な中高齢者ですと、片方の腕を大きく外に広げながら、耳に付ける動き(肩の外転)の柔軟性は、男性で年0.5°、女性で年に0.6°ずつ低下し、股関節を前にあげる(屈曲)動きの柔軟性は、男性で年に0.6°、女性で年に0.7°ずつ低下すると言われています。また、70代を境目により、より一層に柔軟性が低下しやすくなるといわれています。
編集部
柔軟性を高めることはなぜフレイル予防において重要なのでしょうか?
白土さん
柔軟性が低下することで、転倒や自立した生活へ悪影響を及ぼすことが考えられます。そのため、柔軟性を高めること、低下しないように維持することは、フレイル予防の観点からも重要となります。特に、大きな関節である肩関節や肘関節、股関節、膝関節、足関節の柔軟性を維持することは、身体機能を維持する上で非常に重要です。
効果的なストレッチの方法とは?
編集部
自分の体の柔軟性を手軽に知る方法はありますか?
白土さん
ここでは上半身と下半身のそれぞれについて一つずつ紹介します。1つ目はバックスクラッチテストという上半身、特に肩の柔軟性を評価するテストです。両足を肩幅に開いてまっすぐに立ち、片腕を上から、反対の腕を下からそれぞれ背中(後ろ)に回して、両手の指先が余裕を持って届くか(もしくは握れるか)どうかを試してみてください。左右を変えて、違いがないかも確認してみてください。
編集部
もう1つの方法はどのようなものですか?
白土さん
2つ目は、椅子に座ったままおこなう体前屈のテストです。一般的な椅子に浅く座った状態で、片足を前方に伸ばして踵を床につけ、反対の足は膝を90°に曲げた状態がスタート位置になります。両手の中指を揃えた姿勢から前屈し、つま先に余裕をもって触れるかどうかを試してみてください。足を替えて、左右差がないか確認します。いずれのテストも届かない場合は、上半身(特に肩)、下半身のそれぞれが硬いと言えるかもしれません。
編集部
自分でできるストレッチの方法について教えてください。
白土さん
おすすめするストレッチメニューを3つ紹介します。1つ目は、「大殿筋ストレッチ」です。椅子に腰掛けた状態から、片足を反対の足(膝の上)に乗せます。胸を張ったまま、前に倒し、お腹と足をできる限り近づけます。この状態を10秒キープし、左右2〜3セットおこなってください。
編集部
2つ目のストレッチはどのようなものですか?
白土さん
2つ目は、「股関節内転筋群(内もも)ストレッチ」です。椅子に浅く腰掛け、両足を大きく開きます。両ひざに手をつき、胸を張ったまま、前に倒し深くおじぎをします。この状態を10秒キープし、2〜3セットおこなってください。
編集部
3つ目のストレッチについても教えてください。
白土さん
3つ目は、「上半身のストレッチ」です。立位または椅子に座った状態でおこないます。背筋を真っ直ぐに伸ばした姿勢から、両手を真上にあげ、頭上で握ります。右にゆっくりと倒して、その姿勢を10秒キープします。反対もおこなってください。ストレッチは、急激におこなうと痛みを誘発したり怪我の原因になったりする可能性がありますので徐々に開始してください。
編集部
ストレッチをおこなう上で、効果を高めるためのポイントはありますか?
白土さん
姿勢を保持しながら筋肉を伸ばすストレッチ運動については、その持続時間がポイントになります。最近の研究では、少なくとも15〜30秒程度以上維持することが効果を得るために重要とされています。また、ストレッチを実施するタイミングとして、家事や仕事で少し疲労感が出現した際や、お風呂上がりのリラックスした際などでおこなってみてください。
日常生活で柔軟性を高める
編集部
柔軟性を高めておくことは、日常生活にどのようなメリットがありますか?
白土さん
十分な柔軟性を維持することで、階段の昇り降りや靴・靴下の脱着、高い位置の物を取るなど日常生活の活動をスムーズにおこなうことにつながります。また、日常生活での活動を活発に継続することは、転倒の予防や筋量・筋力の低下した状態であるサルコペニアの予防につながる可能性があります。
編集部
ストレッチをする上で、注意すべき点はありますか?
白土さん
過度な痛みには注意が必要です。ストレッチをおこなう際に痛みを感じたり、無理な力がかかったりする場合は即座に中止し、無理に続けないようにしましょう。痛みを感じた場合は、難易度を修正して無理なくおこなうことを心がけてください。
編集部
その他、ストレッチをおこなうにあたってアドバイスはありますか?
白土さん
ストレッチの効果を実感するためには、日常的におこなうことが大切です。ストレッチは、週5日以上、週合計5分以上(1日1分以上)実施することが十分な効果を得るために必要だといわれています。ぜひ、生活にストレッチを取り入れてみてください。
編集部まとめ
身体の柔軟性は20代後半から低下し、70代になると一層身体が硬くなるとのことでした。身体の柔軟性に早い段階で目をむけ、簡単なストレッチから取り組むことで、フレイルの予防にも繋がるということを学びました。運動と同様に継続することが大切とのことでしたので、皆さまも無理なくできる範囲で生活の中にストレッチを取り入れてみてはいかがでしょうか。