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小児科医が絵本で子供にわかりやすく啓発 ケガをしたらどうする? 食べ物の窒息はこうやって防ごう

 公開日:2023/10/06

子供の病気の対処法についてやさしく伝えるプロジェクト「教えて!ドクター」で発信している小児科医の坂本昌彦さん。この9月、子供向けにケガの対処法や、誤嚥を防止する方法を伝える絵本を2冊、立て続けに監修して出版しました。どんな思いで作った絵本なのでしょうか?

坂本 昌彦先生

監修医師プロフィール
坂本 昌彦(佐久医療センター小児科医長)

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小児科専門医。2004年名古屋大学医学部卒業。現在佐久医療センター小児科医長。専門は小児救急と渡航医学。日本小児救急医学会代議員および広報委員。日本国際保健医療学会理事。現在日常診療の傍ら保護者の啓発と救急外来負担軽減を目的とした「教えて!ドクター」プロジェクト責任者を務める。同プロジェクトの無料アプリは約35万件ダウンロードされ、18年度キッズデザイン賞、グッドデザイン賞を受賞。Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2022大賞受賞。

岩永 直子

記者
岩永 直子(医療記者)

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1973年生まれ。医療記者。東京大学文学部卒業。1998年、読売新聞社に入社し、社会部、医療部、読売新聞の医療サイト「yomiDr.(ヨミドクター)」編集長を経験。17年5月にBuzzFeed Japanに転職し、医療記事を執筆、編集。2022年8月から、本業の傍らイタリアンレストランで接客のアルバイト中。2023年7月にBuzzFeed Japanを退社して、現在はフリーランスの医療記者として活動している。著書に『言葉はいのちを救えるか? 生と死、ケアの現場から』(晶文社)、『今日もレストランの灯りに』(イースト・プレス)がある。

子供向けの発信、ずっとやりたかった

岩永 直子岩永

ケガをした時の対処法を19項目にわたって伝える『きゅうきゅうばこの絵本』(金の星社)、食べ物を詰まらせる事故を防ぐ方法を伝える『くまのくま子さん』(赤ちゃんとママ社)を監修しましたね。保護者向けの啓発が中心だったのが、直接お子さん向けに発信しようと思ったのはなぜですか?

『きゅうきゅうばこの絵本』の目次

『きゅうきゅうばこの絵本』の目次(撮影:岩永直子)

坂本さん坂本さん

教えて!ドクターのメンバーでも「子供向けに発信できたら一番いいよね」と話していたのです。

直接のきっかけは昨年、お子さんがスケートボードでガラスに突っ込んで亡くなってしまった事故があったことです。子供のケガは親がどれだけ注意しても、子供自身が気をつけていないと防げないものもあります。子供向けに事故を防ぐ方法や、ケガした場合にどうしたらいいか伝えられる資料を作れたらいいよね、という話をしていたのです。

『きゅうきゅうばこの絵本』は、「子供向けにケガした時にどうしたらいいのか絵本を作りたいので手伝ってもらえませんか?」というお話が来て、自分がずっとやりたかったことなので引き受けました。

ただ、この本のメインは病気というよりもケガなのです。小児科医の発信は最近増えていますが、このテーマに踏み込めなかったのは、厳密に言うと小児科の分野ばかりではないからです。整形外科や形成外科、耳鼻科も関わります。

今回、熱中症や頭部打撲、けいれんなどは僕が監修しているのですが、指のケガや骨折などはほかの診療科の同僚に手伝ってもらいました。診療科を横断しないと作れない本です。

応急手当ての常識、かなり変化

岩永 直子岩永

私が子供の頃と応急手当ての常識がかなり変わっているのだなというのが驚きでした。「すり傷は消毒しちゃいけない」とか「鼻血にティッシュを詰めてはいけない」とか「魚の骨が引っ掛かったらご飯丸呑みしちゃだめ」とかにびっくりです。私が子供の頃は消毒薬が救急箱にあって、ケガをしたら傷口に塗っていたものです。
擦り傷の対処法として消毒はしないのが常識になっている

擦り傷の対処法として消毒はしないのが常識になっている(撮影:岩永直子)

坂本さん坂本さん

そうですね。基本的にケガをすると、傷口に滲出液(しんしゅつえき)という汁がじわっと出てきます。昔はあれは良くないものとして、とにかく乾燥させようとガーゼを当てたりしていました。

でも最近は滲出液そのものに治癒成分が含まれているので、なるべく乾燥させない方が早く治ることがわかってきました。治るのを促すための細胞が集まってくるため、そこに消毒液を塗ってしまうと治る過程を妨げてしまうのですね。

だから今は消毒しないで、湿潤療法といって傷口を湿った状態に保つようにしています。ただ、ケガをした直後に水でしっかり砂や汚れを洗い流すことは大事です。

岩永 直子岩永

今の若いお母さん、お父さんは最初からこうした常識を身につけているのでしょうか? それとも意外と知らない感じですか?

坂本さん坂本さん

教えて!ドクターで2019年に出した書籍『マンガでわかる!子どもの病気・おうちケアはじめてBOOK』(KADOKAWA)でも、「傷口は消毒しない」などは書いてあります。「鼻血にティッシュを詰めない」などもそうですね。ティッシュを抜く時にせっかくできたかさぶたがはがれてしまうからです。

意外に親自身も知らないことがあるのではないかなと思います。これを機会に、子供を通して親に啓発したいです。絵本はそういう媒体なのが良いところです。子供自身に伝えながら、一緒に読む親にも「ああそうなんだ!」と知ってもらう狙いがあります。

重大な結果につながりかねない「頭を打った」「おなかをぶつけた」「けいれん発作」

岩永 直子岩永

これだけは入れたかったというテーマはありますか?

坂本さん坂本さん

「ころんであたまをうった!」と「ころんでおなかをぶつけた!」ですね。

転倒は乳幼児がケガで救急搬送される理由でもっとも多いとされています(※1)。子どもは転ぶと頭をぶつけることも多いですし、みんな知っておいてほしいと思いました。

最近、水筒が転んだ拍子におなかに当たってケガをすることについては、消費者庁が注意喚起もしています。

転んだ拍子に水筒でお腹を打つ事故が最近、話題になっている

転んだ拍子に水筒でお腹を打つ事故が最近、話題になっている(撮影:岩永直子)

臓器は肋骨で守られているのですが、子供は肋骨と比べて臓器が相対的に大きいので大人より守られない部分が多いこと、また、大人よりお腹の筋肉や皮下脂肪も薄い、要するに鎧が薄いから、外からの力が加わった時にダイレクトに力が内臓に加わってしまうのです。おなかをぶつけた時は大人よりも大きなケガにつながりやすいので、入れたかったのです。

※1出典:東京消防庁 救急搬送データからみる日常生活事故の実態(平成30年)

岩永 直子岩永

放置すると大変なことになってしまうかもしれないので、伝えたかったのですね。

坂本さん坂本さん

子供のケガの怖いところは、最初は大丈夫そうに見えることです。たくさん出血しているわけではないし、本人もおなかが痛いと言っているけど、ゲーゲー吐いているわけでもない。忙しい日常の中だと親は「寝ていれば治るよ」と言いがちです。

ところが一部、どんどん具合が悪くなって亡くなる子がいます。おなかのケガは症状が強くなくても、普段と様子が違うとか、アザができるぐらいぶつけた時は、念のために救急外来で相談した方が安心です。

もう一つ、「ともだちがガクガクふるえている!」も入れたかったテーマの一つです。要するにけいれん発作を起こしたお子さんの対処法で、100人ぐらい子供がいたら1人ぐらいはいるものです。

総合病院にいると、時々けいれん発作で運ばれてくるお子さんがいるのですが、発作を起こすと倒れて頭をケガしたりします。でも、初めてけいれんしているお友達を見ると、周りはみんな固まってしまうと思うのです。

発作を起こして倒れそうになったら頭をぶつけないように支えてあげて、ゆっくり横に寝かせてあげる。そして大きな声で大人を呼ぶ。子供達だけでいる時に起きたら、ひょっとして先生が駆けつけるまで、近くのお友達がケアできるかもしれません。

プールなどで発作を起こした時は溺れて亡くなることもあるので、周りのお友達が知っておくのはすごく大事なことだと思います。

受診の目安、救急車を呼ぶべき症状も伝える

岩永 直子岩永

この絵本では、「こういう場合は急いで病院に行った方がいいよ」「こういう場合は救急車を呼んだ方がいいよ」という見分けかたも伝えています。親としては判断に迷うところで、受診や救急搬送の目安を伝えるのは大事なことですね。

坂本さん坂本さん

元々、教えて!ドクターのスタンスも受診の目安をはっきりさせることでした。慌てて救急車を呼ぶことについて「親のリテラシーが低いからだ」と片付ける人がいますが、わからないと不安なのは当たり前です。判断の目安をちゃんと示して、わかりやすく伝えるのが医療者の役割なのではないかと思います。そこは大事にしたところです。

親向けに応急手当ての方法や電話相談窓口も

岩永 直子岩永

最後に窒息した時、溺れた時の応急手当ての方法や、湿潤療法について、保護者向けに詳しいイラスト付きの解説も入れています。命に関わる対処法についてはがっちり説明していますね。

坂本さん坂本さん

保護者の皆さんにはプラスアルファで「なぜそういうことをしないといけないのか」まで書いています。親がわかっていれば、子供から「なんで?」と聞かれた時に、説明できるかなと思いました。

岩永 直子岩永

かゆいところに手が届くなと思ったのは、最後に「迷った時の電話相談窓口」として「#7119」(救急安心センター)や「#8000」(こども医療でんわ相談)も入れているところです。救急車の呼び方も書いてあります。

坂本さん坂本さん

この部分は編集者さんたちが教えて!ドクターの本を参考にしてくださったようです。

岩永 直子岩永

この本はだいたい何歳ぐらいのお子さんが対象なのでしょう?

坂本さん坂本さん

イメージしたのは小学校低学年です。自分たちで読んで対処できる。ただ、その前の年代でも、本を置いてあると小さい子はパラパラめくって読むことがありますね。幼稚園、保育園のお子さんたちも、眺めながら親御さんとコミュニケーションをとってもらいたいですね。

きょうだいに食べ物を与えて起きた事故 子供に伝える大切さを痛感

岩永 直子岩永

次に誤嚥の防止法を伝える『くまのくま子さん』です。くま子さんが赤ちゃんのお世話で疲れたお母さんの代わりに家事を手伝い、料理を作ってくれるお話ですね。どんな食材をどんな形で食べたら安心か子供達に伝えていきます。先生は以前から誤嚥防止については熱心に発信なさっていますね。

坂本さん坂本さん

実はこの絵本は僕から提案した企画です。昔から小児科医として絵本での啓発は絶対にしたいと思っていました。そして、もし作るなら、誤嚥や窒息防止の絵本を作りたいと思っていたのです。

ブドウとかミニトマトを詰まらせる事故で、時々きょうだいが下の子に与えてしまい、窒息してしまう事故も報告されています。こういう事故は近くに親がいても起こります。よく「目を離さないで」と言いますが、事故は一瞬で起き、親が隣にいても起こり得ます。未然に防ぐしかないのです。

だから親だけが知るのではなくて、子供自身に「こういうことに気をつけることが大事なんだよ」と伝えることが必要だとずっと思っていました。

実は昨年、コロナ禍で手洗いの大切さを伝える絵本『ななちゃんのてあらい』を同じ出版社で作っていました。その時につがねちかこさんという絵本作家さんの絵がすごく優しくて良かったので、また一緒に何か作れるといいですね、という話をしていました。

手洗いの大切さを伝えた絵本『ななちゃんのてあらい』も監修している

手洗いの大切さを伝えた絵本『ななちゃんのてあらい』も監修している(撮影:岩永直子)

そして今回、「何かまた作りませんか?」と言われた時、「ぜひ窒息予防の絵本を作りたいですね」と伝えたのです。

「どういうイメージで作りたいですか?」と聞かれたので、「豆をすり潰すとか、果物やトマトは4等分する、ということをなんとか優しく描けるといいですね」と伝えました。それをそのままつがねさんが絵本にしてくださり、本当に嬉しい作品になりました。

食べ物の窒息の7割は豆類

岩永 直子岩永

食材の種類や年齢に応じて、くま子さんが調理方法を変えますね。

坂本さん坂本さん

「どういう食べ物が危ないのかいくつか教えてくれますか?」と聞かれたので、ツルッとした、丸い食べ物は喉につまりやすいと伝えました。

意外に知られていないですけれども、食べ物の窒息の7割は豆類なのです。その多くはピーナツですが、枝豆も小さい子にはリスクのある食べ物として認識した方がいいので、今回は枝豆になりました。ピーナツも枝豆も小さい子には与えるならペースト状にした方がいい。あまり知られていないのでいいかなと思いました。

枝豆を子供も安全に美味しく食べられるようにすり潰すくま子さん

枝豆を子供も安全に美味しく食べられるようにすり潰すくま子さん(撮影:岩永直子)

岩永 直子岩永

節分の時期にも、節分豆を喉に詰まらせないように啓発していますね。何歳ぐらいまで豆やブドウ、ミニトマトなどをそのまま食べない方がいいのでしょう?

坂本さん坂本さん

消費者庁は「固い豆やナッツ類は5歳以下には食べさせないように」としています(※2)。小学校に入るぐらいなら大丈夫だとは思いますが、これは個人差もあります。食べるのが苦手なお子さんや、発達がゆっくりなお子さんは気をつけた方がいいでしょう。

何歳からは大丈夫と書くと、それ以上は完全OKと伝わってしまいますが、それも危ない。
例えば小学生は窒息事故を起こさないのかと言えば、パンの早食いで窒息する事故が起きることがあります。小学校6年生の男の子でも亡くなったケースがありますし、年間に1人か2人亡くなるのですね。

食べ物の窒息事故は「何歳になったら大丈夫」ということはないので、調理の仕方だけでなく、食べ方を食育することが事故予防の意味でも大事です。

※2 出典:消費者庁(Vol.580 硬い豆やナッツ類は5歳以下の子どもには食べさせないで!)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/child/project_001/mail/20220128/

自分の体を知って、自分で守れるように

岩永 直子岩永

最後にシチューを作って、赤ちゃんには野菜をすりつぶしたものを、お子さんたちには小さく切ったものを、お母さんにはごろごろ野菜を、そして最後にくま子さんは、というオチも楽しいですね。笑顔になりながら大事なことを学べますね。

坂本さん坂本さん

ありがとうございます。小児科医は子供の代弁者で、子供たちの健康や安全を守るために保護者の皆さんにどういうことができるかを伝えることが大事だと思って啓発活動をしてきました。

でもゆくゆくは、子供自身が自分の体のことを知って、自分の健康管理や事故の予防をして、自分の体を自分で守ることができるような知識を持ってもらうことが大切です。

こういった本を通じて、子供自身がそうした知識を持ち、その過程を通じて、親の皆さんも改めて子供の健康に関する知識を整理するきっかけにしていただけると嬉しいなと思います。

この記事の監修医師