「PRP療法」の種類とそれぞれの特徴を医師が徹底解説
プロのアスリートも受けることが多い「PRP療法」。近年、注目を集めている再生医療ですが、一口にPRP療法といっても成分の違いによって様々な種類があります。一体、どのような種類があるのでしょうか。今回は、PRP療法の種類ごとの特徴や利点などを、「ひざの痛みクリニック銀座院」の長谷川先生に解説していただきました。
監修医師:
長谷川 良一(ひざの痛みクリニック銀座院)
目次 -INDEX-
PRP療法とは?
編集部
そもそも、PRPとはなんでしょうか?
長谷川先生
PRP(Platelet-Rich Plasma)は「多血小板血漿」のことで、簡単に言えば血液中の血小板を凝縮して活性化したものです。PRPには多くの成長因子が含まれているため、その働きを活用して傷ついた組織の修復を促したり、炎症を抑制したりするのがPRP療法です。
編集部
PRP療法は歴史が長い治療法なのですか?
長谷川先生
いいえ、比較的新しい治療法です。2009年頃に開発された初期のPRPは、採取した血液を1回遠心分離してPRPのみを採取し、患部に注入する方法でした。成長因子(PDGF、FGF、EGF、VEGF,TGF-β)を自然な比率で含む製剤で、抗炎症作用、創傷治癒、組織修復、軟骨造成などの作用が期待されました。ただし、これには血小板のほかに白血球や赤血球が含まれており、注入時疼痛が発生する頻度が高いという問題点がありました。
編集部
その後、改良されたのですか?
長谷川先生
はい。製剤の研究がおこなわれ、注射時の疼痛が少なく、より効果のある製剤が開発されました。これを「濃縮型PRP(ACP)」と言います。これまでのPRPは1回だけ遠心機にかけていましたが、濃縮型PRPは遠心分離を2回おこなっているため、従来と比べて成長因子を2~3倍含んでいます。また、白血球が少ないため、注入時の疼痛発現は抑制されています。
編集部
PRP療法は整形外科の分野における治療なのですか?
長谷川先生
整形外科だけでなく、美容外科の分野でもPRP療法は用いられています。整形外科の領域では、傷んだ組織の修復を速やかに促すことで治癒を目指します。例えば、変形性関節症や腰椎椎間板症、肩腱板断裂、打撲や捻挫をはじめとする怪我など、様々な症状や疾患に用いられます。最近では骨折の治療にも使用され始めています。
PRP療法の種類
編集部
PRP療法は具体的にどのようにして治療するのですか?
長谷川先生
まずは患者さんから採血し、その血液を遠心分離機にかけてPRPを抽出します。このPRPには血小板が高濃度に含まれており、それを患部に注入します。ただし、一口にPRPといっても抽出方法によって色々な種類があるので、注意しなければなりません。また、採血する患者さんの状態によって成分が変わり、例えば不摂生の人や、深酒をした翌日の人の場合、質が落ちることがあります。
編集部
「抽出方法によって色々な種類がある」とはどういうことですか?
長谷川先生
PRPを作成するにはキットや試験管を用いるのが一般的なのですが、このキットや試験管には様々な種類があります。精製されるPRPはそれらによって「どれくらい血小板を含んでいるか?」「どんな成長因子を含んでいるか?」など、内容が異なるのです。
編集部
PRPにはどのような種類があるのですか?
長谷川先生
PFC(Platelet-derived Factor Concentrate)が一例として挙げられます。PFCは血小板に含まれる成長因子を凝縮し、トロンビンや塩化カルシウムを添加し活性化させたものを痛みのある部位に注入するものです。これには、フリーズドライ化されたPFC-FDというセルソース社が特許を持つ製剤と、2021年に同仁がん研究所が開発したフリーズドライ化していないリペアニーズという製剤があります。
編集部
フリーズドライにするのとしないのでは、違いがあるのですか?
長谷川先生
一般に、フリーズドライ化することで、タンパク質が軽度変性する可能性があるとされています。そのため、当院ではフリーズドライ化されていない製剤を使用しています。
編集部
フリーズドライにしたものとしていないものでは、効果も違うのですか?
長谷川先生
PFC-FDはPRPの2倍の成長因子を含んでいるとされていますが、リペアニーズは軟骨造成に関与するPDGF-BBを12倍、血管造成に関与するVEGFを7倍含むことがわかっています。また、最近のデータでは「疼痛を抑える抗炎症作用を有する抗炎症性サイトカイン」ということがわかりました。
編集部
ほかにも種類があるのですか?
長谷川先生
その後もさらに研究が進み、血小板がガラスビーズ玉に接触すると抗炎症タンパクや、成長因子を大量に分泌する性質があることに注目した製剤の開発がおこなわれました。ドイツのZIMMER社は、濃縮型PRPの製造過程においてガラスビーズ玉に2分間接触させて血小板を刺激し、APSという製剤を開発しました。さらにドイツのSANAKIN社は、血小板を37℃で3時間ガラスビーズ玉に接触させることで、疼痛を抑える抗炎症因子が大量に出現したり、3時間を超えるとほかの炎症因子が分泌したりすることに注目しました。そこで、3時間遠心分離をかけるACRS(Autologous Cytokine Rich Serum:自己血サイトカインリッチ血清)を開発しました。ACRSにより成長因子は約5~15倍、抗炎症性サイトカインは約5倍にまで増えると言われています。厚生労働省は医薬品と認可していませんが、ほとんど副作用がなく安全と考えられています。
編集部
再生医療は日々進化しているのですね。
長谷川先生
ACRSは、血小板から徹底的にサイトカインを放出させます。そして、PRPでは放出されない抗炎症性サイトカインを約5倍に増幅します。また、PRPと比べてEGF(上皮成長因子)やFGF(線維芽細胞増殖因子)、抗インターロイキン1と4の受容体に拮抗するインターロイキン1Raとインターロイキン4Raなどの成長因子を数倍~十数倍まで増殖させます。さらに、血液から細胞成分を全て除去することで、サイトカインと成長因子だけを使用することができるなど、PRP療法の発展型「次世代PRP」とも称されています。
PRPやAPSの選択法を解説
編集部
様々な種類があって理解するのが難しいですね。
長谷川先生
- 第一世代 従来のPRP製剤、濃縮型PRP製剤
- 第二世代 PFCなど添加型のPRP製剤
- 第三世代 APS、ACRS
編集部
なるほど、第一世代から第三世代まで進化を遂げてきたということですね。これらを症状などによって使い分けるのですか?
長谷川先生
そうです。障害を受けた部位や症状などに応じて選択します。また、患者さんの年齢や症状の進行度などによっても適合を決定します。
編集部
具体的に、どのような症状にはどの製剤を使うのでしょうか?
長谷川先生
例えば、炎症性の関節疾患やスポーツ障がいなら、抗炎症作用の高い第三世代が適しています。第一世代と比べて第三世代の方が効果は高く、特に優れた抗炎症効果が期待できます。また、再生医療全般に言えることですが、反応率(なんらかの改善がみられること)の個人差がとても大きいという特徴があります。しかし、第一世代に比べて第三世代は非常に反応が良く、「第一世代では6割の患者に反応するのに対して第三世代では9割の患者に反応する」ということもあります。
編集部
そうなると、第三世代を選んだ方が良さそうですね。
長谷川先生
ただし、第三世代は第一世代と比べて治療費が高額という難点もあります。そのため、年齢や症状に応じて選択するといいでしょう。
編集部
具体的にはどう考えればいいのですか?
長谷川先生
「若い人の血液にはもともと成長因子が多く含まれているので、第一世代でも問題ない」「高齢者の血液は成長因子が少ないので第三世代の方が適している」という場合もあります。また、症状が初期かそれ以降かによっても、選択基準が異なってきます。
編集部
必ずしも第三世代がいいというわけではなく、自分に適したものを選ぶのが大事なのですね。最後に、読者へのメッセージをお願いします。
長谷川先生
現在、再生医療は日進月歩の勢いで進化しています。「これまでに再生医療を受けたことがあるけれど、あまり効果が得られなかった」という人もいらっしゃるかもしれませんが、以前にはなかった新しい製剤もどんどん開発されています。そのため、もし保険診療で限界を感じている場合にはぜひとも再度、再生医療にチャレンジしていただきたいと思います。特に現在は高齢者を中心に関節の痛みに悩んでいる人は多く、人工関節の置換術を受ける人も増えています。しかし、安易に人工関節に置換するのではなく、まずは再生医療にトライして効果を見極めてもいいと思います。人工の関節に置き換えると日常の活動で一定の制限が加わります。再生医療の効果により、ぜひご自分の骨や関節で長寿を迎えていただきたいですね。
編集部まとめ
PRP療法が初めて世界で登場してから、急速に製剤の品質は進化しています。膝など関節の痛みだけでなく様々な症状にも適応されるので、保険診療では痛みを改善できないと悩んでいる場合には、再生医療を検討してみてはいかがでしょうか。
医院情報
所在地 | 〒104-0061 東京都中央区銀座5丁目5-18 銀座藤小西ビル4F |
アクセス | 東京メトロ「銀座駅」 徒歩1分 |
診療科目 | 整形外科 |