「出生前診断」の種類・選び方・受けるタイミングを医師が徹底解説
妊娠はとても喜ばしい反面、赤ちゃんに異常はないかという心配も伴います。赤ちゃんの健康状態を調べるには、通常の妊婦検診のほかにも多くの検査があり、受けられる時期も検査によって様々です。今回は、出生前診断の種類や選び方、受けるべきタイミングを「ミネルバクリニック」の仲田先生に解説していただきました。
監修医師:
仲田 洋美(ミネルバクリニック)
出生前検査とは? どんな種類があるの?
編集部
出生前検査とは、どのような検査ですか?
仲田先生
出生前検査とは出生前に胎児の状態を確認する検査で、いくつかの検査方法があります。また、その分類方法も複数あります。例えば、検査が子宮に針を刺すといった「侵襲的」な要素の有無で「侵襲的検査」と「非侵襲的検査」に分けられたり、胎児の病気の可能性がわかる「非確定的検査」と、胎児の病気を確定する「確定的検査」の2つに分けられたりするのです。
編集部
非侵襲的検査には、どのようなものがありますか?
仲田先生
NIPT(新型出生前検査)や血清検査(母体血清マーカー検査・クアトロ検査)、超音波検査などがあります。新型出生前診断とは、母体から血液を採血して赤ちゃんの染色体異常、主にトリソミーの可能性について調べる検査で、母体からの採血のみで完結できる安全な検査法です。
編集部
では、血清検査は?
仲田先生
こちらも採血検査で、例えば妊娠11~13週の間におこなわれる検査では、血清中の「PAPP-A(妊娠関連血漿タンパクA)」と「hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)」を測定します。これらは、もしお腹の赤ちゃんがトリソミーをもっていた場合、値が正常範囲よりも上昇したり低下したりするのです。同様に、妊娠15~17週頃には、一般的に「AFP(アルファ・フェトプロテイン)」「hCG」「非結合型エストリオール(uE3)」「インヒビンA」の4つを測定します。いわゆるクアトロ検査ですね。
編集部
超音波検査についてはいかがでしょうか?
仲田先生
超音波を使って、赤ちゃんの「姿」を確認する検査です。通常の妊婦検診でおこなう超音波エコー検査から、最近の胎児ドックなどで用いられる4Dと呼ばれる詳細なエコー検査まで、様々な超音波検査があります。
出生前検査はどうやって選んだらいい? 受けるタイミングも教えて!
編集部
次に、侵襲的検査の種類について教えてください。
仲田先生
代表的なものとして、「羊水検査」と「絨毛検査」があります。羊水検査は、お腹に針を刺して羊水を採取する検査で、絨毛検査は胎盤の一部である「絨毛」を、針で刺して採取して調べる検査です。
編集部
少し怖そうですね。
仲田先生
そうかもしれませんね。たしかに、針を刺すので妊婦さんの恐怖感もありますし、流産あるいは死産の危険性もゼロではありません。しかし、厚生労働省は病気を確定するための確定的検査として、羊水検査や絨毛検査を挙げています。
編集部
色々あるのですね。どうやって選んだらいいのですか?
仲田先生
NIPTが普及して以来、羊水検査や絨毛検査などの侵襲的検査は「NIPTで異常があった場合にのみおこなう」という流れになっています。とある都内の病院では、NIPTをしていない妊婦さんからの羊水検査の要望には応じていません。まずは母体にも赤ちゃんにもリスクの低い非侵襲的検査をして、異常が考えられた場合に侵襲的検査をおこなうというのは合理的な考え方だと思います。また、NIPTのメリットとして妊娠初期に受けられる点が挙げられます。エコー検査は、初期だとまだ赤ちゃんが小さすぎて得られる情報が少ないので、身体ができてくる中期の胎児エコーをおすすめします。つまり、「妊娠初期はNIPT、中期に胎児ドック」という流れが理想的であると考えます。
編集部
なるほど。「何を受けるか」ではなく、時期ごとに必要な検査を選んでいくのですね。
仲田先生
そのとおりです。妊娠が発覚したら、まずはなるべく早い段階でNIPTを受けてほしいですね。妊婦健診などの超音波検査で妊娠12~13週で赤ちゃんの首の後ろのむくみ(NT)を見て、妊娠18週以降に中期胎児ドックを受ける流れがいいと思います。
編集部
様々な方法で妊娠中から赤ちゃんの健康状態を知ることができるのは便利ですね。
仲田先生
そうですね。医療技術や医学研究の進歩により、妊婦さんは出産前から、たくさんの情報が得られるようになってきています。しかし、「なぜ知る必要があるのか」「知ってどうするのか」という問題もあり、検査を受ける前に知っていただきたいことや考えておいていただきたいことがたくさんあります。
出生前検査を受けるにあたって、私たちが考えるべきこととは
編集部
具体的に、どんなことを考えておく必要がありますか?
仲田先生
まず、出生前検査は胎児の状況を正確に知り、将来の予測を立てて妊婦とパートナーの意思決定を支援することを目的とする検査です。検査を受ける妊婦さん、そして家族やパートナーが「出生前検査がどのような検査か」を正しく理解した上で、検査を受けるかどうかを判断していただきたいのです。また、結果が「陽性」だった場合、パニックになったり、妊娠の継続を望めなくなったりする人もいらっしゃいます。陽性という結果が出ても、落ち着いて納得できる選択ができるよう、出生前検査を受ける医療機関は陽性になったときのサポート体制がどのようになっているかを必ず確認して選びましょう。
編集部
例えば、どのようなサポートがあるのですか?
仲田先生
例えば当院では、陽性だった場合、無料で何度でも相談に乗る体制を取っています。命の決断を迫られ、不安でいっぱいなのにも関わらず「産婦人科医に落ち着いて相談できない、言いたいことが言えない」という声をよく耳にします。そんなとき、出生前診断のトレーニングを受けた臨床遺伝専門医に何度でも話を聞いてもらえるだけでも、少しでも不安が和らぐのではないかと思っています。実際、米国産婦人科学会のガイドラインでは、「胎児染色体異数性のスクリーニング検査結果が陽性であった患者は、遺伝カウンセリングを受け、結果を確定するための診断検査の機会を持つ包括的な超音波評価を受けるべきである」と、カウンセリングの大切さを謳っています。
編集部
医師との信頼関係も重要な要素なのですね。
仲田先生
そう思います。以前、新型出生前検査で「第7番染色体トリソミー」という結果が出た人がいて、「羊水検査は絶対したくない」「妊娠継続するか中絶するか、この場で決めます」と言いました。私はどの選択でも患者さんの自由意思にお任せしていますが、かなり迷われている様子だったので、「私の経験からすると、この結果が本物ならば今ごろ流産していると思います」とアドバイスしました。もちろん、経験則だけでこの言葉をかけたわけではありません。当院では日々、NIPTを受けた患者さんたちのデータをまとめ、それをフィードバックしています。「医学の根本は科学的根拠に基づいているべきだ」というのが揺るがない私の考えです。そして、彼女は羊水検査をせず、何の問題もない子どもを出産し、先日、新しい赤ちゃんの新型出生前検査を受けにきたときは、嬉しい気持ちになりました。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
仲田先生
ときには、医師の口からリスクのあるアドバイスを聞くかもしれません。しかし、私はこれこそが「誰かに寄り添う」ということだと思っていますし、責任のない寄り添い方はできません。医師としてアドバイスするということは責任が伴って当然、リスクがあって当然だと考えています。ぜひ信頼できる医師と出会って、頼っていただきたいと思います。我々も全力で向き合います。
編集部まとめ
今回は、いくつかの種類がある出生前検査の種類や選び方について、解説していただきました。方法や受けられる時期、得られる結果にはそれぞれ違いがあるので、時期ごとに適切な検査を受けていきましょう。また、検査をするにあたって、考えなければいけないこともたくさんあります。出生前検査を受ける人だけでなく、受けない人も何かあったときに、きちんと頼れる医療機関を探しておくのが大切だと思いました。
医院情報
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