片岡沙耶が子宮頸部がんを経験。早期発見予防のためHPVワクチンの重要性を医師が呼びかける
子宮頸部がんは若い女性にとても多く、日本だけで毎年約1万人の女性が発症していると言われています。今回は20代の若さで手術を経験したタレントの片岡沙耶さんが、自らの体験も踏まえて、産婦人科医の田齊志水先生に子宮頸がんの原因や治療法、予防法などを伺いました。
片岡 沙耶(タレント、グラビアアイドル)
2001年から芸能活動を始め、写真集やDVD、CMなどで活躍。現在はデザイナーとしてダウンコートや男性用ボクサーパンツの開発にも携わる。2022年に受けた子宮頸がん検診がきっかけで今年2月に手術(円錐切除術)を経験。
監修医師:
田齊 志水(産婦人科専門医)
順天堂大学医学部卒業後、同大学産婦人科医局に入局、広尾レディースクリニックなどでも経験を積む。婦人科に行くことをためらってしまう女性が少しでも安心して相談できるような医師を志している。
子宮頸部上皮内がんの発覚と治療を振り返る
片岡さん
私は2022年6月に受けた子宮頸がん検診で「怪しい細胞がある」と指摘され、2023年2月に手術も経験しました。
田齊先生
その時のことを詳しく聞かせていただけますか?
片岡さん
当時ピルを服用していたので、産婦人科には定期的に通っていました。そこで担当医に「自治体が行っている子宮頸がん検診があるから、受けてみたら?」と言われ「せっかくだし、受けてみよっかなぁ」くらいの気持ちで検査しました。
田齊先生
そこで引っかかってしまったのですか?
片岡さん
はい。「怪しい細胞があるから、大きな病院に行ってください」と言われました。
田齊先生
どんな気持ちでしたか?
片岡さん
すごくびっくりしました!でも、不正出血などの症状も全くなかったので「ちょっと引っかかっただけかな」「“気になる細胞”ってだけだし」と、軽く考えていました。
田齊先生
子宮頸がんは症状のない方がほとんどです。まれに不正出血や性交時の出血、おりものの変化などが見られる場合もありますが、検診ではじめて指摘される方がとても多いんですよ。
片岡さん
そうなんですね。子宮頸がんについて、もう少し教えていただけますか?
田齊先生
子宮頸がんは、文字通り「子宮頸部」にできるがんです。がんなのですが、原因はヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスによるものがほとんどです。
片岡さん
HPVに感染すると、子宮頸がんになってしまうのですか?
田齊先生
そうとは限りません。HPV自体は、性交経験のある女性のほとんどの方が一度は感染すると言われています。ウイルスに感染しても、約90%の方は自然に排除されますが、一部の方は長期的に感染が続き子宮頸がんとなるのです。
片岡さん
若い女性にとても多いと聞きました。
田齊先生
最近は20〜30代でかかる女性が多くなっています。なかでも片岡さんが診断された子宮頸部上皮内がんは、特に若い方が多いと言われています。
片岡さん
子宮頸がんと子宮頸部上皮内がんの違いを教えてください。
田齊先生
子宮頸がんの前段階が子宮頸部上皮内がんです。子宮頸がんの前段階(前がん病変)を表す「子宮頸部異形成」は、病変の程度によって軽度異形成(CIN1)、中等度異形成(CIN2)、高度異形成と上皮内がん(CIN3)に分けられます。
片岡さん
私も大きな病院で精密検査を受けた時、軽度異形成&中等度異形成と言われました。「異形成が進むと子宮頸がんになるけれど、戻る人もいる」とのことで、しばらく経過観察することになりました。1、2ヵ月おきに通院して検査を続けましたが、軽度&中等度の異形成だったのが、中等度&中等度になり、さらに中等度&高度と、どんどん悪くなっていきました。結局、翌年2月に「戻らないので、手術しましょう」と言われたんです。
田齊先生
経過観察の期間は不安だったでしょう。
片岡さん
ものすごく不安でした。症状もなく自分ではどうしようもないまま「また来月も病院か……」と暗い気持ちで過ごしていました。さらに、検査結果がどんどん悪くなるのも辛くて、最後の方は「戻ることもある、って言われたから待ってるのに!」と自分に対して怒りのような感情も湧いてきましたね。手術が決まった時には「やっとだ!」とスッキリしたくらいです。
田齊先生
手術まではどのように過ごされましたか?
片岡さん
ピルを飲んでいたので、1ヵ月間は断薬しなければなりませんでした。その間はまた不安になってしまって……。手術で取った組織を検査して、がん細胞がないか調べる(病理検査)とも聞いていたので「取って、がんだったらどうしよう……」「転移するようながんだったらどうしよう……」と、何をしていてもそのことばかりを考えてしまうんです。私はもともと、そんなに落ち込んだり不安になったりする方ではないのですが、夜ベッドに入ると涙が溢れてしまうこともありました。
田齊先生
片岡さんの受けた手術は、円錐切除術というものですね。この治療法のメリットは二つあります。一つは子宮を温存し円錐という部分だけを切除するので、将来的な妊娠や出産も可能なことで、もう一つは、切除した組織を調べることができるので、その後の治療計画が立てやすいことです。
片岡さん
ほかにはどんな治療法があるのですか?
田齊先生
手術ではなく、病変部分をレーザーで焼く方法もあります。切迫早産などのリスクがないことや外来で治療できることは良いのですが、病変部分を焼いてしまうので病理検査ができません。このケースは、その後の経過観察が特に大事となってきます。もうひとつは、単純子宮全摘術と言って子宮を摘出する方法です。こちらは今後妊娠を望んでいない方で希望があれば行うことがあり、術後の病理検査も可能です。片岡さんは手術の際はどんなお気持ちでしたか?
片岡さん
もともと病院嫌いで、普段から採血するだけでも迷走神経反射で倒れてしまうくらいなので、不安はありました。加えて、生まれつきの不整脈があるようで、全身麻酔ではなく脊髄麻酔で手術すると言われたんです。インターネットで、円錐切除術の体験談をたくさん読んだのですが、脊髄麻酔で手術した方の体験談はほとんど見つけられませんでした。手術中、眠くなるお薬も使わず、ずっと意識があったので「手術が終わったら、この経験を発信しよう!」と考えていました。
田齊先生
たくましいですね。術後の様子についても聞かせてください。
片岡さん
重めの生理痛くらいの痛みはありましたが、元気でしたね。ご飯ももりもり食べましたし、歩くこともでき、手術の翌日に退院しました。
田齊先生
術後の病理検査はどうでしたか?
片岡さん
切除した細胞を12分割してみると全て高度異形成で、そのうち一か所に微小浸潤があるかもしれないとのことでした。これはとても珍しいことらしく、主治医から「今後の治療方針については、上の先生と相談して決めさせてください」と言われたくらいです。それでも病変は全て取り切れていたので、術後1ヵ月の検診、3ヵ月の検診も問題なかったです。
“初期症状ゼロ”でも早期発見に至り、改めて検診の大切さを考える
田齊先生
現在の体調はいかがですか?
片岡さん
出血は1ヵ月ほど続いていましたが、現在は気になることは全くありません。先生からは「子宮はなんともないけれど、腫瘍マーカー(SCC)がちょっと上がっている。この先も検査を怠らないこと」と言われています。
田齊先生
そうですね。子宮頸がんは検査・検診が本当に大切です。ほとんどの方には症状がないため、発見が遅れるケースが多くあります。そうなると、例えば基底膜という部分を超えて浸潤がんとなってしまい子宮を摘出せざるを得なくなったり、リンパや血液に転移してがんが全身に広がってしまったりする可能性もあるのです。
片岡さん
再発することもあると聞いたので、私も検査は受け続けようと思います。
田齊先生
自治体から2年に1回子宮頸がん検診が無料で受けられたり、費用の助成が受けられたりするクーポン券が送られてきていると思いますので是非活用してください。一人暮らしの方などは、実家に送られているかもしれないので確認してみてください。
片岡さん
子宮頸がんの患者さんを減らすために先生が伝えたいことはありますか?
田齊先生
子宮頸がんという病気を知らない若い方がとても多いと感じています。小学生〜中高生からの性教育が本当に大事ですよね。性的な接触で感染するウイルスが、がんの原因となるということを早期から伝えていかなければと思っています。あとは、ワクチンの接種ですね。
片岡さん
ワクチンも公費で助成されるんですか?
田齊先生
はい。一時期は積極的な接種推奨を差し控えられていたHPVワクチンも、現在は公費で受けることができます。ぜひ、ワクチンについてもっと知っていただけたらと思います。
片岡さん
最初は病院や検査に行くことが億劫だったり、私みたいに病院が苦手で行きたくないなぁ…と思う人も多いと思います。私の周りも「子宮頸がん検診に行ったことがない」「ワクチンも受けていない」という女性がとても多いようです。自分の体や将来、命に関することなので、まずはもっと子宮頸がんの検診や予防法があることを知って欲しいですね。田齊先生、今日はありがとうございました。
編集後記
子宮頸がんは、ワクチンで予防でき早期発見することで完治も可能ながんです。まずは病気について知り、特に若い方やその保護者の方にはぜひワクチンや検診の重要性について、改めて考えていただけたらと思います。