フレイル予防の筋力トレーニングを行うときの注意点は?
自宅で簡単にできる筋力トレーニングは、加齢によって生じる虚弱状態「フレイル」の予防や改善に有効です。また、筋力トレーニングを継続することで身体機能だけでなく認知・精神面への効果も期待できるそうです。一方で、高齢者が筋力トレーニングを行う場合は注意点があります。そこで今回は、安全で有効な筋力トレーニングの方法について、鹿児島大学特任研究員で健康運動指導士の立石麻奈先生に解説していただきます。
著者:
立石 麻奈(健康運動指導士)
共著者:
牧迫 飛雄馬(理学療法士)
フレイルと筋力トレーニングの関係について知る
編集部
筋力トレーニングとはどのような運動のことを指しますか?
立石先生
筋力トレーニングとは、筋肉に中〜強の負荷(抵抗)をかけながら筋力の増強を図るトレーニングです。具体的には、「骨格筋出力の増強を目指すもの」「筋持久力の向上を目指すもの」「筋肥大を目指すもの」が筋力トレーニングになります。若者やアスリートなどが行う筋力トレーニングは、無酸素運動が中心になった超高強度運動が一般的です。一方、健康増進を目的とした筋力トレーニングでは、呼吸を続けながら中〜強の負荷をかけ、骨格筋の増強を目指す運動が一般的です。
編集部
筋力トレーニングがフレイルに与える影響について教えてください。
立石先生
フレイル状態になると足腰の筋力の衰えを伴う場合が多く、転倒や骨折、活動性の低下を招く恐れがあります。筋力トレーニングには骨格筋の増大、骨格筋出力の増強、骨密度の向上、基礎代謝の向上といった効果があります。そのため、筋力トレーニングを積極的に取り入れることで足腰の筋力の衰えを予防・改善する可能性があります。
編集部
筋力増加以外にも、筋力トレーニングのもつ効果はありますか?
立石先生
筋力トレーニングにより身体活動量が増えると、交友関係の広がりや趣味活動に参加するなどの副次的な効果も期待できます。そのため、運動は身体的要素のみでなく社会面や精神面におけるフレイル予防にとっても、良い影響を与えます。
効果的な筋力トレーニングの方法とは?
編集部
フレイル予防に有効な筋力トレーニングにはどのような種類がありますか?
立石先生
筋力トレーニングの種類には、主に自重(特別な器具は使わない)で行うもの、トレーニングジムなどにあるようなマシンを活用して行うもの、道具(ダンベルなど)を活用して行うものがあります。さらに、多関節(複数の関節)を動かして行う種目(例:椅子立ち座りなど)と単関節(ひとつの関節)を動かして行う種目(例:ダンベルを持った肘の曲げ伸ばしなど)もあります。
編集部
筋力トレーニングの効果的な強度や頻度はありますか?
立石先生
筋力トレーニングの効果的な強度や頻度には個人差があるので、健康状態を考慮して強度や頻度を設定する必要があります。一般的に、フレイル予防の筋力トレーニングでは怪我を予防するためにも徐々に負荷を増強させることが重要です。はじめはかなり楽であると感じる程度から、きつい、かなりきついと感じる負荷まであげましょう。反復回数は8~12回、頻度は週2~3回の実施が推奨されています。
編集部
そのほかに、フレイル予防における筋力トレーニングのポイントはありますか?
立石先生
フレイル予防における筋力トレーニングのポイントは「適度な負荷」での「継続」になります。筋力トレーニングを実施すると、骨格筋の出力が増強して骨格筋の肥大が起こると言われています。しかしながら、そのあと運動休止期間が続くと、筋力・骨格筋量ともに元の状態に戻るとも言われています。したがって、筋力トレーニングで効果を出すためには、短期間ではなく長期間にわたり継続的に行っていくことがとても大切です。
筋力トレーニングの注意点とは?
編集部
筋力トレーニングを始める際に注意点などはありますか?
立石先生
ご自身の健康状態を考慮して、筋力トレーニングを実施することが重要です。運動前の準備として、血圧を測定して血圧が正常の範囲内であること、身体に過度な痛みがないことを確認して、無理のない負荷からトレーニングを進めていくとよいでしょう。さらに、準備運動で体を温め、ストレッチにより関節を動かして可動性を広げることで、怪我の予防やより効果的なトレーニングの実施につながります。
編集部
実際に筋力トレーニングをする際の注意や中断すべきタイミングなどについて教えてください。
立石先生
強い疲労感や身体の痛みを感じるときは、筋力トレーニングの実施を避ける必要があります。違和感があるときは専門家へ相談して、負荷や回数を調整して実施しましょう。また、筋力トレーニング中に息を止めてしまうと血圧が上昇してしまう可能性があります。できれば筋力トレーニング中はゆっくりと呼吸を続けて、安全に実施できるようにしましょう。
編集部
筋力トレーニングをしてはいけない条件や禁忌事項はありますか?
立石先生
痛みなど強い不快感が生じているときや、安静時より過度な血圧・脈拍上昇が認められるとき(収縮期血圧180mmHg、拡張期血圧110mmHg、脈拍100拍/分)は、筋力トレーニングを避けましょう。持病を有する方やトレーニング初心者は、かかりつけ医や専門家の指示のもとで実施の可否や負荷の調整を行ってください。また、必要があれば筋力トレーニングを避けて、別のトレーニングメニューに変更しましょう。
編集部まとめ
今回は、フレイル予防に効果的な筋力トレーニングの種類や頻度について教えていただきました。フレイルの予防や改善を目的とする場合は、強い強度ではなく適切な強度のトレーニングを継続可能な範囲で運動を行うことが大切です。一方で、持病をお持ちの方やトレーニング初心者の場合は、運動を開始する前に専門家に相談してから運動を始めるようにしましょう。