糖尿病の運動で気をつけることは? 低血糖やケトアシドーシスなどの危険予防法
糖尿病には危険な合併症があることをご存知でしょうか? 低血糖やケトアシドーシスと呼ばれる合併症はどのような状態を指し、何が原因で起こるのでしょうか。これらの合併症は、原因や兆候、対処法を知っていることで防ぐことができ、重症化を予防できるかもしれません。今回は、急性合併症について、原因から対処方法までを理学療法士の相澤さんに詳しく解説して頂きました。
監修理学療法士:
相澤 郁也(理学療法士)
低血糖の原因と症状
編集部
はじめに低血糖とはどのような状態なのか教えてください。
相澤さん
低血糖とは、血糖値が70mg/dL以下になった状態のことを指します。低血糖は意識障害などにより命に関わる可能性があります。また、糖尿病の合併症を増悪させる因子でもあるため、低血糖症状についての知識を得て、低血糖の予防はもちろん、低血糖を起こしてしまった時に、可能な限り早く対処をおこなえるようにしておく必要があります。
編集部
低血糖はどのようなことがきっかけで起こりますか?
相澤さん
低血糖は、食事・服薬・運動により働く作用のタイミングが悪いことがきっかけで起こります。食事を摂取(主に糖質の摂取)することで血糖値が上昇しますが、糖尿病の薬の中でも、体内に直接インスリンを注入するインスリン製剤や、経口摂取薬(口から摂取する薬)のSU薬・グリニド薬は、服薬後比較的すぐに血糖値を低下させます。さらに運動は、筋肉が動く時にエネルギーとして糖を利用するため、血糖値を低下させます。これらの作用のタイミングが悪いと低血糖が起こりやすくなります。例えば、インスリンを打っている方が、糖質を摂取していないタイミングで運動を実施した場合などですね。
編集部
低血糖の兆候や危険信号はありますか?
相澤さん
70mg/dLでは、空腹感やあくび、めまい、発汗(冷や汗)、動悸(頻脈)、ふるえ、顔面蒼白などといった自律神経の症状が出ます。50mg/dLより下がると、中枢神経の症状が出現し、眠気や脱力感、集中力の低下などが起こり、30mg/dLでは、意識障害や昏倒、けいれんなどが起こります。高齢者(65歳以上)の方は、ここに挙げたような自覚症状がわかりづらくなっているため、特に注意が必要です。
ケトアシドーシスの原因と症状
編集部
ケトアシドーシスについても教えてください。
相澤さん
ケトアシドーシスは、糖尿病患者にみられる急性合併症の1つです。高血糖、高ケトン血症(血液中のケトン体が高い状態)、遊離脂肪酸(血液中の遊離脂肪酸が多い状態)、代謝性アシドーシス(身体の代謝によって血液が酸性に傾いた状態)、脱水などを引き起こし、血圧低下、頻脈、深くて大きい呼吸などが出現します。進行すると昏睡状態となるため、注意が必要な合併症です。
編集部
ケトアシドーシスはどのようなことがきっかけで起こりますか?
相澤さん
インスリンを分泌する力の弱まっている方が、インスリン注射を中断してしまった時や、感染によってインスリンを利用する体内の働きが弱まったり、血糖値を上昇させるホルモンの働きが強くなったりすることがきっかけで起こります。また、清涼飲料水を多く飲むことで起こる場合もあります(ペットボトル症候群)。
編集部
ケトアシドーシスの兆候や危険信号は何かありますか?
相澤さん
喉の乾きや多尿、全身の倦怠感などの症状に始まり、続いて呼吸困難や吐き気、嘔吐、腹痛、意識障害などが起こります。また、ケトン体の1つであるアセトンという物質が、尿の中や吐いた息と一緒に出て、“アセトン臭”と言われる甘酸っぱい臭いを出す場合もあります。
低血糖やケトアシドーシスの予防法
編集部
運動前にするべき準備や注意点は何ですか?
相澤さん
運動をおこなうと、筋肉はエネルギーとして糖を利用し、血糖値を低下させるため、低血糖を引き起こす可能性があります。そのため、運動をおこなうことによって、低血糖を起こしやすい状況になっていないか注意して運動を開始する必要があります。例えば、血糖値が低下しやすい薬を服用しているのか、食事でしっかりと糖質を摂っているかなどを把握しておくことが重要です。また、空腹時の血糖値が250mg/dL以上であったり、血中のケトン体が高い状態で運動を実施したりすると、糖の代謝が悪化するため注意が必要です。このような場合には、食事療法と薬物療法で血糖値をコントロールしたうえで運動をおこないます。自分が運動をしても良い状態かどうか不安があれば、かかりつけ医などに確認をしてからおこなうと安心です。
編集部
運動中や運動後にできる対策やチェックポイントは何ですか?
相澤さん
運動中はもちろんですが、運動によって糖を利用する効果は運動後にも続いています。したがって、運動中と運動後、どちらも低血糖への対策が重要です。いつもの運動時と少しでも違う症状はないかをチェックしながら運動をおこなうことが大切です。さらに、自覚症状が出ないまま、低血糖に陥っている可能性もあるため、自己血糖測定器を利用している場合には、こまめに測定をおこなうことをおすすめします。
編集部
低血糖やケトアシドーシスが起こった場合、どうすれば良いですか?
相澤さん
低血糖が起こった場合には、①すぐにブドウ糖10gや砂糖20g(*α-グルコシターゼ阻害薬を飲んでいる場合には必ずブドウ糖)、またはブドウ糖を含むジュース・清涼飲料水を150〜200ml摂取する②低血糖の症状を感じてから食事まで1時間以上ある場合、ブドウ糖などを摂ってから、さらにおにぎり1個などの軽食を摂取する③症状が回復しない時や低血糖が繰り返し起きる時はすぐに医療機関に相談してください。ケトアシドーシスが起こった場合には、輸液によって、水分とナトリウムを補充する必要があります。また、電解質の補正、適切なインスリンの投与によって高血糖とアシドーシスを是正することが必要です。早急に処置が必要になりますので、気になる症状があったときには早めに受診をしましょう。
編集部まとめ
今回は、糖尿病患者が気をつけるべき急性合併症について詳しく教えて頂きました。低血糖は、食事・運動・服薬のタイミングを適切に調整することで防ぐことができる可能性があるとのことでした。また、ケトアシドーシスは、喉の乾きや倦怠感に始まり、重症化すると呼吸困難や意識障害を引き起こす怖い合併症とのことです。それぞれの症状や対処方法を知っておくことで、重症化を防ぐことができるのだと理解しました。