「塩分のとりすぎ」が体に悪い理由とは 摂取の目安や減塩方法についても医師が解説
「塩分をとりすぎると血圧が上がる」という事実については、多くの方が知っているでしょう。しかし、塩分をとりすぎるとどのようなメカニズムで血圧が上がるのかご存知の方は少ないと思います。そこで今回は、高血圧をはじめとするさまざまな病気と塩分の関係、またそれを予防するための食生活について、石黒先生(いしぐろ在宅診療所岡崎)にMedical DOC編集部が取材しました。
監修医師:
石黒 剛(医療法人白青会 いしぐろ在宅診療所岡崎)
目次 -INDEX-
なぜ塩分のとりすぎ・塩分過多で血圧が上がるのか“塩分摂取”と“血圧上昇”の関係を医師が解説
編集部
塩分をとりすぎるとなぜ高血圧になるのでしょうか?
石黒先生
塩分のとりすぎによって血液中の塩分(ナトリウム)濃度が上昇すると、血液の浸透圧を一定に保つため、すなわち血液中の塩分濃度を薄めようとするため、血管の中の血液量が増え、血圧が上がると言われています。また、血液中のナトリウムは腎臓によって体の外に排泄されますが、塩分を多くとると、腎臓にある交感神経が刺激され、それに伴い塩分の排出が抑制され、さらに血圧が上がるという悪循環に陥ることがわかっています。
編集部
減塩をすることで血圧は下がるのでしょうか?
石黒先生
減塩は高血圧の発症や死亡のリスクを下げることが示されています。ただし、効果には個人差があります。高血圧患者の20〜40%は減塩により比較的速やかに血圧が下がった一方で、残りの人は減塩をしても血圧はすぐには下がらなかったという報告もあります。これは、塩分に反応しやすい「食塩感受性高血圧」であるか、反応しにくい「食塩非感受性高血圧」であるかによって異なります。「食塩感受性高血圧」の人は、血圧の心臓や血管への負担が大きく、「食塩非感受性高血圧」の人と比べて心疾患・脳血管障害の発症リスクが2倍以上になると報告されています。
編集部
「食塩非感受性高血圧」の人は、減塩をする必要がないということですか?
石黒先生
「食塩非感受性高血圧」であっても、減塩が有効であることには変わりません。どちらのタイプであっても、減塩によって高血圧発症のリスクや死亡率が下がることが示されています。ただ、自分がどちらのタイプかは調べることができませんし、食塩感受性が一生変化しないものかということもまだ解明されていません。また、塩分のとりすぎだけで高血圧になるというわけではないので、肥満や喫煙、飲酒、ストレスなど、生活習慣全体の改善を通して健康を維持する必要があります。
編集部
高血圧の予防・改善には、減塩を含む生活習慣の改善が有用ということですね。
石黒先生
高血圧は「サイレントキラー」と呼ばれることもあり、自覚症状を引き起こさないまま命を脅かすことで有名です。慢性的な高血圧は動脈硬化を引き起こし、脳卒中や心筋梗塞など致命的な病気の原因となり得ます。減塩に加えて、適正体重の維持や禁煙、減酒など、生活習慣全体を改善し、病気を予防していくことが重要です。
高血圧以外にもある塩分のとりすぎが招く病気・症状 “むくみ”から“胃がん”など命に関わる病気も
編集部
高血圧のほかに、塩分のとりすぎが体に及ぼす悪影響にはどのようなものがあるのでしょうか?
石黒先生
塩分のとりすぎが引き起こす身近な症状としては全身のむくみ(浮腫)があります。前述の通り、血液中の塩分濃度が高まると、体がそれを薄めようとして全身の血液量が増加し、むくみを生じさせます。
編集部
血液の中の塩分濃度が問題となるのですね。
石黒先生
そうですね。また、血液中の塩分量が多いと、体は腎臓から体の外に塩分を排出しようとし、結果的に腎臓に大きな負荷がかかります。腎臓への負荷が長期に渡った場合には慢性腎臓病(CKD)を発症することがあります。腎臓の機能は一度大きく低下すると、それを元通りにすることは難しく、人工透析や腎臓移植が必要になるなど、生活に大きな影響を及ぼすところまで進行してしまうこともあります。
編集部
塩分のとりすぎはナトリウム以外のミネラルの代謝にも影響するのでしょうか?
石黒先生
塩分のとりすぎは体のカルシウム排出量とも関係しています。塩分摂取によりカルシウム排出量が増えると、カルシウム不足を補うため骨からカルシウムが溶け出し、骨粗しょう症の一因になることが知られています。また、カルシウムは腎臓を通して尿中に排泄されるため、カルシウム排泄増加は尿路結石のリスクを上昇させることにもなります。
編集部
塩分過多はがんの発症にも関わっていると聞いたのですが本当ですか?
石黒先生
塩分摂取量は胃がんの発症とも関係があると言われています。塩分をとりすぎると胃の中の塩分濃度が高まり、胃の壁を保護している粘液を剥がしてしまいます。これにより胃粘膜が発がん物質の影響を受けやすくなります。加えて、胃がんの原因となる細菌であるヘリコバクター・ピロリの感染も起こりやすくなり、胃がんのリスクが上昇することもわかっています。
塩分のとりすぎを防ぐ・塩分過多予防のポイントを解説 1日の塩分摂取量の目安や減塩の工夫・摂取すべき栄養素は?
編集部
塩分の摂取量の目安はどれくらいなのでしょうか?
石黒先生
参照:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/syokuji_kijyun.html
編集部
具体的に、控えた方が良い食品などがあれば教えてください。
石黒先生
食品名 | 食塩相当量 |
しょうゆ(小さじ1杯) | 0.8g |
食パン(5枚切り1枚) | 0.9g |
ロースハム(3枚 45g) | 1.1g |
即席うどん(1杯) | 5.3g |
しょうゆラーメン(1杯) | 6.3g |
参照:文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」
https://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/mext_01110.html
編集部
塩分を控えた食事を美味しく食べるコツはありますか?
石黒先生
塩分の少ない食事はどうしても物足りなさを感じてしまいます。代替策として、だしを用いた「うま味」を効果的に用いること、唐辛子やコショウなどのスパイス、ハーブや薬味などの香りで味に変化と深みをつけることを心がけると良いと思います。また、「とろみ」のある食事は舌に触れている時間が長くなるので塩分が少なくても満足感を感じやすいと言われています。
編集部
最後に、MedicalDOC読者へのメッセージがあれば。
石黒先生
減塩は様々な病気の予防に効果がありますが、日本で暮らす私たちにとっては意識をしていないと実行することがなかなか難しい習慣です。塩以外の調味料をうまく用いて、健康的な食生活を習慣づけられると良いですね。
編集部まとめ
塩分のとりすぎによって起こるさまざまな病気は、減塩によってリスクを大きく下げることができます。外食や加工食品などの「見えない塩分」に注意し、おいしく食べられる工夫をしながら食生活を改善していきたいですね。
医院情報
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