血液透析中や透析後の不快な症状、その原因と対処法を解説
血液透析時に感じる、ふらつきや四肢のひきつりなど。もしかしたら「透析を受ける以上、仕方のないこと」と諦めていませんか。もし、こうした症状の原因がわかれば、対処の方法があるはずです。今回は、詳しいお話を「医療法人社団大坪会 東和透析クリニック」の大坪先生に伺いました。
監修医師:
大坪 茂(東和透析クリニック)
不快な症状の原因は、一時的な低血圧のことがある
編集部
血液透析中にめまいや眠気、生あくびなどが起きることがあると聞きました。
大坪先生
はい。それは血圧が下がりすぎたためだと思われます。血液は酸素を運んでいますので、血圧が低下すると血流量が不足して脳が酸欠状態となり、めまいや眠気、ひどいと意識障害をきたすことがあるのです。透析中に血圧を測定するのは、こうした症状を未然に防ぐためでもあります。
編集部
めまいや眠気、生あくびは血圧低下の危険なサインなのですね。血圧についてもう少し詳しく説明をお願いします。
大坪先生
わかりました。簡単に言うと、「心臓から送り出された血液が血管を内側から押す力のこと」を血圧と言います。血圧を左右する要因は2点あり、「心臓が押し出す血液の量」と「血管抵抗」で決まります。例えば、ホースに水を大量に流すとホースにかかる圧は上昇し、勢いよく水が流れますよね。これが「心臓が押し出す血液の量」に相当します。これは体内の血管の中を流れる循環血液量が増加するに従い増加していきます。一方、ホースの先をしぼり、狭窄を作ると、圧が高くなります。こちらが「血管抵抗」のイメージで、動脈硬化があると柔軟に膨張できないことも相まって、血圧が上がります。
編集部
ではなぜ、透析中に血圧の下がることがあるのでしょうか?
大坪先生
血液透析では血管の中の血液内の水分を取り除くからです。腎臓が悪くなると十分な尿が排泄できなくなり、「血管の中の血液の量」が増加し、血圧が上がります。そして、透析でこの血管の中の余分な水分を過剰に取り除いた結果として、低血圧を引き起こすことがあるのです。その一方、余計な水分は、血管外にも蓄えられています。透析によって血管の中の水分が減少していくと、足などにむくみとして蓄えられた水分は血管の中に引き込まれていきます。そうして、むくみが改善していきます。また、神経の作用で血管を収縮させ、血管の抵抗を増やし、血圧を保とうともします。
編集部
血管の外の水分を引き込むので、必ずしも低血圧状態にはならないということですか?
大坪先生
はい。透析によって血圧が下がる要因として、「血管内の除水スピード」と「血管の外の水分を血管の中に引き込むスピード」を比較したとき、引き込むスピードが除水スピードに追いつかないことが挙げられます。とくに、神経による血管の反応性の収縮がうまく作用しない場合は血圧が下がりやすくなります。また、血管の外に余分な水分がないにも関わらず血管内の除水を続けると、引き込むスピードが落ち、血圧が下がります。血管の反応性の収縮は、糖尿病による神経障害や動脈硬化などがあると、うまく働かなくなることがあります。
低血圧症状の対処法
編集部
低血圧の症状を起こさないようにする対処法には、どのようなものがありますか?
大坪先生
「体液量が適正で、透析中に過度の血圧低下を生じることなく、かつ長期的にも心血管系への負担が少ない体重」をドライウェイトと言います。透析後の目標体重に関与しますが、そのドライウェイトの設定が低すぎて、除水しすぎると、血圧が下がります。それゆえに、適切なドライウェイトの設定が極めて重要です。ドライウェイトの適正値は、患者さんの体調や食事内容などに応じて、透析ごとに見直していきます。夏場は痩せて、冬場は太るなど、季節によって変わる場合もあります。
編集部
ドライウェイトはどうやって判断していくのでしょうか?
大坪先生
透析中の血圧が低下する場合は、除水過剰でドライウェイトの設定を上げた方がいい可能性があります。透析後半や透析後に下肢つり、ふらつき、耳閉感、耳鳴りといった症状が出現する場合も同様に上げた方がいいかもしれません。検査としては、心臓の大きさを胸部X線写真で見る方法があります。「血管の中の血液の量」が多ければ、心臓は通常より膨れています。また、エコー検査なども併用することがあります。もう1つは、血中の「利尿を促すホルモンの量」を測る方法です。体内の水分が多ければ、「オシッコをつくれ」と命じますから、そのサインの程度を血液検査で確認します。一例として、ANPというホルモンの透析後の目標値は、血液1mlあたりだいたい40~60pg(ピコグラム)です。もっとも、ANP値は心臓の病気によっても変動しますから、総合評価が必要です。
編集部
しかし、血圧は血管外からの水分の取り込みでも変わるのですよね?
大坪先生
そのとおりです。ですから、透析の除水スピードと取り込みのスピードのバランスを見ることも大切です。取り込みのスピードが追いつかないと、「体はむくんでいるのに血圧が下がってしまい除水できない」という事態になりかねません。これを防止するには、除水のスピードを緩めて、あえて時間をかけて透析する「長時間透析」という方法があります。しかし、患者さんの自由時間を、より長く拘束してしまう欠点があります。
編集部
時間の拘束を嫌がる患者がいるかもしれませんね。続けて、血圧を安定させるほかの方法についても教えてください。
大坪先生
普段の生活で塩分や水分の摂りすぎによる“過度な”体重増加を防ぐことも重要です。体内に余計な水分を蓄えさせない方法とも言えるでしょう。塩分を摂取するとその分、水分も蓄えられます。また、塩分の濃い食事は水を飲みたくなりますから、塩分制限が欠かせません。
引くのと同時に、引きすぎないことも大切
編集部
今まで見てきた項目は、医療従事者がチェックしているのですか?
大坪先生
はい。色々な検査をしているのは、これらのリスクを避けるためでもあります。ぜひ、ご理解ください。また、透析を受ける間隔は「中2日」の場合と「中1日」の場合があります。休み明けの「中2日」で体内の水分量が多ければ、無理せずにドライウェイトより少し残し、週末にかけて引ききるといった方法も考慮します。また、血圧低下に対し、いろいろな手法・機器が開発されてきました。
編集部
例えば、どのような方法でしょうか?
大坪先生
実際に血圧が下がり過ぎた場合は、補液をおこなって血管内の水分を補います。10%塩化ナトリウムという濃い塩分を注射することで血中の塩分濃度を高め、血管の外の水分が血管の中に引き込まれやすくすることもあります。また、透析液の温度調整も考慮します。低温の透析液を用いれば、血管は収縮して低血圧が起こりにくくなります。さらに透析方法の面で言うと、継続的に大量に補液をおこないながら透析をおこなう「オンライン血液透析濾過(on-line HDF)」という方法や、一定時間ごとに補液をおこないながら透析をする「間歇補充型血液透析濾過(I-HDF)」という方法も使われるようになってきました。興味がございましたら、どのような方法の透析が可能か、お通いの医療機関に問合わせてみてください。
編集部
もし、冒頭のような低血圧の症状があったら、事前の診察時に申告しておくべきですか?
大坪先生
ぜひ、お伝えください。検査では、把握できないこともあります。「多少ふらつくのが当たり前」だと思って諦めず、スタッフにお伝えください。ドライウェイトの設定を変えるだけで解決する場合もあります。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
大坪先生
透析中、血圧が下がる原因として、血圧を下げる薬の影響や透析の際に使用する抗凝固剤や透析の膜に対するアレルギー反応などもあります。しかし、多くの場合が、除水速度が速いか、ドライウェイトの設定が低いためです。季節や食事量、運動量によって、患者さんの真のドライウェイトは毎日変化しており、ドライウェイトの設定が適切かどうか各透析の都度、評価し直すことが大切です。透析後半や透析後に下肢つりやふらつき、耳閉感、耳鳴りといった症状が出た場合は、ドライウェイトの設定が厳しい可能性がありますので、スタッフにご相談ください。
編集部まとめ
不適切なドライウェイト設定には、「水分を引きすぎるリスク」があるとのことでした。そして、透析中の血圧低下には「血管内の除水スピード」と「血管の外の水分を血管の中に引き込むスピード」のバランスが重要とのことでした。もし、透析中に不調を感じたら、遠慮なく申し出てみましょう。患者さんを元気にすることが透析治療の本質です。
医院情報
所在地 | 〒120-0003 東京都足立区東和4-12-3 |
アクセス | JR常磐線「亀有駅」 徒歩15分 |
診療科目 | 人工透析内科 |