人工透析をやめたら何日もつの? 「受けない」という選択肢はあるの?
監修医師:
吉田 啓(ひらくクリニック)
腎機能の低下によって生じること
編集部
人工透析が必要とされるのは、どのような人なのでしょう?
吉田先生
腎不全により、体内の水分・塩分・毒素などが調節できなくなった方です。腎機能が正常の10%以下になると、腎臓移植か透析を必要とします。腎臓には細い血管が集まっていて、体に不要なものを尿へ排出しているんですね。腎不全は、この血管の機能が落ちてきた状態といえます。血管の表面をザルに例えるとしたら、目が詰まったようなイメージです。
編集部
必要な人が人工透析を受けないと、どうなるのですか?
吉田先生
水分がたまると、全身にむくみが生じてきます。また、肺や心臓の中にも水分がたまり、機能障害を生じさせることがあります。塩分が出なくなることで懸念されるのは、高血圧でしょう。より血管が硬くなるので、悪循環に陥ります。毒素は食べ物の「燃えかす」のようなもので、古くなったエンジンオイルと同様、老廃物を抱え続けてしまいます。
編集部
やむを得ず中断する場合、どれくらいなら大丈夫ですか?
吉田先生
3日間透析を受けないと、何かしらの息苦しさや不快感を覚えてくると思います。また、たまった水分により、1日あたり体重が1キロから2キロ増えます。中断するにしても、ギリギリの線で1週間。ただし、その後の透析が大変です。回数や頻度を増やすしかありません。2週間以上の中断は、命の保証をしかねます。
編集部
人工透析がなかった時代はどうしていたのでしょう?
吉田先生
血液をキレイにする方法そのものがありませんでした。したがって、全身のむくみや顔の黒ずみなどを起こしている方が数多くいらっしゃいましたよね。また、心臓に水がたまることで心不全を起こし、死に至るケースもありました。心臓のポンプが過剰に膨らみすぎると、収縮しづらくなるからです。肺に水がたまった場合は、呼吸を困難にさせます。
編集部
認知症患者など、自分で人工透析を受けられない場合は?
吉田先生
周囲の協力が欠かせません。苦しそうにしていたら、腎機能障害の有無にかかわらず、医師の診断を受けさせてください。ご高齢者でお一人での外出が難しい方も同様です。また、別の病気で入院が必要な場合、透析治療の有無を確認しましょう。透析条件は患者さんごとに異なりますが、主治医の指示さえあれば、他院でも対応できます。
あえて人工透析を「受けない」という選択肢はありえるのか
編集部
人工透析以外の治療法があったら、教えてください。
吉田先生
腎臓移植が考えられるものの、日本では提供者に恵まれないケースもあり、なかなか定着していないようです。一方、通院がネックなのであれば、血液透析でなく腹膜透析という選択肢もあります。ご家庭で、胃や腸などを包んでいる腹膜に新しい透析液を入れ、汚れた透析液と交換する方法です。
編集部
やはり、通院が血液透析のネックになるのでしょうか?
吉田先生
はい。時間的な拘束を受けますからね。週3回の通院に加え、透析治療が一生涯続くという不安、治らないということに対するショックなど、さまざまなストレスを抱えていらっしゃると思います。
編集部
患者から透析中止を申し出ることはあるのですか?
吉田先生
人工透析はある種の延命措置です。患者さんとそのご家族が透析中止に納得していれば、その意思を尊重することもありえるでしょう。日本透析医学会でも、主に高齢者へ向けた指針を整備しているところです。
編集部
国の動きについて補足がありましたら。
吉田先生
厚生労働省は先頃、今後10年間の腎疾患対策の指針となる「腎疾患対策検討会報告書」を全国に通知しました。新規透析導入患者数を、早期発見や重症化予防の徹底などにより、2028年までに年間約4000人減らしていこうという内容です。
人工透析へ至らないために必要なこと
編集部
腎機能を維持するには、どうすればいいでしょう?
吉田先生
腎臓にとって最大の敵は糖尿病、その次が高血圧や高コレステロールです。これらはすべて、血管の敵でもあります。適度な運動や栄養バランスの取れた食事、規則正しい生活リズムなど、いわゆる生活習慣病対策を心がけてください。なお、腎臓が悪くなるスピードは、薬で遅くすることができます。したがって、腎疾患に関しては早期発見が最も重要です。
編集部
何に気をつけていれば自覚や早期発見ができますか?
吉田先生
健康診断を定期的に受けている方なら、尿検査の結果などで指摘されるはずです。健診を受けていない方の場合、「尿の泡立ち」がひとつの兆候です。たまになら構いませんが、ずっと続いているようなら、腎機能の低下で尿にタンパクが出ているかもしれません。また、尿に血が混ざっている方も要注意です。
編集部
最後にメッセージがあれば。
吉田先生
我々医療従事者としては、なるべくリラックスできるような設備環境や、腹膜透析といったストレスの少ない治療方法を整備しています。とはいえ、血管の病気や腎疾患は予防が可能ですから、日ごろの生活に留意してください。
編集部まとめ
慢性の腎不全は、原則として回復が見込めません。そして、寿命に直結する症状でもあります。「透析を受けない」という選択肢は、通常なら考えられないでしょう。ほかの病気などで余命が限られた場合にのみ、ご家族と話し合って決断するものだと思われます。肝心なのは、腎不全に陥らないこと。腎不全の原因となる高血圧、糖尿病などの生活習慣病にならないよう、健康管理に取り組みましょう。
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