妊娠中に下肢静脈瘤になったら治療は可能? リスクはある?【専門医に聞く】
足の血管がコブのように膨らむことでも知られる下肢静脈瘤。ただし、血管がコブ状に浮き出る前に足のだるさなどが出る人もおり、症状には個人差があるそう。悪性ではないとはいえ、足のだるさやむくみなどが慢性化するため、治療を急ぐ人も多いでしょう。しかし妊娠中に見つかった場合は治療が可能なのでしょうか? 妊娠中の治療におけるリスクなど、湘南平塚下肢静脈瘤クリニックの秋好先生に話を聞きました。
監修医師:
秋好 沢林(湘南平塚下肢静脈瘤クリニック)
下肢静脈瘤とは? どんな自覚症状がある?
編集部
下肢静脈瘤とはどのような病気ですか?
秋好先生
下肢静脈瘤は静脈に発症する疾患の一つです。太ももやふくらはぎの血管が太くなって、ぼこぼことコブ状に浮き出て見えるようになったり、血管がコブ状に浮き出る前に足のだるさなどが出たり、症状には個人差があります。
編集部
具体的にはどんな自覚症状があるのですか?
秋好先生
・足の血管が浮き出る、コブ状になる
・ふくらはぎがだるい
・足がむくむ
・足がつる
・足が重い
・足がむずむずする、不快感がある
・足がかゆい
編集部
さまざまな症状があるのですね。
秋好先生
はい。症状は個人差が大きく、必ずしも足の血管が浮き出たり、血管がコブ状になったりするわけではありません。また、足がむくんだり、だるかったりするのは、日常的によくある症状です。そのため、下肢静脈瘤は見過ごされやすいのです。
編集部
症状が進行するとどうなるのですか?
秋好先生
進行すると皮膚炎や潰瘍を招くことがあります。また、ふくらはぎに茶色いシミができることもあります。
編集部
タチの悪い疾患ではないのですか?
秋好先生
命のリスクになるようなことはありません。しかし、放置すると足のだるさやむくみが常時続くことになり、QOLを低下させてしまう一因になります。
編集部
どんな人が発症しやすいのですか?
秋好先生
・高齢者
・妊娠出産を経験した女性
・立ち仕事の人
・肥満の人
家族が下肢静脈瘤を発症した人も発症しやすいとされています。
妊娠と下肢静脈瘤の関係
編集部
女性に多く見られるのですね。
秋好先生
中でも特に気をつけたいのは、妊娠中です。下肢静脈瘤は、妊娠中に現れるトラブルの一つとされています。
編集部
なぜ、妊娠中に多く発症するのですか?
秋好先生
妊娠中に下肢静脈瘤が多く発症する理由は、二つの仮説が考えられています。一つめは妊娠中のホルモン変化で下肢静脈瘤が起きるという説です。
編集部
もう一つの仮説は?
秋好先生
妊娠中期以降になると、子宮が増大して骨盤内の静脈を圧迫します。これにより下肢の静脈還流が阻害されて、静脈瘤ができてしまうという説です。
編集部
子宮の増大で起きるのですね。
秋好先生
そうです。そのため子宮筋腫や内臓脂肪が蓄積するタイプの肥満でも、静脈瘤ができる場合があります。
編集部
妊娠中の下肢静脈瘤は、両足にできるのですか?
秋好先生
いいえ、片足だけにできる場合もありますし、両足にできる場合もあります。また「陰部静脈瘤」といって、足の付け根や太ももの裏側、膝裏などに静脈瘤ができることもあります。
妊娠中に下肢静脈瘤が発症した場合、診断や治療は可能?
編集部
妊娠中に下肢静脈瘤が発症した場合は、どうしたら良いのでしょうか?
秋好先生
妊娠中に発症した下肢静脈瘤は、出産後に自然に治ることがほとんどです。また、胎児への影響を考え、通常は手術などの積極的な治療を妊娠中には行いません。
編集部
すると、妊娠中の下肢静脈瘤は様子見が基本ですか? 「見た目が気になるから治したい」という場合にはどうしたら良いのでしょうか?
秋好先生
下肢静脈瘤の予防や妊娠中の治療法としては、弾性ストッキングの着用が原則です。これは、通常のストッキングよりも圧迫力が非常に強いストッキング。これを履くと、下肢静脈が適度に圧迫されることで静脈還流の改善が期待できます。また、下肢表面の静脈の拡張(=コブ)の進行が抑制されます。
編集部
圧迫力が強いストッキングは、履くのが大変そうです。
秋好先生
履くのが苦手という方は、ぜひ弾性ストッキング着脱補助用具「ダッフンダナー」を使用してください。これを使うと一般の方でも非常に簡単にストッキングを装着することができます。
編集部
弾性ストッキングは、一日のうち、いつ着用すればいいのですか?
秋好先生
基本的に、就寝中以外は着用するようにしましょう。寝ているときに着用すると、足がしめつけられて痺れることがあるので気をつけましょう。
編集部
それでも治らなかった場合にはどうしたら良いのですか?
秋好先生
産後の授乳中の場合、手術中に使用する薬剤の乳汁中の移行があるので、原則的には下肢静脈瘤の手術を行いません。授乳終了後も下肢静脈瘤の症状が残っており、治療を希望する方にはレーザーによる焼灼術を勧めています。
編集部
陰部静脈瘤もレーザーによる焼灼術を行うのですか?
秋好先生
いいえ、陰部静脈瘤の場合にはボコボコとした血管内に硬化剤を注入して膨らまないようにする硬化療法を行うことがあります。陰部静脈瘤は下肢静脈瘤とは成り立ちが違うため、治療後も再発率が高いです。このため、硬化療法を繰り返し行うことが多いです。
編集部
最後に、Medical DOC読者へのメッセージがあれば。
秋好先生
妊娠中に下肢静脈瘤を発症し、「このまま治らなかったらどうしよう」と気にされている女性がよくいます。多くの場合では出産後に自然と消えますので、心配する必要はありません。たとえ出産後に症状が残ったとしても、授乳終了後に治療で消すことができますから、安心してください。それよりも妊娠中は自身と胎児の健康管理を優先し、元気な赤ちゃんを出産することに集中しましょう。確かに下肢静脈瘤が発症すると見た目が悪くなり、ストレスに感じられることもあると思います。しかし、手術のストレスや薬剤によって胎児に影響が及ぶのは良いことではありません。まずは健康な赤ちゃんを産むことを考え、下肢静脈瘤で困ったことがあったら、出産後に血管外科にいつでもご相談ください。
編集部まとめ
妊娠中の女性の多くが悩まされる下肢静脈瘤や陰部静脈瘤。確かに見た目が悪くなる疾患ですが、多くの場合で出産後に自然と治ります。もし不安に思ったら血管外科に相談を。弾性ストッキングによる治療法などを指導してもらえると思います。
医院情報
所在地 | 〒254-0043 神奈川県平塚市紅谷町14-20 FT共同ビル3F |
アクセス | JR東海道・湘南新宿線「平塚」駅北口・西口より徒歩3分 |
診療科目 | 内科・血管外科 |