HIITの具体的な方法や注意点を解説! 「糖尿病にも有効」と言われているワケ
糖尿病患者にとって有効な運動手段として注目されている「HIIT(高強度インターバルトレーニング)」。短時間でおこなえる運動方法であり、運動の習慣化が難しい人には有効かもしれません。一方で、HIITを実施する際には気をつけるべき注意点があるそうです。今回は、HIITの具体的なやり方や注意点を、「理学療法士」の河江さんに詳しくお話を伺いました。
監修理学療法士:
河江 敏広(理学療法士)
HIIT(高強度インターバルトレーニング)とは? 効果やメリットを解説
編集部
HIIT とは、どのような運動法なのでしょうか?
河江さん
「HIIT(High-intensity interval training):高強度インターバルトレーニング」は、高強度運動を数十秒おこない、休憩を数十秒とるというサイクルを繰り返す運動です。従来、スポーツ選手のトレーニング方法をして用いられてきましたが、近年では様々な疾患の対策においても用いられ、その有効性が確立しつつある運動手段です。HIITは非常にきついトレーニングですが、短時間でより多くの身体機能を改善することが知られています。
編集部
HIITにはどのような効果がありますか?
河江さん
HIITを継続しておこなうことで、「全身持久力の向上」「体脂肪減少」「血圧低下」「脂質代謝異常などの改善」が期待できます。また、筋力増強や筋量増加も認められているため、有酸素運動とレジスタンス運動を掛け合わせた効果を持つという特徴もあります。
編集部
HIITが糖尿病に有効と言われているのはなぜですか?
河江さん
糖尿病に対してHIITが有効な理由は、短時間でインスリン抵抗性の低下や体重減少に効果を発揮するためです。糖尿病患者が運動を習慣化できない理由として、まとまった運動の時間の確保が難しいことが挙げられます。そのため、HIITは短時間で糖尿病において問題となるインスリン抵抗性を改善するため、仕事が忙しくて運動時間の確保が困難な糖尿病患者にとって有効な運動手段となり得るでしょう。
具体的なHIITの方法や注意点
編集部
具体的なHIITの方法を教えてください。
河江さん
最も簡単に実施できるHIITとしては、据え置き型の自転車(自転車エルゴメータ)を用いる方法があります。HIITは強度が高いトレーニングなので、ルームランナー(トレッドミル)だと転倒する恐れがあります。そのため、慣れていない人は自転車から開始することをおすすめします。
編集部
どのようにして、自転車でHIITをおこなうのでしょうか?
河江さん
負荷量は軽くてもかまいませんので、1分間全速力で自転車を漕ぎ、3分間の休息(軽めの自転車漕ぎ)を1サイクルとして、計7サイクル繰り返します。7サイクル終了後は、呼吸が落ち着くまで自転車を漕ぎ続けます。この際、3分間の休息と運動終了後の運動では完全に足を止めてしまわないようにしましょう。HIITの後は血管が大きく拡張しているため、運動を急に止めてしまうことで脳や心臓へすぐに血液が戻ってこず、血圧低下を引き起こす恐れがあります。休憩中、運動終了後は必ず軽めに足を動かすようにしましょう。
編集部
HIITの効果を高めるコツはありますか?
河江さん
HIITをおこなう際は、早朝と就寝前の時間帯以外にした方がいいでしょう。早朝は心臓や血管の機能を調節している自律神経の活動が完全ではなく、筋肉や関節機能の機能も活性化されていません。そのため、早朝のHIITは思いがけない事故を引き起こす恐れがあるので控えるべきだと考えます。また、HIITは交感神経活性を高めるため、就寝前の実施で十分な睡眠を得られない可能性がありますので、就寝2時間前までにはHIITを実施することをおすすめします。
編集部
HIITをおこなう際の食事面での注意点はありますか?
河江さん
可能であれば、2時間前には食事を終えるようにしましょう。HIIT中は筋肉への酸素供給が優先されるため、消化の役割を果たす内臓に十分な血流が回りません。その結果、嘔吐や腹痛などを引き起こす可能性があるため、食後2時間を目途にHIITを実施するようにしましょう。
糖尿病の人がHIITをする際に知っておいた方がいいこと
編集部
糖尿病の人がHIITを実施するときに気をつけた方がいいことはありますか?
河江さん
HIITは高強度なので、運動に慣れていない人には向かない運動手段です。そのため、運動に慣れていない人は中強度から徐々に強度を上げていき、HIITに移行するようにしましょう。また、HIIT中は発汗量が大変多くなるので、HIIT前・中・後は十分な水分摂取を心がけるようにしてください。その際、スポーツドリンクなどでは高血糖になってしまう可能性があるため、ミネラルウォーターの摂取がおすすめです。
編集部
糖尿病の人がHIITをするとき、血糖値や薬物療法などの管理はどのようにすべきですか?
河江さん
注意すべき薬剤は、通常の運動療法と同様、低血糖を引き起こす可能性があるインスリンや飲み薬を使用しているかどうかです。HIITは強度が高いので、より効果的な血糖値低下が予測されます。一方で、低血糖のリスクは通常の運動療法より高くなるので十分な注意が必要です。HIIT実施時の血糖値は高い方が低血糖のリスクを減らすことができるので、食後2時間で血糖値が高い時間に実施することで、よりHIITの効果が高まると考えられています。
編集部
糖尿病の人がHIITをした後の食事について、何か注意すべき点はありますか?
河江さん
HIIT後は、糖質と脂質がともに消費されます。そのため、バランスの良い食事を摂取するようにしましょう。近年、体重減少を目的として糖質を減らす食事療法をする人がいますが、このような食事方法では脂質の燃焼が多くなり、体に有害なケトン体と言う物質が生成されるため注意が必要です。また、糖質の摂取を減らしてしまうことで、HIITの効果が十分に得られなくなってしまう可能性もあります。
編集部
高強度インターバルトレーニングが適さない糖尿病患者はいますか?
河江さん
糖尿病の3大合併症を発症している人のHIITの効果は明らかになっていません。特に、網膜症や腎症を抱えている人は高強度運動で目や腎臓への血流が少なくなるため、HIITの実施は控えるべきでしょう。合併症を有している場合、HIITの実施でさらに合併症が重症化する恐れが考えられます。
編集部まとめ
HIIT(高強度インターバルトレーニング)は糖尿病の人にも効果的な運動法として活用されており、高強度の運動と短時間の休息を繰り返すことで、持久力の向上や体脂肪減少、血圧低下などの効果が期待できる運動方法とのことでした。一方で、運動に慣れていない場合は徐々に強度を上げたり、適切な水分摂取を心がけたりすることが重要です。