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突然起こる「肉離れ」の正しい応急処置の方法を医師が解説

 公開日:2023/08/24
突然起こる「肉離れ」の正しい応急処置の方法を医師が解説

スポーツの最中などに、激しい痛みとともに発症することが多い「肉離れ」。ふくらはぎや太ももなど、下肢の筋肉で起こることが多く、スムーズな復帰には速やかな応急処置が必要になります。今回は、肉離れが起きた際、どのように応急処置をすればいいのかについて、「百瀬整形外科スポーツクリニック」の百瀬先生に伺いました。

百瀬 能成

監修医師
百瀬 能成(百瀬整形外科スポーツクリニック)

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新潟大学医学部医学科卒業。信州大学医学部運動機能学教室整形外科入局、医局関連病院で勤務、丸の内病院整形外科科長・スポーツ医学センター長を務めた後の2021年、長野県松本市に「百瀬整形外科スポーツクリニック」を開院。医学博士。日本整形外科学会専門医・指導医。日本整形外科学会認定スポーツ医・運動器リハビリテーション医、日本人工関節学会認定医。

肉離れとは? なぜ起こる?

肉離れとは? なぜ起こる?

編集部編集部

肉離れとはなんですか?

百瀬 能成先生百瀬先生

肉離れとは通称で、筋損傷(きんそんしょう)とも言います。筋肉の線維が部分的あるいは完全に断裂した状態のことで、スポーツをしている最中に起こりやすい「スポーツ外傷」の一種です。

編集部編集部

具体的に、肉離れとはどのような症状を指すのでしょうか?

百瀬 能成先生百瀬先生

筋肉のいわゆる身の部分で痛みが生じたものがいわゆる肉離れですが、ここでは「肉離れ=筋損傷」として説明します。筋損傷は、筋線維に傷が生じたり、筋肉の束が切れてしまったり、腱の一部が断裂してしまったり、筋線維に強い負荷がかかった際に筋線維が断裂した状態のことを言います。一例を挙げると、スポーツをしている最中、ダッシュやストップなど筋肉への急激な負荷がかかる動作をした際に起こり、その直後に強い痛みを伴うため、スポーツが継続できなくなります。

編集部編集部

肉離れはどのような動きによって起こるのですか?

百瀬 能成先生百瀬先生

「急にダッシュやストップをしたとき」「ジャンプをしたとき」など、筋肉が収縮しながらも引き伸ばされる動きによって肉離れが発症します。この筋肉が収縮しているにもかかわらず、結果として引き延ばされて長くなる動きのことを「遠心性収縮」と言います。

編集部編集部

そのほか、どんな場面で肉離れになりますか?

百瀬 能成先生百瀬先生

「十分にウォームアップしていない」「運動習慣のない人が急にスポーツをする」「筋肉に疲労が蓄積している」ことも、発症の原因になり得ます。

編集部編集部

肉離れは、どの部位で起きることが多いのですか?

百瀬 能成先生百瀬先生

最も多いのが、太ももの裏側にある「ハムストリングス」の肉離れです。その次に多いのが「ふくらはぎ」の肉離れで、下腿三頭筋の一部である腓腹筋の内側頭が損傷を受けることで起こります。そのほか、太ももの前面にある「大腿四頭筋」や、太ももの内側にある「内転筋」、股関節を動かす「外旋筋群」にも肉離れが起こり得ます。

肉離れの症状と対処法を医師が解説

肉離れの症状と対処法を医師が解説

編集部編集部

肉離れが起きると、どのような症状がみられるのですか?

百瀬 能成先生百瀬先生

肉離れを起こした瞬間に激痛が走り、それ以上スポーツを続けられなくなることが多いのですが、肉離れを起こした瞬間はまったく気づかず、後から痛みが生じる場合もあります。肉離れによって筋線維が完全に断裂したときには、ブチっという音が聞こえることもあります。加えて、熱感、腫脹、皮下出血などの症状が出ることもあります。

編集部編集部

肉離れというと、痛みが強いというイメージがあります。

百瀬 能成先生百瀬先生

肉離れの特徴は、「損傷部位に圧痛があること」「筋肉にストレッチをかけたときに痛みが出ること(ストレッチ痛)」「筋肉を収縮させたときに痛みが出ること(抵抗痛)」の3つがあります。これら3つの症状が全て消えたときが、復帰のタイミングということになります。

編集部編集部

肉離れは放置しても大丈夫なのでしょうか?

百瀬 能成先生百瀬先生

肉離れを放置すると腫れや内出血が続くほか、断裂した筋線維から出血して血腫が作られ、それが治癒の妨げになってしまうこともあります。肉離れはきちんと治療してから、適切なタイミングでスポーツに復帰することが必要です。復帰のタイミングを見誤ると再発したり、完治が長引いたりすることもあるので、肉離れを起こしたら早めに受診しましょう。

編集部編集部

肉離れを起こしたら、どのような応急処置をしたらいいのでしょうか?

百瀬 能成先生百瀬先生

最も大事なのが、「圧迫」と「挙上(患部を高く上げる)」です。圧迫することで内出血を予防したり、炎症の広がりを防いだりすることができ、腫れや痛みを緩和する効果が期待できます。また、挙上することで腫脹を防いだり、腫脹を軽減したりする効果が得られます。

編集部編集部

その後はどうしたらいいでしょうか?

百瀬 能成先生百瀬先生

できるだけ患部を使わないようにしましょう。松葉杖を使ったり、誰かに肩を貸してもらったりしながら、早めに整形外科を受診してください。

肉離れを起こしたときに気をつけたいことは?

肉離れを起こしたときに気をつけたいことは?

編集部編集部

患部を冷やさなくてもいいのですか?

百瀬 能成先生百瀬先生

もし痛みが強い場合には、アイシングをしても構いません。アイシング自体に治癒を早める効果はありませんが、神経が一時的に麻痺するため痛みの緩和には効果的です。以前は、肉離れを起こしたときには積極的に患部を冷やすことが推奨されていました。しかし現在は、過度に炎症を抑えると治癒を妨げる可能性があるとされており、「挙上や圧迫で腫れを抑えて、適切なタイミングで適切な負荷を与えていく方が、治癒が促進する」という考え方が主流になりつつあります。

編集部編集部

病院ではどのような検査がおこなわれるのですか?

百瀬 能成先生百瀬先生

肉離れを正確に診断するには、MRIの検査が必須です。なぜなら、適切に治療するには、損傷の部位と血腫の広がりを正しく評価することが必要だからです。とくに、「筋腱移行部」という筋肉が徐々に腱に変わっていく部分で肉離れが起きた場合には治癒に時間がかかるとされていますし、腱部分で断裂がある場合には、手術が必要になることもあります。

編集部編集部

部位によって、治療に必要な時間が異なるのですね。

百瀬 能成先生百瀬先生

そうです。損傷部位を正確に把握できないと、本来ならもっと治療に時間をかけなければならないのに、早く復帰させてしまうことが起こり得ます。それによって肉離れが再発したり、痛みが悪化したりすることもあるため、必ず肉離れの損傷部位は正しく評価するべきです。逆に「もっと早く復帰できるのに、正しい診断を受けず漫然と治療に時間をかけている」というケースも少なくありません。

編集部編集部

整形外科ではどのような治療がおこなわれるのですか?

百瀬 能成先生百瀬先生

症状に応じて、患部の圧迫やラジオ波による物理療法がおこなわれます。テーピングや固定具による治療をおこなうこともありますが、歩くときに痛みが生じなければ、あまり固定する必要はありません。そのほか、症状によっては湿布、塗り薬、内服薬などが処方されることもあります。また、患部の評価と患部外トレーニング、再発予防と復帰に向けた運動器リハビリテーションもおこなわれます。

編集部編集部

復帰の目安はどれくらいですか?

百瀬 能成先生百瀬先生

肉離れは重症度によって「Ⅰ型(軽症)~Ⅲ型(重症)」に分類されます。腱や筋膜に損傷がなく、筋肉内だけに出血が認められるⅠ型の場合は、10日~2週間で回復します。5日目くらいから少しずつ、患部にストレッチをかけるといいでしょう。

編集部編集部

Ⅱ型やⅢ型の場合は?

百瀬 能成先生百瀬先生

筋腱移行部の損傷は認められるものの完全断裂や付着部の裂離が起きていないⅡ型の場合には、6週間~2カ月が復帰の目安です。怪我をして数日は腫れが強いため荷重制限をおこなうこともあります。その後、痛みに応じて少しずつストレッチをかけ、2週目くらいから徐々に患部に負荷を与え、症状の改善を確認しながら復帰へ向けてトレーニングをすすめていきます。もっとも重症なⅢ型は腱が切断した状態で、この場合には手術が必要になります。復帰までは3カ月~半年くらいが目安となります。

編集部編集部

いずれにしても、MRIで正しく診断をつけることが必要なのですね。

百瀬 能成先生百瀬先生

そのとおりです。それから、血腫が大きい場合には針を刺して除去する方法や、場合によっては抗血栓薬を使って血腫を溶解する治療をおこなうことがあります。血腫が残ると痛みの原因となることがあるため、きちんと除去することが必要です。

編集部編集部

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

百瀬 能成先生百瀬先生

以前は肉離れを起こした際の応急処置として「RICE:Rest(安静)・Ice(冷却)・Compression(圧迫)・Elevation(挙上)」が重要とされていました。しかし、現在では安静(Rest)を、Protection(保護)とOptimal Loading(最適な負荷)に置き換えた「POLICE」という考え方が定着しています。つまり、治癒の過程で筋肉をまったく使わないよりは、患部を保護しながら、有酸素運動や軽いストレッチなどによって早期に最適な負荷をかける方が、治癒が早いということです。患部を全く動かさない時間をできるだけ短くして、最適なタイミングで損傷部位に最適な負荷を与えることが、速やかな治癒には必要となります。いざというときのために、今回紹介した内容を実践すると役立つと思いますので、ぜひ覚えておいてください。

編集部まとめ

整形外科の領域においても医学は進歩しており、一昔前の常識が新しいものに塗り替えられていることも少なくありません。肉離れのように突然起こる外傷には、適切な応急処置が必要です。最新の知識を収集して、正しい対処ができるようにしておきましょう。

医院情報

百瀬整形外科スポーツクリニック

百瀬整形外科スポーツクリニック
所在地 〒390-0847 長野県松本市笹部1-5-30
アクセス JR「南松本駅」 バスで約20分
JR「松本駅」 バスで約35分
診療科目 整形外科、リハビリテーション科

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