糖尿病の運動療法は原因によって内容が変わる? 糖尿病の分類と運動について理学療法士が解説
糖尿病は原因によりいくつかに分類されており、異なる治療方針が存在します。今回は1型糖尿病、2型糖尿病、妊娠糖尿病の3種類の糖尿病について詳しく伺いました。それぞれどのような特徴があり、適した運動はあるのでしょうか。また、運動中にはどのような点に注意が必要なのかも気になるところです。そこで今回は、理学療法士の河江さんに糖尿病の分類と運動について詳しく解説して頂きました。
監修理学療法士:
河江 敏広(理学療法士)
糖尿病の分類ごとの基準と特徴を解説
編集部
糖尿病はどのように分類されますか?
河江さん
糖尿病は成因によって分類されており、①1型糖尿病、②2型糖尿病、③その他の特例の機序、疾患によるもの、④妊娠糖尿病の4つに分類されます。
編集部
各分類の糖尿病には、どのような原因がありますか?
河江さん
1型糖尿病は、自身をウイルスなどから守る自己免疫という作用が誤って膵臓を破壊してしまい、インスリンが欠乏することで発症します。2型糖尿病は、生活習慣と遺伝的な要因が組み合わされ発症します。妊娠糖尿病は糖尿病でない妊婦が妊娠することによって高血糖を呈するという病態であり、発症原因としては肥満、多児妊娠、高齢出産が挙げられています。
編集部
各分類の糖尿病の治療方針や予後について教えてください。
河江さん
1型糖尿病においては、膵臓の機能が破壊されてしまうため、インスリン分泌が認められなくなります。そのため、インスリン注射により血糖コントロールを図る治療が行われます。2型糖尿病は、食生活の乱れや運動不足といった生活習慣が関与するため、適切な食習慣や運動習慣の獲得を目標に治療が行われます。血糖コントロールが良好にならない場合には飲み薬の糖尿病薬、場合によってはインスリン注射が用いられることもあります。妊娠糖尿病においても、まずは食事療法と運動療法が行われますが、血糖コントロールが良好にならない場合には、飲み薬では胎児に影響を及ぼす可能性もあるため、原則としてインスリン注射を用いて治療を行います。どの病態も治療をせず、高血糖を放置した場合には、糖尿病特有の合併症を発症しますが、良好な血糖コントロールが得られている場合は合併症を予防できるため予後は良好といえます。
分類ごとに有効な運動の種類や方法は異なる?
編集部
糖尿病の種類ごとに適した運動について教えてください。まずは1型糖尿病からお願いします。
河江さん
2型糖尿病ほど運動療法が血糖コントロールに有益な影響を及ぼすかはいまだ明らかにはなっていませんが、1型糖尿病患者に適した運動としては有酸素運動、レジスタンス運動(筋力トレーニング)が考えられます。
編集部
2型糖尿病患者に適した運動は何ですか?
河江さん
2型糖尿病患者に適した運動としては、有酸素運動とレジスタンス運動が挙げられます。さらに、2型糖尿病患者においては座位時間を減少させることも運動の手段の1つですね。有酸素運動はウォーキングやサイクリングなどがあり、レジスタンス運動はスクワット、フリーウエイトやマシーンを用いた筋力トレーニングなどが挙げられます。また、座位時間を減らすことについては、パソコンを見ることやテレビを見るなど、座位で行う不活動時間を減らす取り組みを指します。有酸素運動やレジスタンス運動の時間が確保できない場合や、積極的な運動療法が出来ない高齢者には有効な運動手段となります。
編集部
妊娠糖尿病患者に適した運動についても教えてください。
河江さん
妊娠糖尿病においては有酸素運動が推奨されており、頻度は週2〜3回以上、運動強度は中強度(運動中に会話ができる程度)、持続時間は20〜30分とされています。しかし、産科的合併症の状態によってはこの限りではないため、産婦人科医の指示のもと運動を行うことが理想的です。以上の運動を行うことで空腹時血糖や食後血糖が低下することが証明されています。
分類別の運動の注意点とは 運動前に用意することはある?
編集部
1型糖尿病患者の運動における注意点は何ですか?
河江さん
1型糖尿病患者では必ずといって良いほどインスリン注射を用いて、血糖コントロールを図っています。そのため、運動による低血糖を予防することが重要です。低血糖への対処方法として、長時間の運動を行う場合には80kcal程度の捕食を運動前に行うことで、低血糖を予防することが可能になります。もし、低血糖が起きてしまった場合にはブドウ糖が必要になります。そのため、インスリン注射を使用している場合は、必ずブドウ糖を持参して運動を行うようにしましょう。また、これは2型糖尿病における注意点でもありますが合併症の重症度も運動時においては把握しておくことが重要です。
編集部
2型糖尿病患者の運動における注意点を教えてください。
河江さん
2型糖尿病における運動時の注意事項としても、低血糖や合併症の重症度に注意しなければなりません。しかし、2型糖尿病においては運動に慣れていない場合が多いため、初めから中等度の運動を20分行うことで、関節の痛みなどを生じる場合が多くあります。運動に慣れていない場合は、短時間から開始し、徐々に運動時間を延長したり運動頻度を増やしたりして、推奨される運動量に近づけていくことが運動習慣を獲得するためには重要です。
編集部
妊娠糖尿病患者の運動における場合はどうでしょう?
河江さん
妊娠中は子宮が大きくなり体の中心を流れる静脈を圧迫するために手足がむくみやすくなります。そのため、長時間の立位や座位を保つような運動は転倒や落下を生じる可能性がある運動は胎児に影響を及ぼす可能性があるため、避けるようにしましょう。また、妊娠中は胎児に母体の血糖が優先的に使用されることや、つわりなどで血糖値が低下している場合があります。そのため、特にインスリンを使用している場合は低血糖にも注意する必要があります。
編集部まとめ
今回は糖尿病の分類とそれぞれの運動について解説して頂きました。1型糖尿病は自己免疫の誤作動によって、2型糖尿病は生活習慣と遺伝的な要因が関与していることを学びました。妊娠糖尿病は妊娠によって高血糖を引き起こし、肥満や高齢出産などが原因とのことでした。分類ごとに適した運動があり、運動中の低血糖や合併症にも注意が必要なのですね。今回の記事を参考に、ご自身に適した運動方法を専門家と相談のもと実践して頂けましたら幸いです。