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「潰瘍性大腸炎」の初期症状・前兆を医師が解説 長期化すると『大腸がん』のリスクも

 公開日:2024/10/07
「潰瘍性大腸炎」の初期症状・前兆を医師が解説 長期化すると『大腸がん』のリスクも

現代社会では、お腹を下しやすい方がとても多いそうです。そして下痢が続く方の中に「潰瘍性大腸炎」という病気が隠れている可能性があるそうです。そこで「潰瘍性大腸炎」の初期症状や調べるための大腸カメラ(内視鏡検査)について、消化器内科医の河口貴昭先生(河口内科眼科クリニック院長)にMedical DOC編集部が話を聞きました。

河口 貴昭

監修医師
河口 貴昭(河口内科眼科クリニック)

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2003年、千葉大学医学部を卒業後、NTT東日本関東病院で内科全般を学んだのち、東京山手メディカルセンター(旧 社会保険中央総合病院)や慶應義塾大学病院などで炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)という腸の免疫難病の治療に取り組む。2022年11月、これまで培ってきた経験と知識をより多くの方々に還元したいと「河口内科眼科クリニック」を開設、院長となる。

指定難病 潰瘍性大腸炎とはどんな病気? 下痢や血便が出る人は要注意 初期症状やクローン病・IBSとの違いも説明

指定難病 潰瘍性大腸炎とはどんな病気? 下痢や血便が出る人は要注意 初期症状やクローン病・IBSとの違いも説明

編集部編集部

「潰瘍性大腸炎」とはどんな病気ですか?

河口 貴昭先生河口先生

「潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC)」は、大腸の粘膜に慢性的な炎症がおこり、下痢や血便、腹痛などを繰り返す疾患です。「大腸」は消化管の中でも肛門に近い最後の方に位置する臓器で、たくさんの免疫細胞や腸内細菌を有し、腸内の異物や外敵が体内に侵入するのを防ぐ「腸管免疫」が発達しているのですが、潰瘍性大腸炎の場合この腸の免疫が暴走して自分の大腸粘膜を自分で攻撃してしまっている状態と考えていただければいいかと思います。大腸の中でも最も肛門に近い腸管を直腸と呼びますが、潰瘍性大腸炎の炎症は直腸からはじまり大腸全域へと連続的に広がる特徴があります。重症化すると、その名の通り大腸に多発する潰瘍を形成します。

編集部編集部

クローン病やIBSとは違うのですか?

河口 貴昭先生河口先生

「クローン病」も潰瘍性大腸炎と同様に腸管の免疫が暴走して腸炎をきたす病気で、潰瘍性大腸炎とともに「炎症性腸疾患(IBD)」というカテゴリーに分類されます。両者の異なる点としては、潰瘍性大腸炎が大腸にのみ炎症を起こすのに対し、クローン病では大腸に限らず、口から肛門までの全消化管に炎症が生じうるという特徴があります。一方「IBS(irritable bowel syndrome:過敏性腸症候群)」は、腹痛や下痢などが続くのにもかかわらず、内視鏡検査をしても大腸に炎症などの所見が認められない病気で、自律神経のバランスの乱れによる腸管の運動異常や知覚過敏が病態に関与していると考えられています。潰瘍性大腸炎やクローン病では腸の炎症部位から出血したり、熱が出たりすることがありますが、IBSでは腸の粘膜は正常ですので出血や発熱などはきたしません。

編集部編集部

潰瘍性大腸炎になるとどんな初期症状が出るのですか?

河口 貴昭先生河口先生

潰瘍性大腸炎の初期症状は、下痢や腹痛から始まります。はじめは「お腹をこわした」くらいにしか感じない方も多いのですが、「下痢が何週間も続くのでおかしい」と気づくようになります。大腸粘膜の炎症が悪化してくると、クリーム色のドロっとした粘液が便についたり、便に血が混ざったりするようになり、さらに悪化すると下痢や粘液便、血便が1日に何度も出るようになります。便意を頻繁に催してトイレに何度も駆け込んだり、トイレから何十分も出られなくなったりもします。

編集部編集部

生活にも支障をきたしそうです。

河口 貴昭先生河口先生

また、腹痛を繰り返したり、便の出そうな感覚があるのに何も出ずお腹が絞られるように痛むという「しぶり腹」という症状が出たりすることもあります。ここまでくると大腸の炎症がかなり進行している可能性があり、炎症で体力を奪われたり、出血が続いて貧血になったりすることによって、「疲れやすい」「体重が減少する」などの症状も表れてきます。

編集部編集部

それは怖いですね。

河口 貴昭先生河口先生

それだけではありません。潰瘍性大腸炎を長く患っていると、粘膜にダメージが蓄積されて、大腸がんが生じることがあります(UC-associated neoplasia: UCAN)。このUCANという大腸がんは通常の大腸がんと比べて発見が難しいため、経験豊富な内視鏡医による定期的な大腸内視鏡検査でのチェックが必要です。さらに、ケースによっては、関節炎や皮膚症状(結節性紅斑、壊疽性膿皮症)、ぶどう膜炎など、腸管以外の臓器にも症状がでることもあります。

潰瘍性大腸炎の初期症状の自覚がある人必見 潰瘍性大腸炎かどうかを検査する大腸カメラ(内視鏡検査)は何をするの?

潰瘍性大腸炎の初期症状の自覚がある人必見 潰瘍性大腸炎かどうかを検査する大腸カメラ(内視鏡検査)は何をするの?

編集部編集部

では、大腸カメラ(内視鏡検査)について教えてください。

河口 貴昭先生河口先生

大腸内視鏡は、1.3mほどの長さの軟らかい管(スコープ)の先端に超小型カメラが搭載されており、肛門から挿入して大腸および小腸の一部までをリアルタイムで詳細に観察することができます。さらに、スコープの中に細長い処置道具を通すことでスコープの先端から組織を小さく採取(生検)したり、ポリープを切除したりすることなども可能です。大腸内視鏡は潰瘍性大腸炎だけでなく、大腸ポリープや大腸がん、大腸憩室症、腸炎、クローン病など様々な大腸の病気の診断に用いられています。

編集部編集部

腸にカメラを入れるのは何だか怖いし、勇気がいります。

河口 貴昭先生河口先生

そうおっしゃる方は少なくありません。そんな方の不安を解消するため、多くのクリニックでは様々な工夫をしています。例えば、患者さまの状態や希望に応じて、鎮痛剤や鎮静剤による静脈麻酔を使用することもできますし、検査にあたっては、おしりが露出しないような専用の検査着を用意し、女性の方にも安心していただけるよう必ず女性看護師が検査補助につくなど、みなさまに安心して検査が受けられるよう配慮がされています。もちろん、医師が検査前には検査の一連の流れや安全性について丁寧に説明し、検査中も適宜お声掛けをして不安の解消に努めます。

編集部編集部

不安や苦痛を軽減するための工夫が色々あるのですね。

河口 貴昭先生河口先生

はい。大腸検査前には、大腸の内容物を綺麗にするために、下剤(腸管洗浄液)を2リットル飲んでいただくのが一般的ですが、この下剤が大変なのです。そこで、検査そのものだけでなく、検査前の処置にも工夫があります。例えば当院では、通常の半分程度の量で、高い洗浄効果が得られる腸管洗浄液や錠剤タイプの腸管洗浄液なども選べるようにして、少しでも楽な方法で前処置を行っていただけるように工夫をしています。

編集部編集部

検査はどんな人に対して行われるのですか?

河口 貴昭先生河口先生

例えば、以下に当てはまる方は、潰瘍性大腸炎や大腸がんなどの深刻な病気の可能性も否定できないので、一度内視鏡で大腸内を確認しておくことを強くお勧めします。

便に血が混ざっている
下痢を繰り返している
腹痛を繰り返している
おなかの張りが強い
健康診断で便潜血反応が陽性だった

潰瘍性大腸炎になったら薬や手術で治療できる? 医師が推奨する食事メニューや食べてはいけないものも知りたい

潰瘍性大腸炎になったら薬や手術で治療できる? 医師が推奨する食事メニューや食べてはいけないものも知りたい

編集部編集部

では、実際に潰瘍性大腸炎と診断されたら、どんな治療をするのですか?

河口 貴昭先生河口先生

治療は基本薬である「5-アミノサリチル酸」(5-ASA)製剤をはじめ、ステロイド剤、免疫調整剤、抗体製剤、JAK阻害剤、カルシニューリン阻害剤、血球成分除去療法などの治療が保険適用となっています。昔はこれらの薬がなかったので入退院を繰り返す方が多かったのですが、近年では薬の種類が増え、良好にコントロールできる患者さんが増えてきています。しかし、それでも一部の患者さんには、重症例や難治例、がん(UCAN)を合併してしまうケースがあり、その場合は、大腸を摘出する手術が選択されます。

編集部編集部

薬で治すことができるのですか?

河口 貴昭先生河口先生

この病気は、世界中でその原因が研究されていて少しずつ解明されてきているところはありますが、それでも現時点では「完治」させる方法が見つかっていません。治療は、なるべく炎症が出ないようにコントロールしていくのが目的となります。病気はもっているけれど薬で炎症がコントロールされて症状が全く出ていない状態を「寛解」といいますが、できるだけ早く寛解の状態にもっていき(寛解導入)、その後なるべく長い間良い状態をキープする(寛解維持)というのが潰瘍性大腸炎の薬物治療の目標となります。人によって、また、状態によって、薬の種類や量を調整しながら、症状の軽減を図っていきます。

編集部編集部

食事などの生活習慣についてはどうですか?

河口 貴昭先生河口先生

「寛解期」と呼ばれる、炎症が落ち着いている状態の時は、健康な方と同じような食事内容で問題ありませんが、「活動期」と呼ばれる、下痢や出血が続いている時期には刺激物(辛いもの・脂っこいもの・アルコール)は控えていただいています。また、その方の体質によってはお腹を下しやすい食べ物や飲み物などがあると思うので、そちらも避けていただきたいです。炎症がぶりかえすことを「再燃」と呼びますが、再燃を予防するためには寛解期のうちから積極的に腸内環境を整えておくことも大切です。例えば善玉菌は酪酸や酢酸などの短鎖脂肪酸を産生して腸の免疫機能を正常化させる働きがあることが知られていますが、これら善玉菌は食物繊維をエサにして短鎖脂肪酸を産生しています。ですので、味噌や納豆やヨーグルトなどの「発酵食品」から善玉菌を補うとともに、善玉菌のエサである「水溶性食物繊維」を多く含む雑穀や芋類、野菜、果物などを積極的に摂ることは、腸管免疫をコントロールする上でも有用だと思います。また水溶性食物繊維には便を固める役目もありますので上手に摂取することをお勧めします。

編集部編集部

そのほかにも何かありますか?

河口 貴昭先生河口先生

もうひとつ大事なこととして、腸の免疫には自律神経も深く関与しています。自律神経は、睡眠不足やストレスの影響を受けやすいため、これらが続くと腸の炎症も治りにくくなります。ですから睡眠をしっかり確保したりすることやストレスがたまらないよう仕事を調整したりすること、運動や趣味などでうまくストレスを発散したりすることも腸にとってはとても大切なことです。

編集部編集部

最後に、Medical DOC読者へのメッセージがあればお願いします。

河口 貴昭先生河口先生

潰瘍性大腸炎の患者さんは、若い人を中心に、年々増えています。症状が出ている時期はとても辛く、また「完治」は難しいと聞くと暗い気持ちになったり、将来が不安になったりしてしまうかもしれません。しかし今は良いお薬もたくさん開発されていますので、早期発見、早期治療で普通の日常生活は十分可能な疾患となってきています。ですので、おなかの調子に不安のある方、とくに先ほどのチェックリストに当てはまる症状がある方は、IBDに詳しい内視鏡専門医のもとで検査を受けることをお勧めします。

編集部まとめ

お腹を壊しやすいだけだと思っていたら、実は病気が潜んでいることも考えられます。下痢や腹痛を起こしやすい方や、便潜血を指摘されたことのある方は、ぜひ一度、医療機関で検査を受けてみてください。最近は、辛くない、恥ずかしくないように工夫された大腸内視鏡検査もあるようです。

医院情報

河口内科眼科クリニック

河口内科眼科クリニック
所在地 〒135-0021 東京都江東区白河三丁目1番3号
アクセス 半蔵門線「清澄白河」駅B2出口より徒歩3分
大江戸線「清澄白河」駅A3出口より徒歩7分
診療科目 内科、消化器内科、眼科

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