「不妊治療を辛いだけの思い出にしないでほしい」夫婦ともに不妊の原因発覚~出産までの軌跡
ブライダルチェックで夫婦ともに不妊の原因が見つかり、すぐに不妊治療を開始。2回の採卵、2回目の移植で顕微授精にて2022年4月妊娠を叶えたというぷっぷさん(仮称)。一見順調に聞こえますが、その裏には大きな苦労があったようです。今回は、不妊治療を夫婦でどのようにして乗り越えたのかをお聞きしました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2023年5月取材。
体験者プロフィール:
ぷっぷさん
1996年生まれ。専業主婦。13歳の時に悪性卵巣腫瘍を発症、手術と化学療法にて寛解。結婚後のブライダルチェックで子宮内膜症とチョコレート嚢胞と診断される。その後、すぐに体外受精を開始して、無事に妊娠・出産。
体験者プロフィール:
ぷっぷ夫さん
1996年生まれ。会社員。子どもが好きで結婚前から今すぐにでもほしいと思っていた。しかし、なかなか子どもを授からず、結婚後のブライダルチェックで精子の数が少ないことが発覚。その後、ARTクリニックを受診し、現在は一児の父に。
記事監修医師:
鈴木 幸雄(産婦人科専門医・婦人科腫瘍専門医)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
24歳でも自然妊娠せず、不安でブライダルチェックに行った結果……
編集部
まず、不妊発覚の経緯について教えてください。
ぷっぷさん
結婚を前提に同棲を開始したのが2020年12月。それ以降、子どもを授かりたかったので避妊をほとんどしていなかったのですが、全然妊娠できなかったんです。翌年5月に籍を入れて、すぐにでも子どもがほしかったので6月に婦人科でブライダルチェックを夫婦で受けました。その結果、どちらにも不妊の原因が見つかりました。
編集部
具体的には、どのようなことがわかったのですか?
ぷっぷさん
私には子宮内膜症とチョコレート嚢胞が見つかり、夫は「精子の数が少ない」と指摘されました。
編集部
旦那さんにお聞きします。そのときの心境はいかがでしたか?
ぷっぷ夫さん
自分にも不妊の原因があるとわかってショックでした。でも、先生に「人工授精などで妊娠できる可能性はありますよ」と言われ、完全に子どもができないわけじゃないとわかってほっとしました。
編集部
その後、どうされたのですか?
ぷっぷさん
すぐに不妊治療専門の医療機関を探して治療を開始しようかと思ったのですが、「もう一度だけトライしてみよう」と排卵検査薬を使ってタイミング法を試したところ、結局ダメでした。そこで偶然、10年間不妊治療に取り組まれた職場の先輩がいたので色々と相談して、8月からART(Assisted Reproductive Technology:生殖補助医療)専門クリニックへ通うことを決めました。
編集部
どのような基準でクリニックを探しましたか?
ぷっぷさん
通院のしやすさや不妊治療の実績、口コミなどをチェックして総合的に決めました。
ホルモン療法でメンタルをやられる日々
編集部
不妊治療はどのような方法で進めましたか?
ぷっぷさん
初診のとき、先生にブライダルチェックの結果をお見せして、「すぐに妊娠したい」と伝えました。私としては既往歴などもあって、半年間避妊しなかったのに子どもができなかったことから、「人工授精だと妊娠できないんじゃないか。体外受精の方がいいのでは?」という考えがありました。
編集部
当時24歳ですよね。人工授精からステップアップするのではなく、最初から体外受精を考えられたのですか?
ぷっぷさん
はい。以前、私は小児科の看護師として働いており、高齢で出産した人のご苦労をリアルに見ていました。だから、少しでも若いうちに子どもがほしいと思っていたんです。
編集部
先生は治療法について、どのようにお話されましたか?
ぷっぷさん
先生も「人工授精よりも体外受精をおすすめします」とおっしゃったので、その日のうちに治療法を決定しました。ほとんどお金のことも考えていなかったのですが、早く妊娠したいという一心でした。
編集部
旦那さんは治療を開始するにあたって、どのような心境でしたか?
ぷっぷ夫さん
正直なところ、自分はあまり不妊治療の知識がなくて、人工授精と体外受精の違いもわからないくらいだったんです。でも、専門家の先生が「体外受精の方がいい」と言うなら、そうなんだろうなと思って、信頼して治療を受けることに決めました。
編集部
不妊治療を開始して大変だと感じたことはなんですか?
ぷっぷさん
一番辛かったのが、ホルモン療法です。私はこれまで生理不順も生理痛もありませんでしたし、生理中に情緒不安定になることもありませんでした。でも、採卵に向けて注射と飲み薬によるホルモン療法を始めてから、ときどき突然涙があふれてきて、止まらなくなることがあったんです。その当時は、まだ仕事をしていて、車を運転する機会も多かったのですが、運転中でも涙が止まらず危険な目にあうこともありました。また、転職してすぐだったので有給休暇もなく、お休みの調整が難しく治療との両立は困難で、仕事を辞めざるを得ませんでした。
編集部
医師には「ホルモン剤を変えてほしい」とか、お願いしなかったのですか?
ぷっぷさん
はい。私がお願いしたら薬を変えてくれたでしょうが、「最初に提案してくれた薬が一番いいんだろう、薬を変えたことで効果が少なくなったら嫌だ」と思っていました。普通、採卵まで2週間くらいかけて卵を育てていくと思うのですが、私はなかなか卵が育たなかったので、約3週間ずっとホルモン治療を続けたこともありました。その期間はずっとメンタルが不調だったので、本当に辛かったのを覚えています。
編集部
そんな様子を見て、旦那さんはいかがでしたか?
ぷっぷ夫さん
妻にとっても厳しい時期だったと思いますが、イライラが溜まっているからか、僕の言い方が気に入らないなどの理由で、激しい口調で責められることもあり、自然と言い争いも多くなりました。あの時期は妻も大変だったと思いますが、僕も辛い気持ちになりました。
編集部
治療中、支えになったことはなんですか?
ぷっぷさん
身近な人に話を聞いてもらえるのが支えになっていたのだと思います。治療を始めたことは仲の良い友達とお互いの家族には伝えていて、「今はこういう治療をしていて辛い」など、ときどき状況を話していました。あとは土日にどこかへ出かけるなど、なるべく外へ出て気分転換をしていました。
編集部
旦那さんが治療中、心がけていたことはなんですか?
ぷっぷ夫さん
「大変なのは妻なんだ」と考えて、できるだけ話を聞いてあげるよう意識しました。仕事中、妻から電話がかかってくることも多かったのですが、できるだけ電話に出て、優しい言葉をかけてあげるよう心がけました。
不妊治療を経たからこそ、我が子への愛情が一層深くなった
編集部
不妊治療を経て、妊娠に至ったときの気持ちを教えてください。
ぷっぷさん
同じ職場で10年間不妊治療を頑張っていた先輩は、最初の5年間はタイミング法と人工授精、あとの5年間は体外受精だったそうです。それでも結局恵まれなかったので、「私は何年かかるんだろう」と思っていました。それが2回目の採卵、胚移植で妊娠できたので、意外と早かったという印象です。ただ、採卵できるまで人一倍時間がかかるなど苦労も多かったので、長かったような感じもします。
編集部
妊娠はクリニックで告げられたのですか?
ぷっぷさん
自宅で妊娠検査薬を試し、陽性の反応が出たのを確認してからクリニックに行きました。陽性反応を見たときは「ちゃんと胎嚢が確認できるかな」とか、1回目の妊娠が化学流産だったこともあって「HCGの値が低くないかな」とか心配でした。だから、クリニックで「妊娠していますよ」と言われたときは、本当に嬉しかったですね。
編集部
治療の前後で、夫婦関係に変化はありましたか?
ぷっぷさん
それまで夫は飲みにいくと遅く帰ってくることが多かったのですが、不妊治療中は私がメンタル面で不安定になり、「治療を始めて私はお酒をやめたのに、自分だけ飲んでいるのはおかしい」と思って、「せめて採卵の日が決まったら、それまではお酒をやめて」とお願いしました。お願いしたいことや言いたいことは素直に伝えるように意識していました。関係性が良くなるとか、悪くなるとか、変化はありませんでしたが、話をする時間は増えました。
編集部
旦那さんは「お酒をやめて」って言われたとき、どう答えたのですか?
ぷっぷ夫さん
治療に協力するのは当たり前だと思ったので、素直に「わかった」と答えていました。
編集部
不妊治療という経験を経て、今、思うことはなんですか?
ぷっぷさん
もし不妊治療をせず、自然と子どもを授かっていたら、「夜泣きがやまなくて辛い」など子育てで悩むことも多かったと思います。でも、今は苦労して出産に漕ぎ着けたこともあり、夜泣きがやまなくても、ウンチをもらして自分の洋服が汚れても、「いいよ、いいよ」という感じで、なんにも辛さを感じません。不妊治療を経て、子どもへの愛情が一層深まったように思います。
編集部
政府や医療機関に望むことはなんですか?
ぷっぷさん
私が不妊治療を始めたのは保険適用の前だったのですが、治療開始をもう少し待てば保険が使えるというタイミングでした。でも、少しでも早く妊娠したかったのもあり、保険適用を待たずに治療を開始しました。あとで保険の制度を調べたら、保険診療では胚移植回数に制限があることがわかりました。その際、「もし卵が10個取れて、制限の回数を超えたらどうするのだろう」「余った卵は捨ててしまうのだろうか」などの疑問は抱きました。また、移植6回は案外早く終わってしまうと思うので、制限は移植ではなく採卵の回数にした方がいいのではないかと個人的には思いました。
編集部
最後に、これから不妊治療を始める人、もしくは治療中の人へメッセージをお願いします。
ぷっぷさん
私たちは不妊治療中、たくさん話をしたことでお互いの理解度が増したように感じます。なかには旦那さんに遠慮してしまうのか、夫婦の関係が悪くなってしまう人もいるようです。たくさん2人で話をして不妊治療を辛いだけの思い出にしないでほしいと思います。
編集部
旦那さんも、一言お願いします。
ぷっぷ夫さん
不妊治療で一番大事なのは、奥さんへのメンタルケアだと思います。僕も最初は不妊治療についてあまり知識がありませんでしたが、一緒に調べたり、よく話を聞いたりすることで、夫婦の関係が深まるのを感じました。旦那側も大変だと思いますが、ストレスをためない方法を探して2人で乗り切ってほしいですね。
編集部まとめ
24歳という若さで体外受精に踏み切ったぷっぷさん夫妻。ぷっぷさんは医療関係の仕事をしていたからこそ、早めに妊娠出産したいという気持ちが強かったと振り返ります。夫婦ともに不妊の原因が見つかりましたが、「どちらを責めるわけではなく、辛いときは我慢せずにたくさん泣いて治療をしてほしいなと思います」と話していたのが印象的でした。