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世帯分離をおこなうメリット・デメリットを介護福祉士が解説 手続きは難しい? 簡単?

 公開日:2023/06/26
世帯分離をおこなうメリット・デメリットを介護福祉士が解説 手続きは難しい? 簡単?

世帯分離」という言葉をご存知でしょうか。言葉の通り、世帯を分けるという意味で、世帯分離をおこなう家庭は比較的多いと聞きますが、世帯分離をおこなうメリットはあるのでしょうか。そこで今回は世帯分離とは何のためにおこなうのか、世帯分離の手続き方法はどうすればいいのかについて、介護福祉士の寺田さんに解説していただきました。

寺田 英史

監修介護福祉士
寺田 英史(介護福祉士)

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2003年より介護業界に従事。介護福祉士として高齢者の自立と尊厳を守るためのケアに尽力する。2016年より高齢者のQOL向上を目指し介護保険外サービス事業を運営する傍ら、後進の育成のために介護職員初任者研修、介護福祉士実務者研修の講師を務める。

世帯分離のメリットを解説 介護費用の自己負担額が抑えられるのか?

世帯分離のメリットを解説 介護費用の自己負担額が抑えられるのか?

編集部編集部

「世帯分離」とはそもそもどういうものですか?

寺田 英史さん寺田さん

世帯分離とは、同居する家族の世帯、住民票を別々に分けることです。つまり、一つの家に世帯主が複数いる状態にすることをいいます。特に高齢者と同居する子が、高齢者と子の世帯を別々に分ける世帯分離が多くおこなわれています。

編集部編集部

世帯分離をするメリットはどのようなものがあるのでしょうか?

寺田 英史さん寺田さん

最も大きなメリットが、「世帯分離することで介護保険サービスにかかる費用の負担を軽減できること」です。住民税が非課税になれば健康保険料の負担金額を減らすこともでき、後期高齢者制度では国民健康保険料を抑えることもできます。また、介護保険料についても世帯分離をおこなって高齢者世帯の市民税が非課税となるならば、保険料が安く抑えられる可能性もあります。

編集部編集部

世帯分離をすれば、どれくらい介護保険サービスの費用は軽減されるのですか?

寺田 英史さん寺田さん

世帯分離によって最も介護保険サービス費用の軽減に繋がるのが「高額介護サービス費」です。これは、介護保険サービスの自己負担金の上限を超えた分が申請により後に還付される制度ですが、この上限が世帯全体の所得によって決まります。現行の制度では、世帯の課税所得が690万円を超える場合、一月の負担の上限額は14万100円、生活保護受給者や前年の所得金額が80万円以下の場合は1万5000円が上限です。ですが、高額介護サービス費は償還(しょうかん)払いといって、一度発生した自己負担金は全額支払う必要があることに注意してください。ほかにも、介護施設サービスやショートステイを利用している際の食事代や居室代も所得によって自己負担金が変わりますので、世帯分離をおこない所得を下げることで負担を軽減することができます。

世帯分離をおこなうとどのようなデメリットが? 国民健康保険料はどうなる?

世帯分離をおこなうとどのようなデメリットが? 国民健康保険料はどうなる?

編集部編集部

介護が必要なご家庭が世帯分離をおこなうことはメリットしか感じられませんが、デメリットもあるのでしょうか?

寺田 英史さん寺田さん

デメリットといえるのは、世帯が一つであったからこそのメリットがすべてデメリットになることです。まずは、会社から支給されていた扶養手当や家族手当が入らなくなり年収が下がるおそれがあること、さらには勤務先の健康保険組合を利用できないこと、手続きが必要であること、そして国民健康保険料が増加するかもしれないことですね。

編集部編集部

先ほどはメリットとして国民健康保険料を下げることができるとのことでしたが、それが上がるかもしれないとはどういうことでしょうか?

寺田 英史さん寺田さん

国民健康保険料は世帯主がその支払いの義務を持ちます。世帯分離した要介護者の所得によっては、世帯主全員に健康保険料の支払いが生じます。世帯分離をしても要介護者のいる世帯の所得が一定額以上あると、国民健康保険料が思うように下がらず、結果的に負担が増すことで保険料が家計を圧迫する事態にもなりますので注意しましょう。

編集部編集部

その他、世帯分離で気を付けることはありますか?

寺田 英史さん寺田さん

要介護者の世帯分離をおこなう場合、世帯主から見て実の両親か、配偶者の両親かによって扶養から外れるかどうかが異なりますので、そこの点は気を付けた方がいいでしょう。扶養の範囲条件を見ると、世帯分離をおこなうのが世帯主の両親の場合は同居していなくても扶養から外れることは基本的にありませんが、配偶者の両親の場合は、同居していないと扶養から外れることになります。その結果、扶養控除が受けられないなどの弊害が発生します。もう一つ気を付けるべき点は、世帯を分けることで高額療養費の世帯合算ができなくなることです。年間で使った医療代が一定額以上になると確定申告時に超過分が還付されますが、この医療代については世帯全体での合算です。つまり、世帯分離をおこなうとそれぞれの世帯の医療代で計算されるため、結果的に医療代が多くかかることもあります。

煩雑な世帯分離の手続きを介護福祉士がわかりやすく紹介 注意するポイントは?

煩雑な世帯分離の手続きを介護福祉士がわかりやすく紹介 注意するポイントは?

編集部編集部

世帯分離の手続きはどこでおこなえばいいのでしょうか?

寺田 英史さん寺田さん

世帯分離の申請は、住民登録のある市区町村の窓口に申請書を提出します。申請は原則として世帯主か本人がおこなう必要があります。どうしても世帯主本人が申請できない場合は、委任状があれば親族でも可能です。委任状に様式の指定はありませんが、自治体によっては所定の用紙がありますので、先に問い合わせてみることをおすすめします。特に指定がない場合は、委任者および代理人の住所、氏名、生年月日、連絡先、両者の続柄、押印と共に、世帯分離の手続きについて委任する旨を記載するといいでしょう。

編集部編集部

世帯分離の申請をおこなう際、ほかに必要なものはありますか?

寺田 英史さん寺田さん

申請に必要なものは、世帯分離の申請書のほかに申請者の本人確認書類(マイナンバーカード、免許証、パスポートなど)、届人本人が申請できない場合は委任状、持っている場合は国民健康保険証、代理人の身分証明書と、自治体によって取り扱いは分かれますが念のため印鑑も持参しておくとよいでしょう。持参物に不備があると何度も通うことになりますので、不安な場合は自治体に問い合わせることをおすすめします。

編集部編集部

世帯分離の手続きで、ほかに気を付けることはありますか?

寺田 英史さん寺田さん

世帯分離の理由を聞かれた際に「介護費用を軽減するため」と答えるのは控えた方がいいでしょう。本来の世帯分離は、結婚や引っ越しなどで世帯を分ける際の手続きとしておこないます。介護費用の軽減を目的とした世帯分離は本来の趣旨から外れますので、場合によっては申請を断られるかもしれません。申請理由を聞かれたら「生計を別々にするので」とだけ答えましょう。また、親子の世帯分離と比較すると、夫婦間の世帯分離は生計が別々であることを証明しなくてはならないので提出書類が別に必要になることが多く、手続きは複雑化します。慎重に検討する必要があるでしょう。

編集部編集部

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

寺田 英史さん寺田さん

世帯分離は条件次第で介護にかかる費用や、国民健康保険料の負担を軽減できるため在宅介護、介護施設への入所どちらの場合でも家計の助けとなり得ます。しかし、メリットばかりでないことも十分理解した上で、世帯分離の手続きをおこなうようにしましょう。

編集部まとめ

世帯分離は要介護者との世帯を分けることで国民健康保険料や高額介護サービス費を安く抑えるメリットがあることが分かりました。ですが所得の条件によっては逆に保険料が上がる場合もあることには注意が必要です。世帯分離の手続きは慎重に検討してからおこないましょう。

この記事の監修介護福祉士