「肩関節唇損傷」を症状・痛みの原因を医師が解説 治療法・関節のしくみとは?
野球選手に多く発症する肩関節唇損傷。肩関節痛や引っかかり感、不安定感が現れ、投球動作のほか、外傷でも発症します。一体、肩関節唇損傷とは、肩がどのようになった状態のことをいうのでしょうか。原因や治療について東京スポーツ&整形外科クリニックの菅谷先生に話を聞きました。
監修医師:
菅谷 啓之(東京スポーツ&整形外科クリニック)
目次 -INDEX-
肩が痛む肩関節唇損傷(かたかんせつしんそんしょう)とは? 整形外科では肩のどんな症状・検査で関節唇損傷と診断される?
編集部
肩関節唇損傷とはなんですか?
菅谷先生
関節唇とは、関節窩(かんせつか)の縁を囲むように付着している靭帯成分のこと。関節窩とは関節のくぼみであり、肩関節は上腕骨の先端にあるボール状の上腕骨頭が関節窩にはまるようにして成り立っています。関節唇は繊維性の組織で、関節包と関節窩をつなぐ役割を担っています。肩関節唇損傷とは、この関節唇が損傷を受けた状態のことを言います。
編集部
なぜ、損傷を受けるのですか?
菅谷先生
多くの場合スポーツが原因で発症しますが、どのようにして発症したかによって、さらに2種類に分類されます。一つめが、スポーツで同じ動作を継続することで起きるケース。たとえば野球でボールを投げすぎたり、テニスでサーブを繰り返したりといったオーバーユースが原因で発症します。もう一つはスポーツ時の外傷が原因になって起きるケース。野球で肩から滑り込んでダイビングキャッチをしたり、スライディングで肩を深くねじったりした時に発症します。
編集部
どのような症状が見られるのですか?
菅谷先生
オーバーユースが原因で起きた場合には、たとえば投球動作をした時に、「肩に引っ掛かり感がある」「肩の内部にはさまるような痛みがある」といった症状があります。一方、外傷が原因で発症した場合には、「肩の不安定感がある」「肩が抜ける感じがする」「肩が不安定になり、脱臼を伴う」といった症状が見られます。
編集部
整形外科ではどのような検査で肩関節唇損傷と診断されるのですか?
菅谷先生
まずは、問診と理学所見をとることで予想をつけ、ケガをした時の状況や現在の症状などを確認します。その後、生理食塩水の関節内注射による造影MRIの検査を行い、確定診断をつけます。
肩関節唇損傷の原因を肩のしくみから解説 SLAP損傷(スラップ損傷・上方関節唇損傷)とは?
編集部
なぜ肩関節唇損傷が起きるのか、詳しく教えてください。
菅谷先生
一例として、ピッチャーがオーバーユースにより肩関節唇損傷を発症する仕組みをみてみましょう。まず、投球の切り返しの動作の時に、骨頭と関節唇の後上方部がぶつかります。これをインターナルインピンジメント(後上方インピンジメント)と言います。さらに上腕二頭筋長頭腱が引っ張られ、遠心性の筋収縮が上腕二頭筋に起きます。この動作を繰り返すことにより、関節唇が徐々に関節窩から剥がれていきます(関節唇損傷)。
編集部
関節唇損傷が起こると、ひっかかりやはさまった感がするのですね。
菅谷先生
そうです。関節唇は部位によって上方、下方、前方、後方などに分けられ、関節唇の上部のことをSLAP(スラップ=Superior Labrum from Anterior to Posteriorの頭文字)といい、この部分が損傷を受けることをSLAP損傷といいます。
編集部
つまり関節唇損傷の一つに、SLAP損傷があるということですか?
菅谷先生
そうです。関節窩上方部分は上腕二頭筋長頭腱と関節唇がつながっている部分であり、主に上腕二頭筋の作用によって関節唇が剥離してしまった状態のことをSLAP損傷といいます。ちなみに、投球動作で損傷を受けるのは主に関節唇の後上方が多く、外傷で損傷を受けるのは主に前上方が多いです。
編集部
SLAP損傷の原因となるスポーツには、どのようなものがありますか?
菅谷先生
一般に、腕を肩よりも高く上げる動作が伴う「オーバーヘッドスポーツ」と呼ばれるスポーツで発症します。たとえば野球の投球やバレーボールのスパイク、テニスのサーブやスマッシュなどで多く発症します。また、外傷性のSLAPが多いのは、野球でスライディングやダイビングキャッチをした時のほか、体操、柔道、ラグビー、アメリカンフットボールなどの競技です。
肩関節唇損傷の治療法 リハビリ療法・手術療法では何をする?治療期間はどれくらい?
編集部
肩関節唇損傷はどのように治療するのですか?
菅谷先生
投球動作時に疼痛がある場合、まずは投球を中止してリハビリテーションを開始し、肩のリコンディショニングを行います。それにより、肩関節がいい位置で動くようになればインナーマッスルが働き、アウターマッスルが緩みます。そうなれば、肩関節唇損傷があっても、投球動作ができるようになることが少なくありません。
編集部
その後はどんなことを行うのですか?
菅谷先生
肩関節のアライメントを整え、インナーマッスルをしっかり働かせて、肩甲骨が正しく動くように運動療法を行います。その状態が作れたら、それを維持するために体幹や下半身の強化を行います。合わせてフォームや動作の見直し・矯正が必要になります。しかし、こうした保存療法を行っても改善が見られず、まだ投球動作をする時、肩に痛みや挟まり感が残る場合は手術を行います。
編集部
どのような手術を行うのですか?
菅谷先生
剥がれた関節唇の挟まる部分を切除(デブリードマン)したり、一部を縫合したりする手術を行います。原則として、オーバーユースによるSLAP損傷はデブリードマンが、外傷による関節唇損傷は縫合・修復術が行われます。現在では関節鏡という内視鏡で手術が行われており、低侵襲で回復も早いので多くのスポーツ選手が採用しています。手術後、スポーツへの復帰は半年が目安となりますが、術後もコンディショニングを含めたリハビリが非常に重要になります。
編集部
最後に、Medical DOC読者へのメッセージがあれば。
菅谷先生
肩関節唇損傷はピッチャーに多く発症する疾患ですが、ダイビングキャッチやスライディングをした時にも発症することから、野手でも起こります。オーバーユースで発症するものより、外傷が原因で発症するものの方が重症度は高く、復帰まで時間がかかります。いずれにしても、「肩に違和感がある」「投球時に痛みがある」など肩関節唇損傷が疑われる場合には、早めにスポーツを専門とした整形外科医による診察を受けること、早期に適切な治療を行うことが、速やかな回復につながります。
編集部まとめ
野球などのスポーツで発症することが多い肩関節唇損傷。怪我を早く治し、早期復帰を目指すには、適切に初期治療を受けることが大切です。軽症の場合は投球をやめて、安静とリハビリで改善する場合も少なくありませんので、早めに対処することを心がけましょう。
医院情報
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診療科目 | スポーツ整形外科・一般整形外科・リハビリテーション |