「非アルコール性脂肪肝炎」(NASH)の症状・原因を医師が解説 肝臓の治療法も説明
「脂肪肝」と聞くと「アルコール」「飲み過ぎ」などと関係が深いイメージですが、アルコールを飲まない人でも脂肪肝(NAFL)になることがあるそうです。そこで「非アルコール性脂肪肝(NAFLD)」と、そこから引き起こされる「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」について、肝臓専門医・総合内科専門医の藪剛爾先生(はとがや緑内科クリニック院長)に、Medical DOC編集部が話を聞きました。
監修医師:
藪 剛爾(はとがや緑内科クリニック)
目次 -INDEX-
お酒を飲まない人も発症する非アルコール性脂肪肝(NAFLD)とは?
編集部
「脂肪肝」とはなんですか? 脂肪肝だとどんな問題があるのですか?
藪先生
肝臓の細胞に、中性脂肪が過剰に蓄積してしまった状態を「脂肪肝」といいます。アルコール性のものと、非アルコール性のものがあり、とくに「非アルコール性脂肪生肝疾患(NAFLD)」は近年爆発的に増えています。NAFLDは動脈硬化性心疾患、肝不全・肝がんをはじめ、大腸がんや乳がんの発症率を高めたり、糖尿病を合併しやすかったりすることなどが問題になっています。「糖尿病」が「血糖値」を指標とするのに対して、「NAFLD」は肝臓の脂肪蓄積を指標とする代謝障害です。
編集部
NAFLDは、どのような原因で起きていますか?
藪先生
原因は、大きく分けると「生活環境」「食事環境」の2つです。個人の不摂生というより、便利な食生活、便利な移動手段など、現代の社会環境が生み出した病気であり、肥満や糖尿病患者の増加とも相関があります。戦後、日本の食文化は 西欧化し、飽食の時代になりました。その結果、主食である「穀類摂取量」は減り、「動物性脂肪」や「動物性タンパク質」の摂取量が増えたのです。さらに、飽和脂肪酸を多く含む加熱調理も増え、血糖を上げやすいファストフードや甘味料、パン、菓子、吸収の早い清涼飲料水などが容易に手に入るようになりました。
編集部
確かに、ハンバーガーや菓子パンを食事とする人は多いですよね。
藪先生
このような食事が、インスリンの基礎分泌上昇やインスリン過剰分泌を引き起こし、さらに高脂肪食が腸内ホルモンの「GIP」の分泌を増やし、インスリン抵抗性体質も引き起こしてしまうのです。その結果、脂肪の過剰生産、脂肪蓄積がもたらされ、脂肪肝や内臓脂肪蓄積となります。専門医の間では、動物性脂肪摂取量の増加が、インスリン過剰や機能不全を引き起こし、糖質からの脂肪合成を促進していると考えられているのです。さらには、交通手段の発達などにより、歩くなどの日常生活の運動量低下も大きく関与していると思われます。
編集部
食事や運動だけでなく、遺伝的体質なども関与するのでしょうか?
藪先生
NAFLDの中には「PNPLA3」という遺伝子の多型が関係しているものがあります。日本人は、この多型が多いため、痩せていても(BMI22以下)、肝臓に脂肪がつきやすく、太っていないのにNAFLDになっている人も多いと言われています(もちろん、太っている人はさらに罹病率が高くなります)。こういう人は、健康診断などで脂肪肝を指摘された場合、心血管性疾患や肝硬変・肝がんへの進展に注意する必要があります。
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編集部
NAFLDを放っておくとどうなるのですか?
藪先生
NAFLDの人は、動脈硬化性心疾患、悪性疾患(肝がん、大腸がん、乳がんなど)の罹患率が高く、さらには糖尿病や動脈硬化からなる腎臓病や認知症など、肝臓以外にも広い分野の病気のリスクが高まります。さらにNAFLが進行し、「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」という、肝臓の炎症が強く線維化が促進された状態になると、肝硬変・肝不全、肝がんへの進展や、ほかの合併疾患になるリスクもあります。糖尿があると、注意する人は多いのですが、NAFLD/NASHだけが指摘されている場合、病気としての認識が低く、治療法もわからないからと放置していた結果、このような病気に進展するケースが非常に多く、問題となっています。
編集部
NASHはどのように診断されるのですか?
藪先生
NASHは「非飲酒者である」「組織所見が脂肪肝炎」「ほかの原因による肝疾患の除外」の3項目を満たすことで診断されます。原則的には、アルコール性を除外するため、アルコールを全く飲まない、もしくは男性であれば「日本酒換算で1.5合未満/日」「女性であれば1合未満/日」程度しか飲まないのにもかかわらず、脂肪肝を認めた状態となります。正式に診断するためには「肝生検」といって、肝臓の組織を実際に採取して病理診断で確認することが必要です。NASHの病理学的診断基準としては、「肝臓組織の脂肪浸潤が5%以上」「肝臓組織での炎症細胞の存在」「肝細胞のバルーニング・炎症・壊死などの肝細胞障害の存在」「線維化が存在すること」などがあります。
編集部
なるほど。NASHはそのように診断にいたるのですね。
藪先生
「NASHだけが危険な病気で、NAFLDはセーフ」と思われがちな傾向もありますが、決してそんなことはありません。NAFLDになる病態では、潜在的にインスリン抵抗性や脂肪合成過剰があり、内臓脂肪蓄積が進行しているということなのです。
編集部
NAFLDからNASHへはどのように変化するのですか?
藪先生
さまざまな複合的要因の結果、シームレスにNASHに至るという説が今は有力です。つまり、NAFLDと診断された状態ですでにNASHへのカウントダウンが始まっており、心血管病の合併リスクやmetabolic dysfunction(代謝障害)に関連する障害、インスリン抵抗性、脂質異常症や悪性疾患のリスクが高まっているということです。NASHになってからではなく、NAFLDの段階から治療や介入が必要なことは言うまでもありません。
編集部
NAFLD/NASH の肝機能検査で数値の目安がありましたら教えてください。
藪先生
検査の数値だけでNAFLDであるという質的診断はできません。このような検査では、ウイルス肝炎や自己免疫性肝炎など、ほかの要因で上昇している場合もあるため、それらの除外診断を行ったうえで、画像診断や肥満、耐糖能障害や脂質異常症の有無など臨床要件をみて判断しなくてはなりません。検査値は「あくまで進行度合いを判断するための参考値」と捉えたほうが良いと思います。
編集部
なるほど。参考値として見方を教えてください。
藪先生
ALTとASTの比率(AST/ALT比)をみて、「AST/ALT比が1以上になる場合は、NAFLDにおいてNASHの可能性が高い」やAST、ALT、γ-GTPのいずれかが高い場合は、「進行したNAFLDの可能性が高い」と考えられます。また、これらの数字を見る際は肝臓に炎症を伴っているか、肝線維化が生じているかなど、ほかの検査要因と合わせて総合的に判断することが重要です。
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編集部
NAFLD/NASHは、どのように治療するのですか?
藪先生
まずは食生活の見直しです。食事はPFCバランス(糖質57.5%、蛋白17.5%、脂質25%)を考え、食事摂取量、特に飽和脂肪酸の多い動物性脂肪を制限し、インスリン分泌量の低い糖質を摂取することが必要です。糖質は、白パンや白米、うどんなどの精製された糖類や果糖ではなく、五穀米、玄米、ブロッコリー、ほうれん草や食物繊維の多いものを摂るようにし、脂肪が付きやすい「油ものと糖質の同時摂取」は控える必要があります。手軽な物、美味しい物を好きなように食べることや、満腹になるまで食べて「あとで運動すれば良いや」という発想は改め、食生活のコントロールを続けることが治療の基本です。カロリー摂取量が多いのは問題外ですし、アルコールももちろん制限した方が良いでしょう。
編集部
ほかには何かありますか?
藪先生
やはり運動です。脂肪を落とす運動療法ですが、中性脂肪の分解には体内に酸素を多く取り込む必要があるため、有酸素運動を取り入れることが重要です。心拍数を上げるジョギングなどはとても良いです。「内臓脂肪のみで脂肪肝のない人」と比べると、「内臓脂肪が少なくNAFLDのみの人」は、特に筋肉でのインスリン抵抗性が強いといわれています。一般的に、インスリン抵抗性は筋肉に強く表れるので、逆に言えば、インスリン抵抗性改善のためには、筋肉を有酸素運動でよく使用することが重要なのです。大きく体重を落とし体質を改善した結果、NASHの線維化が改善したというケースも報告されていますので、NAFLD/NASHを問わず、食事療法・減量・運動療法による代謝改善は、治療の基本と言えます。
編集部
NAFLDからNASHへの進展についてはどのように診断するのですか?
藪先生
NAFLDがNASHに進展しているかどうかは、日本では病理組織での炎症や線維化を確定するのが必須です。海外ではフィブロスキャンやエラストグラフィなど線維化のみで判定する方法も提唱されています。日本でも、日常的にはFib4 Indexやエラストグラフィで見てから、確定診断の際に肝生検による病理診断を行います。NASHまで進行すると、効果的な治療は困難ですので、線維化の傾向がある患者をいかに早期に発見し、医療介入できるかが重要です。
編集部
治療薬や予防薬はあるのですか?
藪先生
肝臓の脂肪を抑えるには、ビタミンE、ω-3(オメガスリー)脂肪酸、PPAR-α作動薬のペマフィブラート、ウルソなどが知られています。さらに、糖尿病があれば、メトホルミンやピオグリタゾンなどのインスリン抵抗性改善薬やGLP-1作動薬、SGLT2阻害薬も検討されます。高コレステロール血症や高血圧もNASHへの悪化要因ですので、スタチンやエゼチミブ、アンジオテンシンII受容体拮抗薬も使われます。
編集部
たくさん種類があるのですね。
藪先生
はい。また、注目すべきトピックとして、最近「肥満症治療薬」として認可された「GLP1」アナログ製剤のセマグルチド注射薬がありますが、体重を落とす効果が強く、肝臓の脂肪を落とすのにも有用な候補薬と考えられます。脂肪肝の治療は、単に肝臓の脂肪を落とすというだけではなく、肝硬変・肝がんへの発症リスク(NASHへの進展)を減らし、さらには「心血管疾患の発症」や「悪性疾患の併発」を減らすという意味があります。
編集部
最後に、Medical DOC読者へのメッセージがあればお願いします。
藪先生
「NASHの疑いが出てきたら治療する」のではなく、NAFLDが判明した時点で治療を考えることが必要です。思い当たることがある方、健康診断などで指摘を受けたことのある方は、まずはお近くの肝臓専門外来を受診することをお勧めします。
編集部まとめ
肝臓の病気すなわち飲み過ぎといった単純な問題ではなく、たくさんの要素が複合的に働いた結果、こういった病気を引き起こすのですね。確かに、糖尿病などと違い、まだまだ認知されていないため、今後、啓蒙がとても大事だと感じました。
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