まぶたが下がる「眼瞼下垂」治療を医師が解説 手術後の合併症のリスクはある?
年齢とともに瞼(まぶた)がたるみ、目がぱっちり開かなくなってしまう「眼瞼下垂」。じつは、保険適用で治療できるそうです(状態によっては自費診療となる場合もあり)。そこで、眼瞼下垂の治療や、手術後の合併症について、形成外科医の中林洋平先生(ひふみるクリニック院長)に、Medical DOC編集部が話を聞きました。
監修医師:
中林 洋平(ひふみるクリニック)
目次 -INDEX-
まぶたが下がる眼瞼下垂の原因とは? 加齢によってまぶたが上がらなくなる後天性の眼瞼下垂と先天性のものがあるって本当?
編集部
そもそも「眼瞼下垂」とはどんな病気ですか?
中林先生
眼瞼下垂とは、瞼(まぶた)が垂れ下がり、ものが見えにくくなったり、表情が眠そうに見えたりするようになる状態です。加齢が主な原因と言われていますが、中には、生まれつき眼瞼下垂という方もいらっしゃいます。
編集部
どうして瞼が垂れ下がってしまうのですか?
中林先生
瞼を持ち上げるためには、「眼瞼挙筋」の力が必要です。この眼瞼挙筋が正常に働かないと、瞼が持ち上がらずに眼瞼下垂となるのです。主な原因としては、先天的に眼瞼挙筋や、その筋肉を動かす神経に異常がある場合(先天性眼瞼下垂)が考えられます。または、加齢、もしくはコンタクトレンズの着脱時などに瞼を引っ張るような動作を繰り返したり、目を擦ったりしていると、徐々に眼瞼挙筋の端についている「挙筋腱膜」が薄くなって伸びてしまう「後天性眼瞼下垂」を引き起こします。
編集部
眼瞼下垂になると、どんな症状が出るのでしょうか?
中林先生
垂れ下がった瞼が、瞳孔の一部にかぶさってしまうため、特に上方の視野が狭くなったり、十分に上がらない瞼を無理やり上げようとして、額やこめかみなどの筋肉に力が入ってしまい、頭痛や肩こりにつながったりもします。また、左右のどちらかだけが眼瞼下垂だと、左右で目の大きさが異なってしまい、顔全体がアンバランスな印象を与えてしまいます。
編集部
色々な症状が起こるのですね。
中林先生
そうですね。さらに、放置して重症化すると、めまいや不眠、不安、自律神経失調症などに悩まされることや瞼や表情筋の痙攣が起こることもあります。
眼瞼下垂の治療法・種類を教えて 手術しないで治すことはできる? 保険は適用される? 費用や注意点も聞いておきたい
編集部
眼瞼下垂の治療には、どんなものがありますか?
中林先生
眼瞼下垂の治療は、主に手術療法が中心となりますが、入院の必要なく日帰りで受けられるクリニックも多いです(医療施設によって異なるので事前に要確認)。費用面の心配をする方も多いかもしれませんが、眼瞼下垂の治療は、上述のような症状がある場合、保険適用で受けられます。術式などにもよりますが、「挙筋前転法」なら両側で約4万5000円です。
編集部
手術について、方法などを教えてください。
中林先生
手術にはいくつか種類ありますが、最もポピュラーなものは先述の挙筋前転法と呼ばれるものです。このほかには、大きく分けると、「皮膚のたるみを改善する手術」と「眼瞼挙筋のたるみを改善する手術」の2種類があり、それぞれの眼瞼下垂のタイプや重症度によって、手術法が決められます。
編集部
具体的に教えていただけますか?
中林先生
まず挙筋前転法は、眼瞼挙筋と瞼とが協調して動くように、挙筋腱膜を瞼に縫合する方法です。当院での眼瞼下垂手術の約9割がこの「挙筋前転法」です。
編集部
では「皮膚のたるみを改善する手術」は?
中林先生
「瞼の皮膚のたるみを改善する手術」は、たるんでいる瞼の皮膚を切除・調整して縫い合わせるのですが、眉下の皮膚を切除する「眉下切開」と、もう少し下の方、より眼球に近い部分の上瞼を切除する「上眼瞼切開法(皮膚切除)」とがあります。
編集部
「眼瞼挙筋のたるみを改善する手術」は?
中林先生
弛緩した眼瞼挙筋を切除して短くしたり、固定したりして瞼を持ち上げます(挙筋短縮法)。眼瞼挙筋の筋力自体が弱すぎて、短縮しても回復が期待できない場合には、額の筋肉(前頭筋)と瞼を、患者さん自身の組織で繋いで瞼を持ち上げる「筋膜移植法(前頭筋吊り上げ術)」が用いられます。多くの場合、太ももから「大腿筋膜」をわずかに採取してきて移植します。大腿筋膜の代わりに、ゴアテックスなどの人工物でも代用可能とも言われていますが、全ての医療機関で対応しているわけではないので、受診した医療機関で確認してみてください。
眼瞼下垂治療で後悔しないために! 手術後に合併症の心配は?
編集部
術後合併症など、注意する点などありますか?
中林先生
術後は「ダウンタイム」と呼ばれる期間があり、腫れや内出血がしばらく続きますが、徐々に自然な状態になっていくので心配する必要はありません。そのほかには、ドライアイや、眩しさを感じる方もいらっしゃると思います。
編集部
術後はどんなことに気をつけたら良いですか?
中林先生
ほかの多くの手術と同様に、術後は医師の許可があるまでは飲酒や入浴など、血行を促進してしまう行為はお控えいただいています。シャワー浴は大丈夫です。また、あまり目を酷使しないように、テレビやパソコン、スマートフォンなどを長時間見ないようにお願いしています。当院の場合は、4週間はコンタクトレンズの着用を控えるようにお伝えしています。着脱の際に、瞼を引っ張るので、縫い合わせていた糸が外れてしまうなどのリスクがあるためです。
編集部
それは怖いですね。
中林先生
「瞼を引っ張ることで糸が切れてしまう」というのは、術直後だけのリスクではなく、術後数年〜数十年経っても起こりうるので、常に注意していただきたい点です。個人的には、コンタクトレンズの着脱や、花粉症などで目を擦る動作なども、同様に気をつけていただきたいですね。
編集部
最後に、MedicalDOC読者へのメッセージがあればお願いします。
中林先生
眼瞼下垂は、なんとなく「歳だから」「病気なわけじゃないから」と、気になりながらも放置している方も多いと思いますが、一定の基準を満たせば、保険適用で治療することができます。たるんだ瞼を治療すると、視野も広がってQOL(Quality of Life:人生の質)も向上します。デリケートな部分ですので、手術する医療機関を決める際には、その医療機関や担当医師の手術件数などを確認し、実績のあるところで治療するようにしましょう。
編集部まとめ
「眼瞼下垂」とその手術について、お話を伺いました。保険適用で、日帰りで治療できるのは嬉しいですね。手術法についても色々教えていただき勉強になりました。
医院情報
所在地 | 〒599-8232 大阪府堺市中区新家町589-10 |
アクセス | 南海高野線「初芝」駅より徒歩15分 |
診療科目 | 皮膚科、形成外科、小児皮膚科、美容外科 |