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【親必見】「発達障害のある子が運動をすると良い理由」を作業療法士が解説

 更新日:2023/04/04
「発達障害のある子が運動をすると良い理由」を作業療法士が解説

近年よく耳にする「発達障害」。自分の子、仕事で関わる子に対して発達障害なのでは? と感じることも少なくないかもしれません。発達障害のある子の支援がおこなわれている場では、体を動かす活動を取り入れていることが多いそうですが、実際、運動をすることで発達障害に関連する困りごとが減るなどの影響はあるのでしょうか。作業療法士の小玉さんにお話を伺いました。

小玉 武志さん

著者
小玉 武志(作業療法士)

プロフィールをもっと見る
認定作業療法士。作業療法学分野博士号取得。入所施設にて重度の肢体不自由および知的障害児・者の支援、通所支援施設にて発達障害児への支援の経験を持つ。また、非常勤講師として「発達障害作業療法学」「発達障害作業療法学演習」などの講義をおこなう。海外研修生として、世界の特別支援教育の教育現場などを視察し、2ヶ月かけて世界一周した経験を持つ。NPO法人カケルとミチル代表理事。
宮田 里依さん

共著
宮田 里依(作業療法士)

プロフィールをもっと見る
作業療法士・保育士。北里大学医療衛生学部卒業。卒業後、急性期病院での勤務を経て、現在は児童発達支援・放課後等デイサービスにて勤務。北里大学大学院医療系研究科修士課程在学中。NPO法人カケルとミチル事務局長。

発達障害の特徴と認知的処理

発達障害の特徴と認知的処理

編集部編集部

発達障害のある子の困りごととして、落ち着きがない・運動が苦手などといった様子が挙げられます。これらはなぜ起こるのでしょうか?

小玉 武志さん小玉さん

そうですね。そうした困りごとの背景を知るために、認知的処理の過程について考えてみたいと思います。

編集部編集部

認知的処理……、初めて聞きました。一体どういうことでしょうか?

小玉 武志さん小玉さん

例えばキャッチボールをする時のことをイメージしてみてください。まず、ボールを投げる相手がどこにいるのか、どのくらいの距離にいるのか、ボールを投げた時に誤って当ててしまって困るものがないかなど、周囲の環境に気づく必要があります(これを「登録」)。次に、相手にボールを届けるという目標を設定し、目標を達成する方法を考えます(これを「観念化」)。次に、投げる時はどの位の力を入れるのかなど目標達成に必要な手順や動作を意図します(これを「企画」)。そうしてようやく運動を実行に移し、ボールを投げるという行為に至ります。このような一連の動作がおこなわれており、これらの過程を認知的処理と呼んでいます。

編集部編集部

難しいですが、何となくイメージがつきました。発達障害のある子はこうした認知的処理がうまくおこなえないということでしょうか?

小玉 武志さん小玉さん

困りごとを聞いた時、認知的処理のどこかにエラーが生じている可能性を考えます。例えば、視覚や聴覚、触覚などの感覚情報を取り入れる力が弱い、もしくは偏っている場合、認知的処理の1段階目「登録」がうまくおこなわれていないかもしれません。そうすると、日常でも、名前を呼ばれても気づかない、いつも走り回っている、座っている時にすぐ姿勢が崩れる、といった困りごととして現れることがあります。このように、認知的処理のどの段階でどのようなエラーが生じているかを分析することで、支援の糸口を探っていきます。

運動とコミュニケーションの関係

運動とコミュニケーションの関係

編集部編集部

運動と認知的処理の関係性はよく理解できました。では、他者とのコミュニケーションがスムーズにいかないという困りごとも、運動との関係性から考えることができるのでしょうか?

小玉 武志さん小玉さん

正しくは運動の中でコミュニケーションも発達するということです。まず、コミュニケーションを身につける過程についてお話します。赤ちゃんが最初に身につけるコミュニケーションは、「自分の体とのコミュニケーション」です。手足を動かす、指をしゃぶる、ハイハイをすることを通して体の感覚を認識していきます。次の段階は、お母さんに抱っこをされる、体をくすぐられる、など体を媒介とした他者とコミュニケーションを取ります。その後成長を重ねて、言葉を媒介として他者とコミュニケーションが取れるようになります。

編集部編集部

なるほど。生活の中で自然と段階を踏んで、他者とのコミュニケーションの方法を学んでいくのですね。

小玉 武志さん小玉さん

はい。しかし、この段階のどこかでつまずくと、結果的に他者とのコミュニケーションに難しさを感じる場合があります。例えば、感覚面に凸凹があり、うまく感覚情報を処理できない場合は、自分の体を思うように動かせません。つまり、最初の段階である自分の体とのコミュニケーションという点で、運動や遊びを通して自分の体をコントロールする経験が少なくなり、結果として次の段階で経験するはずの、体を媒介としたコミュニケーションも積み重ねづらい状態に陥ります。すると当然、その次の段階である言葉でのコミュニケーションにも影響を及ぼすと考えられます。

編集部編集部

やはりコミュニケーションの力が発達する過程でも、経験の積み重ねが大切になってくるのですね。では感覚面に凸凹があるお子さんの場合は、どのような支援をおこなっていけば良いのでしょうか?

小玉 武志さん小玉さん

一人ひとり状況は異なっているので一概にこれがいいとは言えませんが、一般的に感覚面の問題に対しては「感覚統合療法」というアプローチの視点から考えることがあります。ここでは、感覚を取り入れる時の脳の働きに問題が生じることで、生活上の問題である不器用さが出てくる、と考えられています。何かひとつのアプローチで解決しようとするのではなく、幅広い視点を持ってお子さんを観察することが、支援の第一歩となるのではないかと考えます。

実際の支援について

実際の支援について

編集部編集部

運動と認知的処理、運動とコミュニケーションについては理解しました。では実際、発達障害のある子の支援ではどのような点を意識しているのでしょうか?

小玉 武志さん小玉さん

子どもに運動をしてもらいたい場面でまず意識することは、取り組む課題の難易度の設定ですね。

編集部編集部

難易度ですか。難しすぎると達成できない恐れもあると思うので、簡単な課題にするということでしょうか?

小玉 武志さん小玉さん

難しすぎる課題に取り組む必要はないのですが、簡単すぎる課題でも力は伸びにくくなります。そのため、少し頑張ればできそうな課題、という難易度の課題をうまく提示することを意識しています。

編集部編集部

なるほど、少し頑張ることで試行錯誤する力を伸ばすということでしょうか?

小玉 武志さん小玉さん

そうですね。こういった適切な難易度の課題を「発達の最近接領域」と呼び、最も高いパフォーマンスを発揮することができ、学習効果が高いことが知られています。専門用語で「実行機能」と呼ばれる力を十分に発揮して課題に取り組むことで、脳の活性化を促し、運動だけでなく社会的なコミュニケーションの力が育っていくように支援をしています。

編集部まとめ

発達障害のある子の支援をしている作業療法士の小玉さんに、子どもが運動をすることの効果や実際の支援をする時の注意点についてお伺いしました。読者の皆様の周りにいるお子さんに対しても、障害の有無に関わらず、「発達を促す」という視点で今回伺ったお話を意識しながら関わってみると良いのかもしれないですね。

この記事の監修作業療法士