精神障害系作業療法士ってどんな仕事? 普通の作業療法士との違いを解説
作業療法は、フランスの精神科医が用いた道徳療法などから発展したと言われています。心身の健康回復のために、身体障害や精神障害の患者の治療に適用されてきました。リハビリというと、怪我をした患者が行う治療というイメージですが、今回は精神科領域における作業療法として行うリハビリについて、「作業療法士」の宮田さんに詳しく伺いました。
監修作業療法士:
宮田 里依(作業療法士)
作業療法士ってどんな職種?
編集部
まず、作業療法士の仕事内容について詳しく教えてください。
宮田さん
作業療法士とは作業療法を行う専門職の名称で、作業療法は主に身体障害領域と精神障害領域に大別されます。一般的によくイメージされるリハビリは身体障害領域の作業療法で、病気や怪我によって身体に不自由が生じた時に、その身体機能の回復を図るために行われます。一方、精神障害領域の作業療法は、精神疾患をかかえた患者に対し、作業を通して心の機能の回復を図るために行われます。
編集部
作業療法士になるには資格が必要なのでしょうか?
宮田さん
作業療法士になるためには、まず作業療法士の養成学校に通い、国家試験の受験資格を得る必要があります。そして国家試験に合格し、作業療法士免許を取得する必要があります。さらには認定・専門作業療法士など、スキルアップのための資格や作業療法士にプラスして公認心理師や精神保健福祉士などの資格を所持している人もいます。
編集部
実際には、どのような場所で働いているのでしょうか?
宮田さん
総合病院のリハビリ科、リハビリ専門病院、精神科専門病院、老人保健施設、特別養護老人ホーム、訪問看護ステーションなどで働いていることが多いようです。近年では、少数ではありますが放課後等デイサービスなどの児童福祉施設、特別支援学校、刑務所などで働く作業療法士もいます。
精神障害系作業療法士の仕事内容
編集部
精神障害系作業療法士は、身体障害系作業療法士と何が違うのでしょうか?
宮田さん
身体障害系の作業療法は、いわゆるリハビリと聞いて皆さんがイメージされるような手や足を動かす訓練や、道具やアクティビティを駆使してリハビリを行います。さらには着替えや食事動作、献立を考えて買い物に行き、実際に料理を作るまでの一連の流れを練習することもあります。一方精神障害系作業療法では、集団でレクリエーションに参加する、数人のグループでスポーツをする、個別で陶芸や編み物などを行う、就労のために接客の練習をする、などといった一見リハビリに見えないようなバラエティ豊かな作業の種類があることが特徴です。
編集部
具体的な精神障害系の治療内容を教えてください。
宮田さん
グループ活動として、患者が患っている疾患についての勉強会を開く、個別で面談を行う、患者自身が希望する作業の手助けをする、などの様々な作業療法があります。これらは、ただ作業のやり方を指導したり、一緒に作業を行なったりしているだけではなく、実際には一人ひとりの想い、人生の背景、周囲との関係性などを評価し、その人にその時に必要な声かけ・関わり・作業などを考え、治療としての対応を行います。
編集部
手先が器用な人が精神障害系作業療法士に向いているのでしょうか?
宮田さん
必ずしも手先が器用である必要はありません。きれいな作品を作ることだけが作業療法士の役割ではなく、裁縫が苦手な作業療法士といったその人の個性そのものも治療手段の一つになるかもしれない、という考え方を元に作業療法は行われているのです。
精神障害系作業療法の治療
編集部
精神障害系作業療法の治療対象になるのは、どのような人なのでしょうか?
宮田さん
精神障害領域の作業療法では、アルコールなどの依存症、うつ病、統合失調症、摂食障害、認知症、発達障害などが対象疾患となります。
編集部
そのような疾患の場合は入院が必要になるのでしょうか?
宮田さん
入院してリハビリをする人もいれば、自宅から通院してリハビリを受ける人、家にスタッフが訪問してリハビリを受ける人など様々です。
編集部
例えば認知症の人への精神障害系作業療法はどのような内容になりますか?
宮田さん
認知症の患者であれば、その人の趣味、生活スタイル、大切にしていることなどを把握し、病院や施設で暮らすことになっても「その人らしさ」を失わないための生活スタイルを一緒に考え、実行できるように手助けをします。そのためのアプローチの一つとして、機能訓練や日常動作訓練などを行うこともあります。また、日付感覚などが分かりづらくなる患者さんも多いため、日付や曜日の確認を毎朝一緒に行うカレンダーを作成して生活スペースに置いたり、季節に合わせた歌を歌ったり、季節の制作物を作成する、などをして今の季節は何なのかをさりげなく意識してもらうためにアプローチをすることもあります。
編集部まとめ
具体的な仕事内容や働く場所など知ることで、精神障害系作業療法士とはどういう仕事なのかイメージが湧きました。一緒に暮らす家族に、こういったリハビリや治療がいつ必要になるとも限りません。また将来、資格所得を考えている方は、自分のキャリアビジョンに適した資格の一つとして考えてみてはいかがでしょうか。