日中に強い眠気「ナルコレプシー」を医師が解説 セルフチェック・セルフケア方法などを知りたい!
時間や場所に関わらず、日中強烈な眠気に襲われるナルコレプシー。日常生活以外にも就労や就学で支障が見られ、場合によっては事故やけが、リストラなどのリスクになることも。一体どのように治療するのか、眠りと咳のクリニック虎ノ門の栁原先生にMedical DOC編集部が聞きました。
監修医師:
栁原 万里子(眠りと咳のクリニック虎ノ門)
目次 -INDEX-
日中も強い眠気に襲われるナルコレプシーとはどんな睡眠障害? 原因や症状を知りたい! 脱力発作を起こすって本当?
編集部
ナルコレプシーとはなんですか?
栁原先生
十分な睡眠時間をとっているのに、「突発的に生じる耐え難い強い眠気」に襲われ居眠りをしてしまう睡眠障害です。中高生頃から発症するケースが典型的ですが、成人後に発症するケースもあります。高齢になるにつれて、強い眠気や眠気以外の随伴症状は自然経過で徐々に軽減すると考えられています。
編集部
具体的に、どんな症状が見られるのですか?
栁原先生
抗いがたい強い眠気(過眠)が時間帯を問わずに生じます。たとえば、仕事で重要な商談をしているときや大事な試験中などの緊張しているときなど、居眠りをすると不利になるシチュエーションであっても、自分では制御できない強烈な眠気に襲われて意に反して眠り込んでしまうといった症状が見られます。
編集部
眠気はどれくらいの時間続くのですか?
栁原先生
ナルコレプシーの眠気は、1日に何回も襲ってきます。この強い眠気は15~30分程度の仮眠で解消され、その後一時的にすっきりと覚醒することができます。そのためナルコレプシーの患者さんは、1日中ずっと居眠りしているということではありません。
編集部
強い眠気以外にも症状はありますか?
栁原先生
強い眠気以外の症状として、居眠り中に夢を見やすかったり、金縛りにあったり、寝入りばなに幻覚や幻聴を体験したりすることもあります。患者さんの一部では、「情動脱力発作(カタプレキシー)」と呼ばれる、喜怒哀楽などの感情の高ぶりに合わせて身体の力が抜けて倒れ込んでしまう発作がみられることもあります。カタプレキシーを伴う場合はナルコレプシー1型、伴わない場合はナルコレプシー2型と分類されます。
編集部
そのほかにも症状はありますか?
栁原先生
時間帯を問わず強い眠気(過眠)に襲われるにもかかわらず、夜の睡眠については入眠困難や中途覚醒がみられることもあります。
編集部
ナルコレプシーの原因はなんですか?
栁原先生
ナルコレプシーは長く原因が不明とされてきましたが、近年研究が進み、視床下部でのオレキシンA(脳内の神経伝達物質)の産生量が少ないことと、遺伝的要因が関係していることがわかりました。しかしながら、現在でもナルコレプシーの原因のすべてが解明されているわけではありません。
過眠に悩むナルコレプシーを診てくれるのは何科の病院? ナルコレプシーの検査や治療方法について医師が解説
編集部
「ナルコレプシーかも」と思ったら、何科を受診すれば良いのでしょうか?
栁原先生
※日本睡眠学会のHP
https://jssr.jp/list
編集部
「眠気」という症状を起こす疾患は、ナルコレプシー以外にもあるのですか?
栁原先生
あります。睡眠に関しては、例えばナルコレプシーと同じ中枢性過眠症群である特発性過眠症、ほかにも睡眠時無呼吸症候群やむずむず脚症候群、周期性四肢運動障害などの睡眠障害が原因となる眠気もあります。睡眠不足や交代勤務などの睡眠習慣の問題や蒸し暑い、騒音が気になるなどの寝苦しい寝室環境が原因となることもあります。
編集部
知らないだけで、いろいろあるのですね。
栁原先生
睡眠障害以外にも、甲状腺機能低下症や低血糖などの眠気を生じる内科疾患、神経筋疾患、脳神経疾患もありますし、痒みや痛みのために深く眠れない場合や使用中の薬剤の影響による眠気もあります。発達障害でも突発的な眠気を生じるケースもあります。精神疾患であるうつ病では不眠を生じることが広く知られていますが、逆に過眠を生じるケースもみられます。このように「強い眠気」を生じる原因はたくさんありますので、これらを丁寧に鑑別し、適切にナルコレプシーの診断・治療を行える睡眠専門医とつながる必要があります。
編集部
ナルコレプシーはどのような検査を行うのですか?
栁原先生
ナルコレプシーを診断するために必要な検査は2種類あります。全身にたくさんのセンサーを装着して1晩病院に泊まる(眠る)「終夜睡眠ポリグラフ検査(polysomnograph/PSG)」と呼ばれる検査と、その翌日に行う「睡眠潜時反復検査(multiple sleep latency test/MSLT)」です。
編集部
検査はどのように行うのですか?
栁原先生
まず「PSG」で、眠りを浅くさせるようなほかの睡眠障害がないか、REM睡眠(夢をみる睡眠)の出方にナルコレプシーの特徴がないかなどを確認します。翌日に施行する「MSLT」では、脳波のセンサーをつけた状態で午前から午後にかけて2時間ごとに寝たり起きたりを繰り返します。MSLTでは、入眠までにかかる時間の平均やREM睡眠の出方にナルコレプシーの特徴がないかを確認します。
編集部
ナルコレプシーと診断されたら、どのような治療を行うのですか?
栁原先生
ナルコレプシーの原因は、脳髄液中のオレキシン濃度の低下や遺伝要因の可能性が考えられています。オレキシン関連についてはここ10年間で飛躍的に研究や創薬が進んでいるため、ナルコレプシーを原因から治療する方法が遠くない将来に開発されるのではないかと期待されています。しかしながら、現時点では原因からナルコレプシーを治す「根本治療」の方法がありません。このため、症状である「自制のできない強い眠気」をコントロールするために、目を覚まさせる薬を内服する「対症療法」を行います。
編集部
治療の効果はどれくらいで現れるのですか?
栁原先生
早ければ治療を開始したその日から効果は得られます。効果が不十分な場合には、必要に応じて用量や薬の種類をその人それぞれに合わせて調整します。ナルコレプシーの眠気は歳をとるにつれて徐々に軽減すると考えられていますが、日常生活や社会生活で支障のないレベルになるまで長期間を要します。困っている場合には、できるだけ早いタイミングで診断を受け、治療を開始することで人生の中で眠気に支配される時間が減り、就労や修学、日常生活での居眠りによる弊害を改善することができます。運転免許も適切に治療していることを前提に、取得することが可能です。ナルコレプシーは診断・治療をすることにより社会的にも個人的にもQOLを改善できる疾患と言えるでしょう。
ナルコレプシーに効くセルフケアはある? ナルコレプシーを治すには十分な睡眠や短時間の昼寝が良いという話は正しい?
編集部
ナルコレプシーの方が自分でできるセルフケアはありますか?
栁原先生
ナルコレプシーの方は15〜30分程度の仮眠をとることによって、そのあとの1~数時間(個人差があります)は強い眠気を抑制することができる場合があります。このため学校や会社の休み時間に机で少し仮眠をとる、在宅勤務の場合には休憩の取れるタイミングで短時間の仮眠をとるなど、上手に仕事時間中の眠気対策を工夫している方もいます。この方法は薬剤を用いないこと、短時間とはいえ効果が得られることから健康的なセルフケアとしてお勧めできます。
編集部
ほかに気をつけることはありますか?
栁原先生
夜間に十分な睡眠時間を取ること、規則正しい生活をするよう心がけることも大切です。ナルコレプシーの強い眠気は十分な睡眠時間をとっていても生じますが、寝不足や不規則な生活による体内時計の乱れが重なると、いつもと同じ治療薬を使用していても覚醒効果が弱くなってしまいます。
編集部
カフェインを摂る場合の注意点を教えてください。
栁原先生
普段の治療薬に加えてカフェインを摂取することにより、多少の効果が得られる場合もありますが、カフェインの過量摂取は心臓に負担をかけます。また夜間にカフェインをとった場合には、就寝後にうまく寝付けたとしても睡眠は浅くなりますので、十分な睡眠にならなくなる可能性があります。カフェインを取るのは日中に、適量範囲にとどめた方が良いでしょう。
編集部
生活習慣の改善でナルコレプシーが治ることはないのでしょうか?
栁原先生
そうですね。ナルコレプシーは「眠気の原因となるほかの疾患(睡眠障害・精神疾患・身体疾患など)や眠気の原因になる薬剤などの使用がないにもかかわらず、十分な睡眠時間をとっていても自制の効かない強い眠気を生じる」疾患です。このため、生活習慣を整えることだけで疾患自体が治癒することはありません。逆に睡眠時間を延長したり、規則正しい生活を心がけることで眠気を生じなくなるのであれば、その眠気は睡眠不足や睡眠習慣の問題が原因であり、ナルコレプシーではないと言えるでしょう。
編集部
睡眠を見直すだけではナルコレプシーを改善できないのですね。
栁原先生
とはいえ、睡眠には「体を健康にメンテナンスする」「心を安定させる」「脳を休めて頭の回転をよくする」という3つの大切な役割があります。ナルコレプシーの治療に用いる覚醒維持薬は、覚醒を促すことで強い眠気を紛らわせてくれますが、睡眠不足を補う薬ではありません。このためナルコレプシーの有無にかかわらず、必要な睡眠時間をできるだけ規則正しくとることが心身の健康を維持し、幸せに生きるために大切です。
編集部
最後に、Medical DOC読者へのメッセージがあれば。
栁原先生
受験や就職活動、就職後など人生のステージが進むにつれて、ナルコレプシーによる「自制のできない強い眠気」のために「覚醒していたい時に思い通りに起きていられない」状態が生活に支障をきたすようになります。ですが、本人が強い眠気に襲われることに慣れてしまっており、自分が病気だと思っていないこともあります。もし周りに異常な眠気を生じている人がいたら、睡眠外来を受診するように勧めてあげてください。ナルコレプシーは治療により、その人本来の生き生きとした活発な生活を取り戻すことができる疾患です。長期的に見て眠気に支配されない生活は人生を明るく変えるはずです。
編集部まとめ
「怠けている」「気合が足りない」など誤解されがちな居眠りの病「ナルコレプシー」。知名度はそれほど高くない疾患ですが、疾患に対する理解が深まれば、解決できる悩みもあるかもしれません。強烈な眠気で悩んでいる人はまず受診を、身近にそのような人がいる場合には受診を促すなどして、早期の解決をめざしましょう。
医院情報
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診療科目 | 心療内科・呼吸器内科 |