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最近よく聞く培養肉って美味しいの? 安全性は大丈夫? 培養肉の専門家が解説

 更新日:2023/03/27
最近よく聞く培養肉って美味しいの? 健康への問題は? 培養肉の専門家が解説

最先端技術を駆使して製造される培養肉。最近ニュースなどで目にするようになりましたが、スーパーや飲食店では見かけません。美味しいのか美味しくないのか、食べても健康に問題ないのか、そもそもいつも食べているお肉と何が違うのか、培養肉の最先端研究をリードするインテグリカルチャー株式会社の志田さんにその実態を教えてもらいました。

志田 美春

監修薬剤師
志田 美春(インテグリカルチャー株式会社)

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神戸薬科大学で薬剤師免許、博士(薬学)号を取得。学生時代に所属学会の優秀発表賞を9回受賞し、期待の新人として注目を集める。新卒で大塚製薬株式会社に入社し、人工臓器の最先端研究に従事。培った技術を駆使し、現職のインテグリカルチャー株式会社では培養肉の基盤研究の加速に貢献する。この研究活動が評価され、2023年度長井記念若手薬学研究者賞を受賞。

培養肉の味を美味しくするための研究が進行中

培養肉の味を美味しくするための研究が進行中

編集部編集部

培養肉は美味しいのでしょうか?

志田 美春さん志田さん

私たちインテグリカルチャー株式会社は、2019年に培養フォアグラの開発に成功し、国内外で注目されています。気になるその味ですが、メニュー試作の際に試食いただいた未来食研究家の桑名シェフからは、非常に美味しいと好評でした。しかし、味は個人の好みもありますので、百聞は一見に如かずと食べてみていただくのが一番ではないでしょうか。世界でも、美味しく作る技術の研究は活発に行われています。しかし、培養肉の製造費用が高くなりすぎるのがボトルネックとなっています。そのため、もっと低コストで美味しい培養肉を製造できるようにする技術の研究開発が世界中で進められています。日本では私たちインテグリカルチャー株式会社が、より効率的な製造を可能にする独自の技術として、体内の状態を模倣した「カルネット システム」を開発しています。

編集部編集部

培養肉の価格はいくらぐらいなのでしょうか?

志田 美春さん志田さん

約10年前に世界で初めて培養肉のハンバーガーができた時は32万5000ドル(約4600万円)でした。ただ、費用は技術革新によって年々下がってきていますので、日常的に食べられるようになる日もそう遠くはないと思います。

編集部編集部

培養肉はどこで買えますか? 食べてみたいです。

志田 美春さん志田さん

残念ながら日本ではまだ販売していませんので、食べることはできません。シンガポールでは世界に先駆けて2021年から販売が開始されているため、食べられます。現在は鶏肉のみですが、今後は牛肉なども販売開始予定になっています。日本では数年以内の販売開始を目指して法整備が進められていますが、今後、20年以内には世界で流通している肉の60%が培養肉になると推計されています。これをより早く実現するためにも低コスト化が急がれます。

培養肉は将来のタンパク質不足に対する解決策のひとつとして期待

培養肉は将来のタンパク質不足に対する解決策のひとつとして期待

編集部編集部

世界的に食料問題が深刻な社会課題と言われている中、培養肉が課題解決につながると注目されているのですよね?

志田 美春さん志田さん

はい、将来のタンパク質不足に対する解決策となるサステナブルな次世代食品のひとつとして培養肉が期待されています。

編集部編集部

具体的にどの様に注目されているのですか?

志田 美春さん志田さん

これから世界人口が増加することで、食料が不足し、特にタンパク質が不足することが想定されています。そのため養殖や畜産以外の方法でタンパク質を含む食品を効率的に製造しなければなりません。その方法として昆虫や植物のタンパク質と培養肉が注目されています。

編集部編集部

培養肉の安全性はどうなのでしょうか?

志田 美春さん志田さん

まず、販売開始前に食の安全性を確保しています。また、培養肉の製造に私たちが普段食べている食品に含まれるものが原材料として使用されていればより安心です。そのため、私たちは食品と同じ原料から作られた食用培地を世界で初めて開発し、培養肉の研究開発に使っています。

培養肉は地球の環境保全につながる

培養肉は地球の環境保全につながる

編集部編集部

培養肉はいつも食べているお肉と何が違うのでしょうか?

志田 美春さん志田さん

一番大きな違いは作り方です。いつも食べているお肉は牛などの動物を飼育しているのに対して、培養肉は言うなれば、お肉の元になる細胞を試験管の中で増やして作ります。そのため、培養肉は動物の飼育によって発生するCO2排出や動物に対して与える苦痛も減らせるのです。

編集部編集部

具体的にどうやって、お肉の元となる細胞を増やしているのでしょうか?

志田 美春さん志田さん

細胞培養では、生体内と同じような環境を試験管内に作ることで細胞を増やしています。培養容器に栄養源などを与えれば細胞は成長し、増えます。そのため、この細胞を育てる技術は「細胞農業」と呼ばれています。細胞農業では「動物細胞」と「培養容器」と「栄養源など」のそれぞれの分野で技術開発が進められています。これらの技術を総動員したのが培養肉なのです。

編集部編集部

細胞農業について、もう少し詳しく教えて下さい。

志田 美春さん志田さん

細胞農業の技術は代替食肉だけにとどまりません。例えば、将来的には革を作るための細胞や化学合成が難しい色素を作り出す細胞などの素材を生み出せるようになるかもしれません。このように私たち人類が動物細胞を使って何かを作ることができるようになったのは、飛行機や機関車の開発に匹敵する革命的な出来事です。そのため、細胞農業の技術はほかにも再生・細胞医療をはじめとするこれまでに人類が成し得なかった様々な分野への応用が期待されています。

編集部まとめ

近いうちに日本でも、手頃な価格で美味しい培養肉が食べられるようになるかもしれないのですね。現在、そのために低コストでできる製造方法の開発や法整備が進められているようです。また、培養肉は、タンパク質不足の解決や地球の環境保全にもつながると期待されています。これからスーパーや飲食店で気軽に培養肉を見かけるような時代がやって来るかもしれません。

この記事の監修薬剤師