ポリファーマシーとは? 薬を多用する問題点と対策を薬剤師が解説
“ポリファーマシー”という言葉をご存知でしょうか? ポリ(多くの)+ファーマシー(薬)で”多剤併用”という意味です。薬局への調査の結果、75歳以上の25%が7剤以上、40%が5剤以上飲んでいることがわかりました。高齢者の方によく起こるふらつきや物忘れなどは、加齢によるものと勘違いされやすいのですが、そのふらつきや物忘れが薬による副作用だとしたら? そんな本当はおそろしいポリファーマシーについて薬剤師の高野さんに解説していただき、どうしたら防げるのかアドバイスをいただきました。
監修薬剤師:
高野 裕美(薬剤師)
目次 -INDEX-
ポリファーマシーの意味とは 定義と薬の多用の問題点・副作用について解説
編集部
ポリファーマシーという言葉をはじめて聞きました。定義を教えてください。
高野さん
多くの薬を服用しているために副作用を起こしたり、きちんと薬が飲めなくなったりしている状態をポリファーマシーといいます。単に服用する薬の数が多いことではありません。高齢者になると複数の病気をもつ方が増えるので、病気の数だけ処方される薬が多くなります。
編集部
多くの薬とは、具体的にどのくらいの数ですか?
高野さん
何種類の薬を飲んでいたらポリファーマシーとするかは決まっていません。ただ、薬の数に比例して副作用は増加しますし、高齢者では6剤以上の薬を飲むと副作用の発生率が特に増えることがわかっています。また、5剤以上で転倒が多くなるという研究結果もあります。一方で、治療に6剤必要なこともありますし、3剤でも副作用が出るケースもあります。つまり、「複数の薬を飲んでいる。かつ、何か問題が起きているかどうか」で考える必要があります。
編集部
ポリファーマシーの問題点を教えてください。
高野さん
問題点の1つ目は、患者さんに副作用が出てしまうこと。2つ目は、薬が増えるときちんと飲めなくなって、薬がどんどん余って貯まってしまうことです。これでは薬の効果が出ませんし、もったいないですよね。家に眠っている、使われていない薬が医療費の圧迫につながっています。
編集部
なるほど。ポリファーマシーで特に多い副作用はありますか?
高野さん
高齢者に起こりやすい副作用はふらつき・転倒、物忘れです。ほかにも、うつ、せん妄(頭が混乱して興奮したり、ボーッとしたりする症状)、食欲低下、便秘、排尿障害などが起こりやすいですね。
なぜ処方薬が増えてしまうのか? ポリファーマシーの原因とは
編集部
薬を減らせば良さそうなのに、どうして処方薬が増えてしまうのでしょうか?
高野さん
高齢者では自然と処方薬が増えていってしまうようなことが起こるのです。高齢になると持病が増えますよね? その分、受診する病院・診療科が増えます。診察したお医者さんがそれぞれ2〜3剤を処方したら、副作用の発生率の高い6剤以上にあっという間になってしまいます。薬の数が多くて管理しきれず、きちんと飲めていないと医師が期待していた効果が得られずに、さらに薬を追加することもあります。また、処方カスケードという問題もあります。
編集部
処方カスケードですか? はじめて聞きました。
高野さん
例えば、あるおじいちゃんが“A薬を飲んでいたら胃が痛くなる”という副作用が出てしまったとしましょう。しかし、“副作用とは気づかずに消化器の別の病院を受診して、胃痛に効くB薬が処方され”その後、“B薬を飲んでいたら今度は夜寝つきが悪くなったので、心療内科へ行って睡眠薬のC薬を処方してもらった”というように、副作用が出ているのに気づかずに原因薬剤はそのままで、副作用に対して更に処方薬を追加してしまう負の連鎖を処方カスケードと言います。
編集部
まさに負の連鎖ですね。高齢者で副作用が増えるのはどうしてですか?
高野さん
高齢者では体の加齢変化により肝臓・腎臓の働きが弱くなります。すると、薬を分解したり、体外へ排泄したりするのに時間がかかるようになり、薬が体内に残りやすくなります。また、加齢で持病が増えて薬の数が増えると、薬同士が相互に影響しあうこともあります。そのため、薬が効きすぎてしまったり効かなかったり、副作用が出やすくなったりします。
ポリファーマシーの対策と正しい薬の飲み方を薬剤師が解説
編集部
ポリファーマシーにならないための対策を教えてください。
高野さん
日頃からかかりつけの医師や薬剤師を持って、処方されている薬の情報を把握してもらっておくと安心です。もしそれが難しかったとしても、自分の処方されている薬が分かるようにお薬手帳を持ちましょう。必ず1冊にまとめてくださいね。お薬手帳を毎回、医師や薬剤師へ見せるようにしてください。
編集部
薬をきちんと正しく飲むためにできる工夫はありますか?
高野さん
薬をきちんと飲めていないと医師が効いてないと思って、さらに薬を追加してしまうかもしれませんからね。重要な問題です。できる工夫は様々ありますが、服薬カレンダーやピルケースの活用、薬の一包化などが取り組みやすいと思いますよ。薬剤師は患者さんが服薬に気をつけていても、どうしても忘れてしまうことをよく知っています。気軽に薬局で相談してみてください。
編集部
ポリファーマシーが心配になって相談するときに、気をつけることはなんでしょう?
高野さん
使っている薬は必ずぜんぶ伝えましょう。サプリメントや健康食品も伝えてください。いつ頃から、どのような症状が出てきたのかメモしておくと良いですね。
編集部
最後に読者へのメッセージをお願いします。
高野さん
薬が追加されたり変わったりしたあとは、食欲低下や排尿障害、気分が沈む、ふらつき、めまい、便秘、眠気、物忘れといった症状に注意してください。気になる症状があっても勝手に薬をやめたり減らしたりするのはよくありませんし、薬が多いからと言って必ず減らすべきということでもありません。薬によっては急にやめると病状が悪くなったり、思わぬ副作用が出たりすることがあります。必ず医師や薬剤師に相談しましょう。
編集部まとめ
ポリファーマシーがどういうものか、何が原因で何が問題なのか。そして、対策まで解説していただきました。だれもが薬を増やしたくないはずなのに、なぜ増えてしまうのか分かっていただけましたか? この記事を読んでもし気になることがあれば是非、医師や薬剤師に相談してみてくださいね。