「神経ブロック注射」の種類・違い・効果などを医師が徹底解説!
慢性的な痛みがあると日常生活にも支障が出ますし、QOLも低下させてしまいます。そこで注目したいのが「神経ブロック注射」です。痛みを取り除き、再発を抑えることができるということで注目を集めている治療法ですが、一体どのような症状に適応なのでしょうか。また、治療はどのようにしておこなわれるのでしょうか。今回は「中野島整形外科」の山田先生に解説してもらいました。
監修医師:
山田 浩司(中野島整形外科)
神経ブロック注射とは? どんな症状が適応なの?
編集部
まず、神経ブロック注射について教えてください。
山田先生
神経ブロック注射とは、炎症のある神経、あるいはその周囲に注射をおこない、痛みを取り除く注射のことです。しかし、ただ注射を打てばいいというわけではなく、その前の診断が何よりも重要となります。診断さえ正しければ、多くの場合、神経ブロック注射を打った直後から痛みが改善します。
編集部
注射してすぐに効果が現れるのはすごいですね。
山田先生
痛みの原因を確認することができるので、患者さんにも安心していただけます。また、痛みが改善すると、そのほかの部位の痛みに対する閾値(いきち)も高くなり、一緒に痛みが軽減されることもあります。
編集部
具体的には、どのような薬剤を注射するのですか?
山田先生
主に、局所麻酔薬やステロイドなどを注射します。具体的に言うと、局所麻酔薬は主に「キシロカイン」を使用します。キシロカインは中毒になりやすいので、注射する場所が多いときは投与量が増えないように工夫します。また、ステロイドを併用する施設も多いですが、併用しなくても十分な治療効果が得られますので、当院ではほとんど併用していません。ステロイドは、その特性上、肩やばね指の注射で使用することが多いですね。
編集部
神経ブロック注射の適応について教えてください。
山田先生
当院では、主に下肢の痛みやしびれなど、坐骨神経や大腿神経症状を対象としています。また、一部の腰痛も適応になります。首~肩~腕の痛み・しびれに対しておこなっている施設もあります。
編集部
ぎっくり腰にも効くのですか?
山田先生
基本的に、ぎっくり腰に神経ブロック注射は不要です。ぎっくり腰は、適度な活動を保っておけば、自然に改善することが知られているからです。神経ブロック注射の適応となる病態は、主に「腰部脊柱管狭窄症」「腰椎椎間板ヘルニア」「上殿皮神経障害」などです。なお、仙腸関節障害に対しては仙腸関節ブロックも有効です。帯状疱疹の患者さんは、皮膚科治療を優先しますが、帯状疱疹後の慢性疼痛に対して神経ブロック注射をおこなうこともあります。
編集部
神経ブロック注射は、痛み止めとは違うのですか?
山田先生
神経ブロック注射は、神経の痛みに対しておこなう治療法です。神経ブロック注射のメリットは、「打った直後に劇的な改善が見込める点」です。患者さんからは、「まるで魔法にかかったみたい!」というお声もいただくほどです。麻酔薬が直接神経(患部)の近くに注入されるので、痛みの原因と場所さえ正しければ、劇的に改善します。また、神経ブロック注射は痛みだけでなく、強いしびれにも有効です。患部に直接麻酔が入るため、内服の痛み止めとは全く違う作用を呈して、より効きやすいとされています。
編集部
即効性があるという点で優れているのですね。
山田先生
はい。それから神経ブロック注射は、内服薬特有の副作用がなく、正しくおこなえばとても安全です。そのため、何かしらの理由で内服が難しい人などは、神経ブロック注射を中心に治療することもあります。また、神経ブロック注射で痛みが軽減すれば内服の量も減りますので、とても良い相乗効果が期待できます。
編集部
「一時的な鎮痛効果ではない」ということですね。
山田先生
そういうことです。痛みは一度連鎖を断ち切ると、そのまま痛みがなくなってしまうことが知られています。また、一度の神経ブロック注射では完全に痛みが取れなくても、何回か繰り返すことで痛みがなくなる、あるいはほとんど気にならないレベルとなって、通常の日常生活を取り戻せる場合があります。実際に当院でも、20年近く色々な治療を試してもまったく改善せず、100mも歩けなかった若い女性が、数回の神経ブロック注射によって劇的に改善して、今ではブロックなしでも日常の生活を取り戻したケースもあります。
神経ブロック注射の種類や効果
編集部
神経ブロック注射はどれくらいの頻度で注射をすると、効果が期待できるのですか?
山田先生
神経根ブロックや仙骨硬膜外ブロックは、一般的には、2週間に1回が目安となります。ただし、神経の痛みは時に激痛です。「死んだ方がマシ」とまで思われる患者さんもいるほどです。そのため、本当に痛みがひどいときは、より頻回に神経ブロック注射をおこなう場合もあります。
編集部
神経ブロック注射にはどのような種類があるのですか?
山田先生
例えば、腰や下肢痛だと主に透視室でおこなう「神経根ブロック」や、処置室でおこなう「仙骨硬膜外ブロック」「上殿皮神経ブロック」「トリガーポイント」などがあります。また、仙腸関節障害に対しては、「仙腸関節ブロック」が有効です。
編集部
それぞれ、治療の目的や効果が異なるのですか?
山田先生
はい。そして、神経ブロック注射は痛みの原因や部位によって使い分けることが重要です。例えば、神経根に痛みがあるのに、仙腸関節に注射をしても効果がありません。そのため、MRIなどの画像検査でどこが痛いのかを正確に診断することが何よりも重要になってきます。
神経ブロック注射の治療の流れや費用について
編集部
神経ブロック注射の治療は、どのような流れでおこなわれるのですか?
山田先生
まずはベッドの上でうつ伏せになっていただきます。その後、患部を消毒してブロック注射をおこないます。一般的に神経根ブロックはとても難しい手技とされますが、経験を積んだ医師であれば数秒で終わります。最後の治療薬(局所麻酔薬)を入れるときに痛がる方が多いですね。それから15~30分間、安静にしていただきます。ベッドサイドで足踏みをしていただき、とくに問題がないようでしたら治療終了となります。
編集部
神経ブロック注射は保険適用なのでしょうか?
山田先生
神経根ブロックや仙骨硬膜外ブロックは、2週間に1回程度であれば保険適用となります。
編集部
神経ブロック注射をするにあたり、注意点はありますか?
山田先生
ワーファリンやバイアスピリンなど、血液がサラサラになる薬を服用している場合には、体の内部で出血が起こる可能性があります。その場合は必ず事前にご相談ください。また、当日の激しい運動は避けていただき、当日の入浴はシャワーのみにとどめてください。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
山田先生
神経ブロック注射は様々な種類があり、非常に高い治療効果が得られる治療法です。ただし、繰り返しにはなりますが、最も大事なのは注射の前に適切な診断をおこなうことです。この診断が正確でなければ、せっかくの神経ブロック注射も功を奏さなくなってしまいます。とくに頸椎~腰椎由来の痛みの診断は、画像診断が難しい場合が多いので、我々のような脊椎外科医にご相談されるのがいいでしょう。痛みを一刻も早く改善するためには、MRIなどの画像検査から注射までをスピーディーにおこなうことが肝心です。当院では通常、当日~数日以内に全て施行可能ですが、大きな病院ではMRIの予約、透視室の確保などに時間を要する傾向にありますのでご注意ください。また、整形外科やペインクリニックなどの神経ブロック注射をおこなう医療機関を訪れる場合は、MRIなどの画像結果を持参いただけるととてもスムーズです。
編集部まとめ
打ってすぐに痛みから解放される神経ブロック注射。炎症を持ち過敏になっている神経を落ち着かせ、痛みの連鎖を断ち切るという役割があります。とくに腰・下肢の痛みやしびれでお悩みの方は、神経ブロック注射の適応である可能性があります。これらをおこなっている医療機関に相談してみてはいかがでしょうか。痛みを解消して、快適な日常生活を取り戻しましょう。
医院情報
所在地 | 〒214-0012 神奈川県川崎市多摩区中野島6丁目26-2 |
アクセス | JR南武線「中野島駅」 徒歩2分 |
診療科目 | 整形外科、脊椎外科 |