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【闘病】「重症筋無力症」という病気が「疲れ」「強い眠気」の正体だった

 更新日:2023/06/22
【闘病】「重症筋無力症」という病気 「疲れ」「強い眠気」の正体だったとは

闘病者のワイワイさん(仮称)は、仕事で忙しい日々の中で、強い眠気を感じるようになりました。次第に朝起きられなくなったり、やがては固形物も食べられなくなったりしたほどに身体が不自由になっていったといいます。様々な検査など紆余曲折を経て、重症筋無力症の診断まで2ヶ月近くかかったそうです。その過程や治療などについて、話を聞かせてもらいました。

※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2022年5月取材。

ワイワイさん

体験者プロフィール
ワイワイ(仮称)

プロフィールをもっと見る

1991年生まれ。中部地方在住。2018年にダブルセロネガティブの重症筋無力症(全身型)と診断される。以降は入退院を繰り返しながら、日々の生活維持に励んでいます。

村上 友太

記事監修医師
村上 友太(東京予防クリニック)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。

眠気が強いと思っていたら…

眠気が強いと思っていたら…

編集部編集部

最初に不調や違和感が表れたのは、どういった状況だったのでしょうか?

ワイワイさんワイワイさん

2018年の1月ごろからです。最初は「眠気が強いな」と感じるぐらいでした。ちょうど仕事が忙しい時期でしたので単に疲れのせいかと思っていましたが、いくら睡眠を取っても眠かったのでおかしいなと思いはじめました。そのうち朝起きるのが難しくなってきて、昼から出勤したり休んだりすることが多くなり、2月ごろになると、一度座ると次に立ち上がるときに身体が重く、気合を入れないと立ち上がれなかったり、今まではどうってことなかった距離を歩くのがしんどくなったり、階段を数段登るだけでも息苦しくなりました。

編集部編集部

生活に支障が出てきたのですね。

ワイワイさんワイワイさん

さらに、料理をすることもできなくなり、市販の栄養補助食品などを食べるようになっていたのですが、しだいに噛むこともつらくなり、ゼリー飲料などになりました。呂律も回りにくくなっていたと思います。後からわかったのですが、眼瞼下垂と倦怠感の症状を、「眠気」と勘違いしていたようです。

編集部編集部

受診から、診断に至るまでの経緯を教えてください。

ワイワイさんワイワイさん

どう考えても調子が悪いので、かかりつけ医に相談しました。眼瞼下垂や呂律が回っていないことなどから、おかしいことにすぐ気づいてもらえました。症状を話したところ、先生が「重症筋無力症の症状があてはまる」と神経内科のある大きな病院に紹介状を書いてくれることになりました。これは本当に幸運だったと思っています。

編集部編集部

紹介された病院での話も聞かせてください。

ワイワイさんワイワイさん

紹介された神経内科を受診し、重症筋無力症の症状を緩和するメスチノンという薬を処方してもらいました。メスチノンを飲むと息苦しさや怠さが減って、嘘のように症状が軽くなり、「これで治る」と思ったものです。しかしその後、「血液検査の結果が陰性でした。もうメスチノンを処方することはできません」と言われました。メスチノンが効いていたことや症状の辛さを訴えたのですが、受け入れられずに診察は終わりました。

編集部編集部

その後、どうされたのですか?

ワイワイさんワイワイさん

納得がいなかったので再びかかりつけ医の先生に相談したところ、「大きな病院ではないけれど信頼できる先生がいる」と別のクリニックへ紹介状を書いてもらうことができました。そこで今までの経緯を話し、また実際にメスチノンを飲んで症状が緩和していることも確認してもらいました。すると、やはり重症筋無力症の可能性が高いということで、ふたたび最初の大病院の、別の先生に紹介状を書いてもらえることになりました。

編集部編集部

今度は診断がつきましたか?

ワイワイさんワイワイさん

はい。再び神経内科を受診したところ、今度は血液検査ではなく、運動機能検査や薬を使った検査をしてもらいました。その結果、再度「重症筋無力症の疑い」と診断され、検査と治療のために即日入院となり、詳しい検査や治療をしていく中で重症筋無力症で確定診断がおりました。受診から2ヶ月ほどで診断が降りたので、ダブルセロネガティブ(後述)の重症筋無力症にしては早い方だったと思います。

編集部編集部

どんな病気なのでしょうか?

ワイワイさんワイワイさん

重症筋無力症は、簡単にいうと筋肉がすぐ疲れてしまう病気です。自分の免疫が過剰反応して起こるそうで、筋肉自体に問題があるわけではありません。私はその中でも全身の筋肉に症状が出てしまう全身型というタイプです。また、血液検査で重症筋無力症の特徴となる2つの抗体が陰性にもかかわらず症状があるダブルセロネガティブというタイプなのだそうです。

編集部編集部

症状についてもう少し詳しく教えてください。

ワイワイさんワイワイさん

私の場合は、強い倦怠感や眼瞼下垂、呂律が回らない、飲み込みにくくなる、噛みにくくなる、呼吸苦、複視、眼精疲労、めまい・吐き気などがあります。無理をして動きすぎると筋肉が震えて動けなくなったり、ひどいときは呼吸筋の痙攣によって呼吸困難に陥ったりすることもあります。そのため日常的にあまり動くことができません。

編集部編集部

どのように治療を進めていくと医師から説明がありましたか?

ワイワイさんワイワイさん

まずは免疫グロブリン療法で呼吸苦などの重度の症状を抑えてから、ステロイドパルス療法で症状を落ち着かせつつ、プレドニンやプログラフといった免疫抑制剤を飲みながら、今後の薬の量を調整していくと説明してもらいました。同時にリハビリも開始しました。

編集部編集部

そのときの心境について教えてください。

ワイワイさんワイワイさん

メスチノンが効いていたこともあり非常に楽観的で、すぐ退院できるだろうと考えていました。それよりも年度末でしたので放置していた仕事をどうするかの方が心配でした。また、ネットで重症筋無力症の人のブログやSNSを調べてみても、多くの人が仕事に復帰していたり、スポーツも楽しんでいたりしていたので、自分も大丈夫と思っていました。今思えば、症状が重い人はブログを書くのは難しいので、ネットで情報が出てこないのは当然でした。自分がまさかこんな大変なタイプだったとは思いもしませんでした。

憧れのゆるふわパーマを…

憧れのゆるふわパーマを…

編集部編集部

実際の治療はどのようにすすめられましたか?

ワイワイさんワイワイさん

最初の免疫グロブリン療法やステロイドパルス療法は効果がありました。そのため日常復帰に向けてプレドニンの量を調整していく段階に入りました。しかし、プレドニンの量を減らしていくと、どんどん症状が元に戻ってしまったのです。プレドニンの量が多い時は階段を登ったり降りたり、売店まで歩いていくこともできましたが、減らしていくと階段どころか50m歩くのも難しくなりました。再びステロイドパルス療法や免疫グロブリン療法を受けましたが、効果はあまり持続しませんでした。

編集部編集部

そうすると、その後の治療はどうされたのですか?

ワイワイさんワイワイさん

そこで血漿交換をやることになり、罹患する前に戻ったかと思うくらいとても効果が出たのですが、こちらも1ヶ月ほどしか効果が持続しませんでした。短いスパンで何度も血漿交換を繰り返すのは現実的ではないので、血漿交換はこの一度しか受けていません。この時期から「罹患前の身体の状態に近づける」という治療方針から、「生活できる身体の状態を探っていく」という方針に変わりました。プレドニンの量とステロイドパルス療法の頻度を調整し、これならば退院できるだろうというところを見つけるまでに半年かかりました。

編集部編集部

それで退院することができたのですか?

ワイワイさんワイワイさん

はい。退院後はプレドニンとプログラフと症状緩和のメスチノンを服用しながら生活し、これ以上は生活することが難しい状態になったら入院してステロイドパルス療法を行い、それでも回復しなければ免疫グロブリン療法をしてもらっています。筋力維持のためのリハビリも、身体に無理のない範囲で慎重に行ってもらっています。

編集部編集部

治療や闘病生活の中で、何か印象的なエピソードなどあれば教えてください。

ワイワイさんワイワイさん

入院する半年前に約4万円かけたゆるふわロングヘアを病院の床屋でバッサリ切ったことです。もともと髪質のせいでパーマがうまくかからず、ゆるふわパーマにするのがずっと夢でした。入院して最初の方は大量の薬が効いていてまだ髪を洗うのも乾かすのも苦ではなかったのですが、症状が強くなっていくにつれて、腕を挙げたり動かしたりするのが辛くなってきました。とても気に入っていて、4万円もかけたのに半年しか楽しめてないことにすごく悩みましたが「背に腹はかえられない」と切ることにしました。残念でしたがとても洗いやすく、乾かしやすくなったのでQOLはとても上がりました。自分で洗えないときに洗髪してくれる看護師さんからも好評だったので、切って本当によかったです。

今日洗濯をしたら明日は予定をいれない

今日洗濯をしたら明日は予定をいれない

編集部編集部

病気の前後で変化したことを教えてください。

ワイワイさんワイワイさん

大きく変化したことは、まず病院の近くへ引っ越しをしたことです。そして車椅子ユーザーになりました。立ち上がる動作が苦しいので初めてのベッド生活をしています。仕事の面でも大きく変化しました。また、感染予防を徹底するようになりました。免疫抑制をしているので手洗いうがいの徹底、マスク着用、食べ物をシェアしないなど、気をつけることがたくさんあります。服装も着やすいものを着るようになりました。以前はコンサバ系をよく着ていたのですが、今は車椅子なのもあって、ゆったりとした服を着ています。ネイルもしなくなりました。ネイルをしていると指先で酸素が測りにくくなるため、急に病院へ運ばれた時を想定して、今は自爪です。

編集部編集部

精神面で変化はありますか?

ワイワイさんワイワイさん

出来ることは、とにかく出来る時にやると心がけるようになりました。以前は「明日できることは今日やらない」がモットーでしたが、今は、先延ばしにすると次いつ出来るかわからないので出来る時にやるようにしています。よく計画して動くようにもなりましたね。自分の体力や体調の変化を予測して動かないと、無理をすれば倒れますので。たとえば今日洗濯をしたら、明日は予定を入れないとか、昼に自炊したら夜は出来合いのものにするなど、小さなことでも先を計算して動いています。

編集部編集部

今までを振り返ってみて、後悔していることなどありますか?

ワイワイさんワイワイさん

病気自体は発症の原因が解明されておらず、こうしておけば防げたかも、というような後悔はありません。一方で、もっと動ける時にいろいろやっておけばよかったという後悔はあります。コンサートや海外旅行、あとゲームももっとやっておけばよかったと思っています。金銭面では、保険に入っておけばよかったなと思いました。ありがたいことに親が入っていてくれたのでよかったのですが、自分でも入っておけばよかったと思っています。それと、病気になってからの受診や入院の記録をきちんとしておけばよかったです。日付や症状、治療などをまとめておくと、例えば助成金の申請時などに書類をひっくり返して調べ直すことがないので楽だったと思います。

編集部編集部

現在の体調や生活はどうですか?

ワイワイさんワイワイさん

あまり変化はありません。ただ発症から時間が経ち、動くことが少なくなっているので、体力・筋力が落ちてきています。前までは、移動に数時間かかるような遠出も問題なかったのですが、今は1時間くらいが限度で、それ以上は疲れて何も出来なくなります。歩ける距離もだんだんと短くなっています。また以前は症状が強い時にしか出なかった複視が、今は常にあるようになり、プリズム眼鏡をかけるようになりました。でも、あまり悲観はしていません。コロナになると大変なことになりかねないため、外食や外出しないようにしています。3年くらい外食していないので、そろそろラーメンやもんじゃ焼きが食べたいです。

編集部編集部

医療機関や医療従事者に望むことはありますか?

ワイワイさんワイワイさん

寄り添ってもらいながら密に治療をしていただいているので、本当に感謝しかないです。幸せだなと思います。いつもありがとうございます。あとは、研究が進んでくれると嬉しいなと思います。最近新薬が認可されたそうなのでとても期待しています。また、神経内科の医師がもっと増え、症状に苦しむ患者さんが、1日でも早く診断がつき、治療に進めますようにと願っています。

編集部編集部

最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。

ワイワイさんワイワイさん

私は周囲からの病気の理解が得られやすい方でしたが、なかなか周囲の理解が得られない中で症状がありながらもなんとか社会生活を送っている重症筋無力症患者の方が圧倒的に多いと聞きます。一見信じられないようなや理由で「つらい、しんどい」と訴える人がいても、「そんなわけない」ではなく「そういうこともあるのかも」と、一旦信じて許容してもらえると嬉しいなと思います。

編集部まとめ

受診から診断まで2ヶ月近くかかっても「早い方だった」「自分は本当に幸運だったと思う」、そして「症状に苦しむ患者さんが、1日でも早く診断がつき治療に進めますように」とおっしゃるワイワイさん。難病を抱えながらも、周りに優しく前向きな生き方が印象的でした。

この記事の監修医師