~実録・闘病体験記~ 私が疲れやすいのは「怠け」でなく重症筋無力症だった
「昔から疲れやすかった」と語るのは、2021年に重症筋無力症と診断され、胸腺腫も併発した和田直子さん。和田さんはいつものように仕事をしていたところ、物が二重に見える複視と眼瞼下垂に悩まされるようになりました。そして精密検査の結果、重症筋無力症との診断。見た目にはわかりにくい重症筋無力症に悩まされる和田さんが、周囲に理解してもらうことの大切さを語ってくれました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2022年4月取材。
体験者プロフィール:
和田 直子
神奈川県在住、40代女性。2021年7月、まつ毛のエクステサロンで施術後、翌日から左瞼の開きにくさと複視を自覚。眼科を受診するとものもらいの診断を受けるが、治療をしても改善が見られなかった。その後も症状が続くため別の医師に診察してもらったところ、大学病院の神経内科を受診することに。精密検査の結果「重症筋無力症」と確定診断を受けた。
記事監修医師:
村上 友太
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
「以前から疲れやすさは自覚していた」もっと早く受診していればと後悔
編集部
和田さんの発症した重症筋無力症とはどのような病気なのでしょうか?
和田さん
重症筋無力症は全身の筋力に影響が出る病気で、腕の動かしづらさや瞼の開きにくさ、物が二重に見える複視、食べ物の飲み込みづらさなどが生じます。厚生労働省に指定された難病で、統計では10万人に約13人が発症するそうです。男女別では女性のほうが男性より2倍ほど患者数が多く、抗アセチルコリンレセプター抗体が増えることで、神経から筋肉への指令の伝達が阻害され、上手く筋肉が動かなくなります。悪化すると呼吸筋も動きにくくなり、呼吸困難を生じます。最悪の場合は死に至ることもある病気です。
編集部
和田さんの場合はどのような症状から始まったのでしょうか?
和田さん
明確な症状として現れたのは2021年の7月頃、いつもとは違うまつげのエクステサロンで施術を受けた後からです。左瞼の開きにくさと複視が症状として現れ、エクステが原因かと思って戻してもらっても改善せず、眼科を受診しました。眼科で点眼薬などをもらいましたが、それを使っても改善はせず、何が原因か最初はわかりませんでした。
編集部
では、どのように病気が判明したのでしょうか?
和田さん
ふと「夕方になると疲れやすく、週末になるとぼやけなどが出やすい」と医師に話したところ、血液検査をすることになりました。検査の結果、大学病院の神経内科を受診することになり、そこで抗アセチルコリンレセプター抗体が高くなっていることがわかって、「重症筋無力症」であると判明したのです。
編集部
症状は突然現れたのですか?
和田さん
実は思い返してみると、昔から疲れやすい体質で「疲れた」が口癖のようになっていました。はっきりとした症状が現れたのは目ですが、それよりもずっと前から症状はあったのかもしれません。今思うとなぜもっと早く見つけてあげられなかったのか、もっと自分の体を大切にすればよかったと思います。
編集部
病気が判明したときはどのような気持ちだったのでしょうか?
和田さん
重症筋無力症と聞いた時は、聞いたこともない病名でとにかく「ただ、ただ怖い」という状況でした。自分の意識とは別にふと涙があふれることもありました。そして、自分の今までのことを振り返って、どのくらい前から発症していたのか、「エクステがいつも通りだったらわからなかったかも」など、色々と考えました。
胸腺腫も併発し、手術と治療のための入院も経験
編集部
検査や治療はどうでしたか?
和田さん
約1か月ほど採血や尿検査、CTなどの検査ラッシュが続き、胸腺腫があることもわかりました。ほかにも眼瞼下垂のテンシロンテスト誘発・筋電図・脳MRIなども行い、とにかく全身をくまなく検査しました。その後はまず胸腺腫摘出手術のために口腔外科でケアを行うなど、手術準備も必要でした。通常は前日入院のところを、重症筋無力症の患者は、クリーゼの対策のために手術の2日前に入院し、手術へと臨みました。手術は5~6時間位掛かり、術後は1週間ほど入院しました。しかし、退院後1カ月ほどで体調が悪化し、脱力感、むせ、息切れ、複視、同じ体勢が保てないなどの症状で再入院しなければなりませんでした。
編集部
症状の悪化は急なことだったのですか?
和田さん
退院前に主治医も予想していて、「2カ月位経つと重症筋無力症の症状が悪化するだろう」とは言われていました。そして主治医の言うとおりになった感じです。入院してからは血液浄化療法を行い、その後はステロイドパルスを行う計画になりました。しかし、そこでもステロイドパルス前の内服薬で症状が悪化して、ステロイドパルス治療は延期になってしまいました。
編集部
思うように治療が進められなかったのですね。
和田さん
結局、ステロイドの量を4分の1にして2クール治療する方針に変更しました。ですが、それでも症状の増悪、副作用も強く、不眠が続く日々でした。2クール実施後も症状の改善はあまり見られず、ハーフパルスを1クール追加して終了しました。治療の効果はいまいちでしたが、手術の影響や敗血症のリスクも考えて、治療と入院生活も終わりました。
編集部
今後の治療はどのように進むのか決まったのですか?
和田さん
私の場合はステロイドが効きにくいので、今後はソリリス(全身型重症筋無力症治療薬、一般名:エクリズマブ)と治験も視野に入るそうです。ただし、治験は私の場合まだ条件を満たしていない部分もあるので、そこを満たせばコーディネーターさんが付き、フォローもしてくれると聞きました。ほかには内服薬の見直しのおかげで、免疫抑制剤も変わってから効きが良くなっている感じがあります。もう少し症状が治まってきたら、落ちた筋力を戻したいと思っているところです。
「目に見えない病気」に苦しむ患者の心を理解してもらいたい
編集部
現在はどのような日々を過ごしているのですか?
和田さん
まだ症状は色々ありますから、とにかくストレスを少なくできるようにと考えて、引き算方式でライフスタイルを見直しているところです。自分を大切に、無理をせず、頑張りすぎないように心掛けています。
編集部
お仕事はどうされているのですか?
和田さん
今のところは症状が落ち着かないので休職中です。常に複視があることと、ちょっとしたことで脱力や息切れがするので、通勤と夕方までの8時間労働は厳しいですね。私の場合、事務職ですが、ずっと座って仕事をしていると首や腰にかなりの負担が掛かって、座っている姿勢をキープすることもできません。また、複視以外にも光を異常に眩しく感じてしまうため、冬でもサングラスは必須の状態です。仕事内容はリモートでも問題ないのですが、残念ながら職場からの許可は下りていません。まだまだ病気を抱えながら生きている人に対して、会社の理解が低い現状を痛感しています。
編集部
周囲からの理解を得にくい状況にあるのですね。
和田さん
重症筋無力症は「怠け病」と言われることもあったそうです。他人から見るとわかりづらく、元気そうに見えるかもしれませんが、本人にとってはとてもつらい病気です。重いものを代わりに持ったり、行動するときに少し手を貸してもらったりするだけでも、負担が軽減されます。見えにくい症状であっても、ちょっとした思いやりを持って接してもらいたいと思います。
編集部
医療従事者の方にメッセージはありますか?
和田さん
入院中も通院も、いつも優しく接していただいて感謝しかありません。コロナ禍もあってプライベートにも気を遣っているはずですから、かなり制限されていると思います。医療従事者の方のおかげで私も日常が送れているので、制限がなくなったら、どうか思いっきり好きなことを楽しんでほしいです。
編集部
最後に読者の方へのメッセージも頂けますか?
和田さん
私の場合は重症筋無力症でしたが、誰にどんな病気が潜んでいるかわかりません。健康診断は基本ですが、健康診断では分からない病気も沢山ありますから、不調を感じたら身近な人に相談してみることも必要です。「疲れているだけ」「そのうち治る」で済まさずに、自分の身体に向き合ってください。
編集部まとめ
和田さんは現在も治療を続けながら、体調を落ち着かせるようライフスタイルの見直しも進めていました。今後も新たな治療に臨もうとしている和田さんの話を聴き、本記事としても紹介しました。重症筋無力症は外見からは分かりにくい病気ですが、和田さんのように症状や治療の副作用で大変な思いをしている患者が大勢います。見た目だけで判断せず、まずは声を掛けて手助けが必要か尋ねてみましょう。小さな思いやりが苦しむ人の心を救うだけでなく、社会全体の優しさにも繋がっていくはずです。