【体験談】私が頻繁につまずくのは「シャルコー・マリー・トゥース病」のせいだった(2/2ページ)

気持ちを整理するために誰かとつながっていく

編集部
気持ちを切り替えるきっかけなどはありましたか?
山田さん
確定診断の少し後(2000年頃)に「ほかのCMT患者とつながりたい」と思い立ち、CMTの患者や家族が集えるようにインターネット上に掲示板を開設しました。そこで、小さな交流と情報交換を始めたのです。徐々に人が集まり、オフ会やミーティングを繰り返すうちに、CMTの研究班とも協働するようになったのです。作業療法士であり、いち患者でもある自分が、CMTの研究や患者会運営に役立てるのではないかと感じていくようになりました。作業療法士の仕事と、患者会の任務、日常生活を通して「新しい価値観の再獲得」をしていったのです。
編集部
治療中の心の支えはなんでしたか?
山田さん
人とのつながりがとても大切だと感じています。幼少期は、献身的な母をはじめ、家族のサポートが本当にありがたかったです。ほかにも、そばに居てくれる幼馴染たちも、心の支えでした。そして、患者会でつながった仲間たちによるピアサポートが、闘病生活だけでなく、生活、仕事、結婚、出産、育児に至るまで、ずっと勇気と希望を与えてくれているのです。何よりも、妻と娘たちがありのままの自分を受け入れ、当たり前に存在を肯定してくれているのが一番の心の支えになっています。
編集部
現在の体調について教えてください。
山田さん
現在42歳ですが、30代半ばから手足の麻痺は急速に進行しており、呼吸筋の力も弱くなってきています。CMTの中でも呼吸筋の麻痺がでるタイプもあるのです。歩行はインソールとカーボン製の短下肢装具を着用し、ロフストランド杖を使用しています。長時間や長距離の移動の際は、車椅子を利用して、体力を温存することもあります。握力はわずかしかなく、巧緻性もなくなってきました。日常生活や仕事では、自助具や共用品を活用したり、上手な身体の使い方をしたり、こまめな休息を心掛けたりして生活しています。まだ、CMTに対する根本的な治療は確立されていませんので、定期的なリハビリとロボットスーツHALでのリハビリを通して身体機能や生活能力の維持を図っています。
編集部
あなたの病気を意識していない人に一言お願いします。
山田さん
CMTは、軽症であればなかなか見た目で判断してもらうことが難しく、自身の症状をうまく説明できないでいることも多いです。そして「身体の動かしにくさ」や「わかってもらいにくさ」を抱えて生活している一方で、CMTと付き合いながらも生活は続いていくので、CMT患者が感じているモヤモヤが解消されることはなかなかないと思います。「モヤモヤしていること」だけでも受け止めていてもらえると、少しだけ生きやすいのかもしれません。
編集部
医療従事者に望むことはありますか?
山田さん
CMTは治療やリハビリにおいて、そのエビデンスが明確ではありません。しかしながら、世界的に研究が進んでいるのは確かで、リハビリの内容も以前とは違う方針になっています。私たち患者や家族は「もしかしたら効果が期待できるかもしれない薬が研究されている」「以前と違って、最近の研究では積極的に運動をした方がいい」このような、希望を持てる医師の言葉や最新の情報を求めています。医師の一言や態度で、気持ちが整うこともあります。医療はとても急速に進化しているため、CMT患者と医師のつながりは、ぜひとも途切れることなく、つながっておいてほしいです。
編集部
最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。
山田さん
「生きづらさを感じる」のは、「難病だから」「障害があるから」とか「自分自身のせい」ではないと思います。身体や心の問題も、もちろん抱えていると思いますが「自分らしい生き方ができない」という不自由さは「社会」の方にもたくさんの原因があるのだと思います。コロナ禍で多くの人が不自由を抱えた現在は、まさに「個人」ではなく「社会」の方に不自由の原因があるのではないでしょうか。どんな難病や障害があろうとも、自分がやりたいことをやれて、行きたいところに行き、食べたいものを食べ、会いたい人に会う。こんな当たり前なことがかなうような社会構造になっていけばいいなと願っています。
編集部まとめ
作業療法士として長年の病院勤務を経て、現在は重症心身障害児の通所施設に勤務されている山田さん。臨床を行いながら『当事者×支援者』という自身の存在を活用した研究や教育・セミナー・イベント企画・執筆など幅広く活動しているそうです。当事者の主観的で言語化されにくい体験を客観的かつ専門性を持って伝えることが自身の特徴で「当事者と支援者の架け橋になること」を命題として「やりたい想いを叶えられる社会づくり」を目指していると話されていました。今後も幅広く活躍されるのが楽しみですね。





