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放射線治療器「トモセラピー」の特徴・適応症例・治療の流れを医師が解説

 更新日:2023/03/27
【医師に聞く】放射線治療器「トモセラピー」の特長は? どんながんに有効なの?

がんの治療方法の1つが放射線治療です。今回は、放射線治療器「トモセラピー」について深掘りしていきます。特徴や治療時間、原理や仕組み、適応症例、副作用などの疑問について、放射線治療医の山本先生(宇都宮セントラルクリニック)をMedicalDOC編集部が取材しました。

山本 健太郎

監修医師
山本 健太郎(宇都宮セントラルクリニック)

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防衛医科大学校卒業。現「宇都宮セントラルクリニック」放射線治療部長。日本医学放射線学会、日本放射線腫瘍学会、日本癌治療学会の各会員。

最先端放射線治療器、トモセラピー(TomoTherapy)とは

最先端放射線治療器、トモセラピー(TomoTherapy)とは

編集部編集部

今回は「トモセラピー」というがん治療機器の特徴について伺いたいと思います。

山本 健太郎先生山本先生

トモセラピーは、放射線によってがんの治療をおこなう装置の一種で、日本では2005年から導入が開始されました。トモセラピーの特徴は大きく2つあり、「当てる放射線が一律ではなく、濃淡を変えられること」と「毎回の照射前に体内のがんの位置を確認して正確に照射できること」です。

編集部編集部

「当てる放射線が一律ではなく、濃淡を変えられること」には、どのようなメリットがあるのでしょうか?

山本 健太郎先生山本先生

放射線の強度を複雑に変えながら照射することで、放射線を当てたいがん自体には高い線量を照射し、かつ放射線を当てたくない周りの臓器の線量は減らすことができます。トモセラピーは、放射線の通過する経路上にがんが多くあるところでは放射線の強度を強くして、放射線をあまり当てたくない臓器が多い経路上では放射線の強度を弱くするといった調整を全方向から最適化することができます。がんの周りに照射される放射線の量を減らせれば副作用が軽くなることが期待できますし、がんにより多く放射線を当てられるようになれば治癒する可能性が高まります。ちなみに、この照射法のことを「強度変調放射線治療」と言います。

編集部編集部

ほかにもメリットはありますか?

山本 健太郎先生山本先生

トモセラピーは、CTスキャナーのようなトンネル状の装置になっており、患者さんが寝ている寝台を動かしながら照射していきます。そのため、通常の放射線治療装置では難しい頭尾側方向へ長い範囲に照射する必要がある場合は、トモセラピーが適していると言えるでしょう。

編集部編集部

「照射前に体内のがんの位置を確認して正確に照射できること」という特徴もありました。

山本 健太郎先生山本先生

はい。放射線治療ではほとんどの場合、一度に放射線を当てるのではなく、何回かに分けて照射します。我々の体の中では常に内臓は動いているので、がんとその周りの状況は毎回の治療時ごとに変わってきます。例えば前立腺がんの場合だと、便秘などによって前立腺の後ろにある直腸に便がたまりすぎていると、膨らんだ直腸が前立腺を前に押してしまい、前立腺の形と位置が変わってしまいます。このことを把握せずに照射してしまうと、「前立腺に当てるはずだった放射線が十分当たらず治癒する可能性が下がる」、または「直腸に放射線が当たりすぎてしまい出血のリスクが高くなってしまう」といったようなことが起こり得ます。トモセラピーでは、毎回の治療前に簡易的なCTを撮ることで、がんとその周りの状況を把握してから、がんそのものにしっかりと安全に放射線を照射することができます。なお、この手法のことを「画像誘導放射線治療」と言います。

医療現場でのトモセラピーの適応症例・がんの種類は?

医療現場でのトモセラピーの適応症例・がんの種類は?

編集部編集部

トモセラピーは、どんながんにも対応しているのでしょうか?

山本 健太郎先生山本先生

放射線治療の適応については、がんの種類も重要ですが、がんがどこまで広がっているか、つまりステージ(病期)で判断されることが多いですね。基本的に、放射線治療は照射した部位に治療効果がみられる局所治療です。転移がない場合なら、ある程度放射線を当てる範囲を限定できるのでいいですが、全身に転移が広がっているような場合は、抗がん剤などの薬物療法が主体となるケースが多くなります。

編集部編集部

「今までよくならなかったがん」が、トモセラピーによって快方に向かう事例はあるのですか?

山本 健太郎先生山本先生

通常の放射線治療装置と比較して、「トモセラピーだからこそがんの治療成績が改善した」というような差別化できる事例は残念ながらほとんどありません。ただし、先ほどご説明させていただいたとおり、トモセラピーは一言で言えば「画像誘導放射線治療が可能な強度変調放射線治療専用装置」です。同じ量の放射線を照射する場合、普通に照射する場合と比較して、がんの周りに照射される線量を減らすことができるので、重篤な副作用が出現する可能性が低く抑えられることが期待されます。総じて、トモセラピーは放射線の「当て方」であって、放射線治療の枠組みから離れた“特別な治療方法”ではないということです。

トモセラピーの治療の流れは? 保険適用で受けられる?

トモセラピーの治療の流れは? width=

編集部編集部

トモセラピーによる放射線治療の一連の流れが知りたいです。

山本 健太郎先生山本先生

一人ひとりの患者さんに最適な放射線治療を提供させていただくためには、治療前に入念な準備が必要になります。まず、放射線をどの方向からどのくらいの強さで照射すればいいかを専用の治療計画装置を用いて計算させるため、計画用のCTを撮影します。そして、このCTを用いて治療計画を作成した後、実際の患者さんで想定どおり照射できるかどうかを測定して検証する作業が必要になります。問題ないことを確認できれば、実際の患者さんに対しての放射線治療開始となります。ここまでに、だいたい1週間かかる場合が多いですね。

編集部編集部

トモセラピーによる副作用はあるのでしょうか?

山本 健太郎先生山本先生

トモセラピーに限らないことですが、放射線治療の副作用は照射された範囲の正常臓器がダメージを受けることで起きます。例えば、お腹の腸があるところに放射線が照射されると下痢が出現したり、膀胱であれば頻尿が出現したりします。ただし、今まで見てきたように、トモセラピーでは強度変調放射線治療と画像誘導放射線治療によってがんの周りの正常組織の線量を抑えられるので、通常の放射線治療と比較し副作用は少なくなることが期待されます。

編集部編集部

保険適用についてはどうでしょうか?

山本 健太郎先生山本先生

がんの種類によらず限局性のがんであれば、保険適用で強度変調放射線治療を実施することができます。

編集部編集部

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

山本 健太郎先生山本先生

放射線治療を患者さんの側に立って考えると、抗がん剤治療などを併用する場合を除いて入院する必要はなく外来通院で実施できる点は大きなメリットであると考えます。治療中は台の上でじっと寝ているだけでよく、痛みなどもありません。トモセラピーでは強度変調放射線治療と画像誘導放射線治療の組み合わせによって、がんに正確に放射線を照射することができますし、かつ副作用の少ない治療が可能ですので、治療を受けることができれば、ぜひ選択肢の1つに加えてみてください。

編集部まとめ

トモセラピーの主な特徴は、「がんにしっかり照射し、周囲のダメージを最小限にできること」と「治療前にがんの位置を確認して正確に照射できること」の2点とのことでした。そのうえで、放射線治療は局所治療であり、全身転移がある場合は補助的な治療になる可能性があることを押さえておきましょう。また、適応については、「がんの種類」と「どこまでがんが広がっているか」で決まります。

医院情報

宇都宮セントラルクリニック

宇都宮セントラルクリニック
所在地 〒321-0112 栃木県宇都宮市屋板町561-3
アクセス JR「宇都宮駅」 タクシーで30分
JR「宇都宮駅」 バスで30分
診療科目 内科・脳神経内科・消化器科・循環器内科・呼吸器アレルギー内科・リウマチ科・ペイン外来・乳腺外科・放射線治療科・セカンドオピニオン外来・パーキンソン外来

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