【体験談】風邪と思っていた不調が「視神経脊髄炎」だったとは 排尿・排便障害も現れ…
闘病者のmariさん(仮称)は、2015年7月に身体の異常を感じ、かかりつけ医の紹介で総合病院を受診。そこで視神経脊髄炎(ししんけいせきずいえん)と診断され、入院直後からステロイドパルス療法にて治療を受けました。主治医の迅速な判断のおかげで急速に回復し、現在は後遺症もほぼない状態で生活しているそうです。そんな彼女に、視神経脊髄炎とはいったいどのような病気なのか、話を聞きました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2021年12月取材。
※近年、視神経脊髄炎や似た病気に関して新しいことが分かってきており、視神経脊髄炎を視神経脊髄炎関連疾患や視神経脊髄炎スペクトラムと表記することが増えています。今回の記事では、視神経脊髄炎に表記を統一しています。
体験者プロフィール:
mariさん(仮称)
名古屋市在住。1993年生まれ。現在は既婚だが、発症当時は未婚で両親と妹と同居していた。診断時の職業はアパレル販売員。2015年7月に身体の異常に気付き、翌月髄液検査の結果、難病の視神経脊髄炎と診断を受ける。
記事監修医師:
植松 高史(名古屋大学医学部附属病院)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
病気の予兆はあったが風邪だと自己判断した
編集部
視神経脊髄炎とはどのような病気ですか?
mariさん
視神経脊髄炎は、免疫系の異常により中枢神経系に繰り返し炎症が起きる神経免疫疾患の一つです。視覚異常や手足の筋力低下、身体のしびれや感覚麻痺が起こります。身体を守るはずの「抗体」が、自分の身体を攻撃してしまい、神経系に炎症を起こしてしまうのです。
編集部
自分の身体を攻撃する抗体とは怖いですね。
mariさん
この病気で一番怖いのは、発症した場所によっては視神経に影響が出て、突然目が見えなくなることです。そのほかにも、足が動かなくなったり、排尿が自分でできなくなったり、めまいや吐き気などで、普通に過ごせなくなる可能性がある病気です。
編集部
病気が判明した経緯を教えて下さい。
mariさん
2015年7月頃、仕事から帰ると40度近い高熱が出て、朝になると下がるという状態が1週間くらい続きました。仕事の繁忙期でもあり、疲れか溜まったのか、風邪を引いたのだと思っていました。
編集部
痛みなどはありましたか?
mariさん
足が痺れて歩くたびに電流が走るような痛みがありました。アパレル販売員特有の足の疲れだと思っていました。その後もどんどん悪化し、数日で歩行不良になりました。さらに排尿、排便障害も併発しました。
編集部
すぐに病院には行かれたんですか?
mariさん
行きつけの医院を受診しましたが、風邪と診断されて薬を処方されました。その薬が効かなかったので、2日後に再度受診し、総合病院を紹介してもらいました。その日のうちに総合病院に行き、脳神経外科と総合内科を受診し、膠原(こうげん)病の疑いがあるとのことで入院を勧められ、翌日に入院しました。
編集部
視神経脊髄炎はどのようにして確定診断に至ったのですか?
mariさん
入院をして、ひとまず血液検査と髄液検査、脳と脊髄のMRIをしたいと言われました。その髄液検査とMRIの結果により、8月に難病の「視神経脊髄炎」と診断されました。「治療は早ければ早いほど後遺症が少なくなる」「ステロイドパルス療法(多い用量のステロイドを短期間点滴度投与する治療法)をすぐにでも行いたい」と説明を受けました。
入院生活から治験へ参加
編集部
入院時の様子や治療内容を教えてください。
mariさん
入院中は、MRI、血液検査、視野検査、髄液検査とさまざまな検査を受け、すぐにステロイドパルス療法を行いました。ステロイドパルス療法が落ち着いてから、ステロイドの錠剤にシフトチェンジすることになりました。そのとき、治験に参加してはどうかと説明を受けました。
編集部
入院期間は長かったのですか?
mariさん
主治医の迅速なステロイドパルス療法開始のおかげで急速に回復し、排尿、排便障害も治りました。リハビリで普通に歩けるようにもなったので、9月には退院することができました。
編集部
結局、治験には参加されたのですか?
mariさん
翌年から2年間、治験に参加しました。1年目は治療薬ではない生理食塩水(偽薬)を投与され、2年目はリツキシマブ投与をされましたが、その間再発することなく過ごせています。
編集部
病気が判明したときの心境はいかがでしたか?
mariさん
聞いたことがない病気だったので、最初は「なにそれ」と言う感じで、実感が湧きませんでした。私よりも家族がかなりショックを受けていたのを覚えています。
編集部
発症後の生活の変化はありましたか?
mariさん
ステロイド治療により自分の免疫力が下がっているため、感染症に罹りやすくなりました。いまはコロナ禍で消毒やマスクは当たり前になっていますが、人混みに行くときにはいつもマスクと消毒液を持参するようにしています。
編集部
治療中の心の支えはありましたか?
mariさん
家族や友達の存在です。
伝えたい気持ち
編集部
もし当時の自分に声をかけるとすれば、何を伝えたいですか?
mariさん
「ネットで病気のことばかり検索していないで、楽しいことを考えよう」と伝えたいです。
編集部
現在の体調や生活はいかがですか?
mariさん
治験終了後から少しずつステロイドの量を減らしながら、副作用対策の薬を併用して飲み続けています。軽い後遺症はあるものの、普通の健康な人と変わらない生活を送ることができています。
編集部
後遺症にはどのようなものがあるのでしょうか?
mariさん
握力低下があります。また、疲れた時や熱が上がった時には足の痺れや一定間隔の痙攣が起こります。この6年間で小さな再発が一度だけありましたが、幸いにも気づかない間に回復していました。
編集部
病気を意識していない方に伝えたい想いはありますか?
mariさん
この病気は、患っても回復できる場合も多く、私のような人は一見して健常者と全く変わりません。しかし、疲れやすいなどの後遺症や完治せず常に痺れが出ている人もいます。電車の中で座りこんでしまうこともあります。一見元気そうだからと言って舌打ちをするなど強く当たらないでほしいです。誰がどんな病気を持っているかなど、聞かなければわからないので、見た目だけで判断をしないでください。
編集部
医療従事者に望むことはありますか?
mariさん
現在は特にありません。入院中は、ステロイドパルス療法の影響で眠れず、数日不安な夜を過ごしました。あのとき、少しでも寄り添ってくれたら安心できたと思います。
編集部
最後にメッセージをお願いします。
mariさん
周囲の方が、病気だからと気を遣ってくださることはとても嬉しいです。しかし、やりたいことや楽しむことを、否定しないでほしいです。そうすることで、私たち病気の人間が前向きな気持ちになれるからです。気持ちの持ちようは大事だと思っています。私自身、治験で生理食塩水を試薬と信じて1年間投与していました。「試薬を打ってもらえているから大丈夫、再発はもうしない」と自信満々で過ごしていたんです。結果、2年以内に再発が起きると言われていた再発は起こりませんでした(プラセボ効果)。病気と無関係ではないと思います。
編集部まとめ
視神経脊髄炎は治療をしていても再発が起こり得る難病で、患者さんはしばしば再発への不安を抱えます。しかし、mariさんは、毎日を楽しく過ごすことで、病気に負けない身体になっていけると信じて生活されています。暗く落ち込んでいては、却って悪影響なのかもしれません。気持ちの持ちようで病気が治る、とは言えませんが、身体の抵抗力や回復力の向上は考えられます。無理矢理元気を出すことは難しい場合も多いでしょうが、楽しみを見つけ、病気を忘れるぐらいの気持ちが大事なのかもしれません。