【体験談】疲れ・目のかすみの正体は難病「重症筋無力症」だった
重症筋無力症は、自己抗体(自分の細胞などを攻撃してしまう抗体)によって、神経の一部が破壊される疾患です。疲れやすさや全身の筋力低下、複視や目のかすみなどの目の症状が出現します。また、症状が悪化することで呼吸筋麻痺による呼吸困難などがあります。そんな重症筋無力症と闘うsaoさん(仮称)に、病気について話を聞きました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2021年12月取材。
体験者プロフィール:
saoさん(仮称)
沖縄県在住、1988年生まれ。夫と娘2人の4人暮らしをしており、仕事は作業療法士をしていた。次女を出産後の平成31年3月指定難病である重症筋無力症を発病。発病して1年弱は病院を転々とした結果、ドライアイ、産後鬱、産後疲れなどの診断を受けていた。2020年5月に救急入院し重症筋無力症であることが発覚。免疫治療を開始するも発覚当時は歩行や呼吸すら困難な状態だった。2020年6月に免疫グロブリン療法実施後に胸腔鏡術で胸腺と胸腺腫を全摘出しリハビリを実施。退院後は自分でメニューを作成し取り組んでいた。
記事監修医師:
村上 友太
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
産後による体調不良だと思っていたら……
編集部
saoさんの病気を説明してもらえますか?
saoさん
私の病気は胸腺腫関連の重症筋無力症です。神経筋疾患でもあり、自己免疫疾患でもあります。抗体が自己を攻撃することで神経の伝達が筋肉に伝わらなくなり、筋力が弱くなる病です。筋肉を使用すればするほど筋力低下がおこり、脱力が生じます。そのためとても疲れやすいのも特徴です。また病状が進行すると歩くことも困難になり、呼吸苦が伴います。呼吸筋が急速に麻痺をする現象を「クリーゼ」というのですが、クリーゼを発症し、緊急治療を受けたこともあります。
編集部
はじめに身体に起きた異変、初期症状はどのようなものでしたか?
saoさん
はじめは目のかすみがありましたが、寝不足や産後の影響かと思っていました。しかし、次第に目のかすみが酷くなり、目を開けるのが辛くなったり、目を思うように動かせなくなったりしたのです。症状が気になって眼科を受診したところ、「産後疲れによるドライアイ」という診断を受け、目薬を処方されました。目薬で症状が一時的に緩和したのですが、のちに物が二重に見える、「複視」であることが判明しました。ちなみに複視は重症筋無力症の初期症状の1つらしいです。
編集部
重症筋無力症が判明したときの心境について教えてください。
saoさん
発病してから発覚するまで一年弱かかったため、判明した時はホッとしました。「やっと原因がわかった、これで正しい治療ができる」と。判明する数か月前から「もしかして私は重症筋無力症なんじゃないか」と脳裏をよぎったので、診断を受けたときはやっぱりそうだった、という気持ちでしたね。
編集部
どのように治療を進めていくと医師から説明がありましたか?
saoさん
ステロイド治療を開始した翌月には「胸腺と胸腺腫を摘出する手術をしなければならない」と説明を受けました。その後はステロイドを上手く減薬出来るように免疫抑制剤も服用する必要があると。それでも症状が改善しないようであれば、免疫グロブリン療法を行い、さらに回復が難しい場合はソリリス治療をすると説明がありました。
発病後の生活の変化と現在
編集部
重症筋無力症の発症後は生活にどのような変化がありましたか?
saoさん
目に症状が出ていたのが次第に上肢、下肢の筋力低下と全身へ進行していきました。次第に娘を抱っこすることも難しくなり、シャンプーの動作や洗濯物を干すときに手がうまく上げられないなどの症状がありました。あるとき急に足に力が入らなくなり、娘を抱えたまま階段から転落してしたこともあります。次第に食べ物を噛むのが難しくなり、大好きなお肉を食べているときも「ゴムみたいな食感で食べにくい」と感じるようになりました。
編集部
薬の副作用などはありますか?
saoさん
ステロイドを内服していた当初は初期増悪で状態が一時的に悪化し、重度介助状態でした。ステロイドを35mgまで増薬した時には、顔が丸くなるムーンフェイス、体幹に脂肪がつく野牛肩(バッファローハンプ)、ステロイドによる肌荒れ、うつ症状もありました。
編集部
症状の改善、悪化を予防するために気をつけていることはありますか?
saoさん
食事は無添加食材や無農薬野菜を食べるようにしています。またステロイドの副作用は内科的な所にも影響がでるため、砂糖の摂取を極力控えています。お酒も飲まなくなりました。あとは「少しでも疲れが出たら休めのサイン」と捉え、休息をとるようにしています。ストレスも悪化の原因になるため一人では抱えず、誰かに助けを求めて頼めるよう心がけており、メンタルコンディションで瞑想も取り入れています。
編集部
現在の体調や生活などの様子について教えてください。
saoさん
現在は安定期に入ったため、杖歩行で外を歩き、家事動作も自立しています。仕事復帰も出来ました。今はまだ産業医、職場の上司、主治医との相談のもとでサポートしてもらいながら短時間勤務から始めています。
編集部
治療中の心の支えはなんでしたか?
saoさん
同病者同士の交流と、家族のサポートが心の支えとなりました。あとは漫画(ワンピースや鬼滅の刃)を何度も読み返して、自分で元気をつけていました。入院中はコロナ渦であったため、家族と面会ができなかったからです。大好きな安室奈美恵さんの歌も支えとなりました。
過去の自分と世の中に伝えたいこと
編集部
もし昔の自分に声をかけられたら、どんな助言をしますか?
saoさん
「今まで苦しい中よく頑張ってきたね。生きててくれてありがとう。そのどん底生活は、乗り越えることが出来たよ。大丈夫だから」と伝えたいです。
編集部
重症筋無力症を意識していない人に一言お願いします。
saoさん
重症筋無力症は見た目ではわかりにくいため、かつては「怠け病」と心ない言葉をかけられていたそうです。希少難病でもあるため認知度は高くないですが、筋力が低下して動きにくくなる辛い疾患です。ステロイド治療の副作用で辛い思いをしている人達も少なくありません。休息が増悪を予防する疾患ですので、そういった背景があることを知っていただけたら嬉しいです。
編集部
最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。
saoさん
重症筋無力症は完治や寛解が難しい難病です。ただ、完治は難しくても難病と共に自分らしい人生を歩んでいる人も多くいらっしゃいます。私自身、重症筋無力症になったことがきっかけで、自分と向き合えるようになりました。言い方は変かもしれませんが、今は病気に感謝しています。発病前の身体より制約は多いですが、出来ることだってたくさんありますしね。 また、私はInstagramで「難病の作業療法士sao」の名前で難病のリアルや作業療法士としの視点で発信をしています。あと私はHSP気質もあるのですが、その向き合い方もつぶやいていますので、ぜひ覗いてみてください。
編集部まとめ
重症筋無力症ははじめに目の症状が出現するため、別の病気と診断されることも多く、早期発見がむずかしい疾患だといえます。もし目に異変が起きて、その後身体に力が入らないといった症状が出現した場合「重症筋無力症かもしれない」と自ら医師に言えると早期発見に繋がるかと思います。また「発病後より制約は多いけどできることもたくさんある」「病気とうまく付き合って自分らしい人生を歩んでいきたい」というsaoさんの心持ちは本当にすばらしいと思います。できないことだけでなく、できることに目を向けて日々を過ごせるとよいですね。