睡眠時無呼吸症候群にもつながる舌癒着症とは? 症状と治療法について教えて!
舌の位置に異常があるため、呼吸や哺乳、睡眠などにさまざまな支障を生じることがある「舌癒着症」。小さなお子さんだけでなく、お子さんを育てるお母さんにも大きく影響することがあるといいます。そこで舌癒着症の症状や治療法について「耳鼻咽喉科山西クリニック」の山西敏朗先生に話を聞きました。
監修医師:
山西 敏朗(耳鼻咽喉科山西クリニック)
目次 -INDEX-
舌癒着症とは
編集部
舌癒着症について教えてください。
山西先生
この病気は、舌の位置が前方にあることにより舌のひきつれが生じ、その後方にある「喉頭蓋(飲食したものが誤って気管に入り込まないよう蓋の役割をする部位)」や喉頭にゆがみが生じ、その結果、呼吸が入りにくくなってしまう状態を言います。
編集部
では、主に生まれたばかりの乳児などにみられるのですか?
山西先生
乳児だけでなく、小児や成人でもこの状態がみられることがあります。
編集部
特徴的な症状はありますか?
山西先生
乳幼児の場合には、おっぱいがうまく飲めなかったり、よくむせたりするほか、途中で飲むのをやめてしまうことなどがあります。これは、成長、発達、発育に影響を及ぼすほか、お母さんにも大きく影響します。母乳の分泌は良いにも関わらず、お子さんがなかなか飲めないことで「乳腺炎」を発症し、発熱、乳房の痛み、乳房の腫れを生じることなどがあるのです。また、「乳頭亀裂」を生じて乳頭に強い痛みを生じ、授乳自体が非常に苦痛を伴う行為になってしまうこともあります。
編集部
なるほど。ほかにもあれば教えてください。
山西先生
お子さんの寝つきが悪く、いびきや「睡眠時無呼吸症候群」をきたしたり、予兆なく突然亡くなってしまうSIDS(乳幼児突然死症候群)の予備軍になったりする場合があるなど、たいへん深刻な症状をもきたすこともあると考えられます。
編集部
小児ではどんな症状がみられるのでしょうか?
山西先生
歯並びが悪くなったり姿勢が悪くなったりするほか、声が小さかったり、発音が悪かったりといったこともあります。またそれだけでなく、協調性の乏しさや落ち着きのなさ、怒りっぽさ、依存心の強さ、不登校、学習障害、運動障害などの特徴が目立ったり、自閉傾向、ADHD、その他いびきや睡眠時無呼吸症候群などを引き起こしたりすることもあります。
編集部
成人ではどうですか?
山西先生
これらの症状に加え、頭痛、肩こり、腰痛、冷え性、肌荒れ、顎関節症など、多岐にわたる症状を自覚するようになります。特にいびきや睡眠時無呼吸症候群は重症なケースが多く、二次性高血圧や不整脈、糖尿病などを引き起こす原因にもなります。また、舌の位置異常は成人になっても治療をしない限り、改善することはありません。
診断について
編集部
舌癒着症の診断方法について教えてください。
山西先生
問診が重要なことは言うまでもありません。そのうえで、まず口のなか、舌の位置を確認します。その際に舌の裏側にあるスジ(舌小帯)の有無は関係ありません。舌小帯はあってもなくても舌癒着症の方はいます。次に細い内視鏡(ファイバースコープ)を鼻から入れ、喉頭や喉頭蓋の歪みなどを確認し診断します。また、乳児は授乳中の酸素飽和度(SpO2)を測定しながら、授乳の状況(開眼しているか、下顎の動きがあるか、開口できているかなど)を確認します。小児や成人は自宅で可能な睡眠検査を行う場合もあります。
編集部
治療法にはどんなものがありますか?
山西先生
治療方法は手術です。舌癒着症手術では、舌の裏側部分をレーザーで切開し、その奥にある筋肉(オトガイ舌筋)を切開します。この筋肉は「喉頭開大筋」とも呼ばれ、喉を開くための筋肉です。舌癒着症ではこの筋肉がひきつれを起こすことで諸症状を引き起こします。オトガイ舌筋を切ることで、オトガイ舌筋と付着している舌骨(ぜっこつ)の位置が前下方に向かい、その結果として喉頭(喉の呼吸や嚥下の部位)の位置が正しくなり、呼吸が楽になることでさまざまな症状が改善されるのです。
編集部
この治療法を受けるのに年齢制限などはありますか?
山西先生
手術は、赤ちゃんから大人まで、日帰りで受けることが可能です。基本的な麻酔は赤ちゃんなら浸潤麻酔(麻酔液を塗るだけ)、小児は全身麻酔、成人は局所麻酔で行います。
編集部
手術を受ければ、症状は改善するのでしょうか?
山西先生
手術で舌や喉の位置が正常になれば、あらゆる症状の改善が期待できます。もちろん、手術で全員に100%の効果が得られると断言することはできません。しかし、例えば、手術後の乳児の哺乳の改善率は80%以上、小児や成人のいびきや睡眠時無呼吸症候群の改善率は60~70%という結果が得られています。実際に手術を受けた患者さんからは、たくさんのお喜びのご報告をいただいています。
治療機関を受診するにあたっての注意点
編集部
実際のところ、この手術を受けている方はどれくらいいらっしゃるのでしょうか?
山西先生
最近では、発達障害やADHD、引きこもりなどの改善を目的として受診されるお子さんも多く、さらには歌手などの声楽家やアナウンサー、スポーツ選手も手術を受け活躍されている方がいらっしゃいます。治療が受けられる医療機関は限られますが、舌癒着症による症状でお悩みの場合には、治療を行っている医療機関への受診予約を検討してみてはいかがでしょうか。
編集部
診察や手術を受けるにあたっての注意点はありますか?
山西先生
診察を受ける場合には、事前に必ず予約をお取りください。当院の場合、電話での細かいご質問は、ほかの患者さんの診療や治療に支障をきたしますので、ご遠慮いただいております。また、現在この手術は保険適用外となりますので、自費診療となります。
編集部
ありがとうございました。最後に読者の皆様にメッセージをお願いします。
山西先生
舌癒着症を知らずに、乳児期に問題がないからと様子を見ていた子供たちが、小学生、中学生、高校生になってから様々な症状を訴えて当院を受診するケースが増えています。朝起きられない、学校でうまく過ごせない、眠りが浅い、いびきや無呼吸などなど症状は多岐にわたってきます。健康的で楽しい人生のためには、呼吸と睡眠がとても重要です。舌癒着症の手術では、呼吸を楽にすることで睡眠や生活の質を高めることが可能です。小児や成人でこの病気でお悩みの場合にも、これからの人生をよりよくしたいとお考えの場合には、手術を検討されてみてはいかがでしょうか。
編集部まとめ
舌癒着症では、それぞれの年代に辛い症状がみられるとのことでした。治療法は手術になりますが、手術ができる医療機関はたいへん少なく限定されます。舌癒着症でお悩みの場合には、諸症状の改善だけでなく、生活の質の向上のため、治療をおこなっている医療機関で相談してみてはいかがでしょうか。
医院情報
所在地 | 〒162-0041 東京都新宿区早稲田鶴巻町518-21 第一石川ビル2F |
アクセス | 東京メトロ東西線「早稲田駅」3a出口より徒歩5分 JR「高田馬場駅」より都営バス「早大正門行き」早大正門前下車徒歩1分 |
診療科目 | 耳鼻咽喉科 |