子どもが正しく箸を持てないのは「指先の分離」が進んでないから!? 作業療法士に聞く
日本では食事のマナーとして、正しく箸を持つことが求められます。子どもの頃、箸の持ち方を練習した記憶のある方も多いのではないでしょうか。そこで、子どもに正しい箸の持ち方を教えるコツについて、「作業療法士」の宮田さんに話を伺いました。
監修作業療法士:
宮田 里依(作業療法士)
箸を正しく持てない原因として考えられること
編集部
子どもが箸を正しく持てない場合、どんな原因が考えられますか?
宮田さん
指先を細かく動かすための「指先の分離」が進んでいないことが考えられます。また、体幹、肩甲帯の不安定さや自分の身体がどうなっているか、どう動いているかなどの感覚が成熟しきっていないなどの原因も考えられます。
編集部
体幹や肩甲帯の不安定さが、どうして指先の細かな動きに影響を与えるのでしょうか?
宮田さん
人は身体の軸の部分である体幹や肩甲帯が安定することで、初めて腕を自由に動かすことができます。指はその腕のさらに末端についている部位のため、上半身中心部の安定があってこそ細かな動きが可能になるのです。
編集部
箸を持つには、身体の色々な動きが関係するということでしょうか?
宮田さん
そうです。まず箸を動かすには、先ほど述べた体幹の安定が重要です。その上で、肘の曲げ伸ばし、手首の固定やひねりの動作、さらに薬指と小指で下の箸を固定し、親指と人差し指と中指で上の箸を上下に動かす、といった様々な動きが合わさっています。加えて、実際の食事の場面では、椅子に安定して座り正しい姿勢を保ち、左手はお茶碗を持ち、程よい高さで支えつつ取りやすいように適宜傾けるなどの動きも必要になります。右手は箸、左手はお茶碗とひと言でいうと簡単そうに聞こえますが、実際にはたくさんの身体の機能が無意識に使われています。これらの動きをすべてスムーズに行った上で、右手の細かな指の動きが求められる箸は、とても難易度の高い運動であると言えます。
箸の持ち方を修正するために家庭でできること
編集部
正しく箸を持てる身体づくりのために、家庭でできることはありますか?
宮田さん
まずは身体の軸をしっかりつくることが大切です。安定して座っていられるようになるために、ハイハイや手押し車などの全身を使った運動、重いものを押す、引っ張る、しがみつくなどの身体に力を入れ続ける運動、トランポリンやバランスボールで上下に跳ねるなど重力方向への力が加わる運動が効果的です。
編集部
身体づくりができたら、指先の動きのために何が必要でしょうか?
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宮田さん
効果的な指先の運動としては、手の中にあるいくつかの硬貨を自動販売機へ順番に入れる時の動きが練習になります。薬指と小指で下の箸を固定する(=薬指と小指で硬貨を握る)、親指と人差し指と中指で上の箸を上下する(=親指と人差し指と中指でコインを手のひらから繰り出し、向きを調整しながら穴に入れる)。このような動きが、箸を指で動かすのと同じような動きになるのです。タッパーにおはじきを入れるサイズの穴を開けるなどして、即席のコイン入れを作って練習してみるといいかもしれません。
編集部
実際に箸を使って練習するのは、ダメなのでしょうか?
宮田さん
早い段階で実際に箸を使った練習に取り組むと、失敗体験が積み重なり、箸自体に苦手意識をもってしまう可能性があります。上述したような遊び感覚の練習を通して、指先の動きが上手になってきた段階で箸を使って練習をしてみることをお勧めします。
便利な補助具の紹介
編集部
子どもが持ちやすい箸について教えてください。
宮田さん
一般的に未就学の子どもであれば、15cm前後の長さをお勧めします。また、細いものよりはある程度太さがあり、丸い形よりは角張った箸が初めは使いやすいと思います。先端に滑り止めがついている商品は、持ちやすく掴む動作の練習にもなります。
編集部
子どもの練習用の箸にはどんな種類があるのでしょうか?
宮田さん
箸の上部がつながっているもの、2本の箸を中間部分でつなげるクリップのような道具、中間部分にバネがついているものなどが一般的です。100円ショップで購入できるものなどもあるので、試してみるのもいいでしょう。
編集部
家で手づくりすることもできますか?
宮田さん
もちろん、手作りも可能です。下の箸の中間部分に、洗濯バサミをつけ、洗濯バサミの柄を下に向けます。そうすると、薬指と小指で洗濯バサミの柄を握ることができ、自然と下の箸を固定できるようになるので、上の箸を動かすことだけに集中できるようになるのです。
編集部
最後に読者へメッセージがあればお願いします。
宮田さん
それぞれの国の文化によって箸の必要性は変化しますし、子どもが箸を正しく持てなくてもあまり深刻にとらえすぎないで欲しいと常に保護者の方には伝えています。子どもの身体の発達を促すことを目的に、日々の遊びの中に上述したような練習を取り入れていくことで、そのうち箸の使い方も上手になるかもしれない、と気軽に捉えていただければと思います。
編集部まとめ
箸を正しく持つには、まず身体の発達と安定が大切であることが分かりました。上手に持てない原因も様々あるようです。子どもの練習用箸も色々と販売されているようなので、試してみるといいかもしれません。