【体験談】「火傷しても気づかない」異変。原因はキアリ奇形と脊髄空洞症だった
不調を感じた時、病院に行こうと思っても、どの病院の、何科に行けば良いのかわからない、という悩みを耳にすることがあります。診てもらう先生にも専門分野があるとなると、素人には余計にどこへ行けばいいのかわかりません。今回は、そうしたミスマッチなどもあって、最初の違和感からキアリ奇形と脊髄空洞症の確定診断まで14年もかかったというELENAさん(仮称)に、これまでの話を聞きました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2021年12月取材。
体験者プロフィール:
ELENAさん(仮称)
1992年生まれ、福岡県在住。14歳のころから原因不明の痺れや頭痛に悩まされるようになる。それから14年後の2020年にキアリ奇形・脊髄空洞症と診断される。同年4月 大後頭孔減圧術を受け、手術は成功。現在は医療事務として働く。
記事監修医師:
村上 友太
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
始まりは、中学での職業体験
編集部
最初に不調や違和感を感じたのはいつですか? どういう状況たっだのでしょうか?
ELENAさん
14歳の春に、熱いものに触れてしまった事がきっかけでした。当時、職業体験で病院を訪れていたのですが、メモを取るのに必死になって、近くの台に両腕を乗せた瞬間、飛び跳ねるくらいの熱さを感じました。ビックリしてその台を見ると、『高温注意』『触るな』と書いてあったんです。左腕だけがヒリヒリして痛かったので、火傷したのは左腕だけだと思っていましたが、帰って見てみると右腕も赤くなっていました。
編集部
右腕には「火傷の感触」がなかったと。
ELENAさん
はい。同じように熱いものに触れて火傷しているのに、なぜか右腕では熱さもヒリヒリとした痛みも感じないことを不思議に思ったのが始まりだったと思います。
編集部
受診から、診断に至るまでの経緯を教えてください。
ELENAさん
その年の夏には、身体の右側に痺れと痛みが出始めました。立ちくらみも酷くなり、毎日、立ったり、屈んだりするたびに、ガンガンと猛烈な頭痛にも襲われるようになりました。左腕と同じように触れても、右腕にはハンカチを一枚被せているような違和感があり、不安になって整形外科を訪れました。
編集部
病院で診てもらった結果はどうでしたか?
ELENAさん
特に異常は見られず。病院をいくつか回るも、『分かりません』『とりあえずリハビリして様子を見ましょう』『ビタミン不足』『気のせいじゃないですか?』と言われ続け、原因がはっきりしないまま生活をおくっていました。やがて、18歳になったある日、今度は右足の太ももから膝にかけて同じような異変を感じるようになりましたが、病院へ行ってもまた原因不明と言われ、それから病院探しは諦めてしまいました。
編集部
その後は症状を我慢されていたのですね。
ELENAさん
はい。何年もそのままにしていました。24歳で1人目の子どもを出産したあと、その冬には右足だけが痺れて疲れやすくなり、腕の痛みも増して、辛くて眠れない日がどんどん増えていきました。その後も症状がどんどん悪化していくのを感じて不安になり、25歳の冬、初めて脳神経外科を受診しましたが、結果はやはり原因不明でした。
編集部
結局どのように診断がつくのですか?
ELENAさん
どうしても納得がいかず、ネットでほぼ同じ症状の方を見つけて即座にメッセージを送りました。その方に背中を押してもらったこともあり、初めて行く整形外科を受診したところ、MRIを撮ってすぐに「『脊髄空洞症』と『キアリ奇形』だと思われます」と言われました。
編集部
それはどんな病気なのでしょうか?
ELENAさん
キアリ奇形とは、頭蓋骨の未発達が原因で、小脳の一部が首の方へ落ち込んでしまう病気といわれています。脊髄空洞症はそのキアリ奇形が原因で、脳と脊髄を循環する脳脊髄液の流れが滞ってしまい空洞ができる病気だそうです。空洞のある場所によって出る症状も変わり、同じ病気でも痛みや感じ方は人それぞれです。
編集部
そのときの心境について教えてください。
ELENAさん
実はほっとしました(笑)。受診した病院の先生が、すぐに大きな病院への紹介状を書いてくださって、翌日の朝一番で受診し、その日に診断が確定したんです。すぐに検査入院が決まり、手術の話を受けました。手術をするなんて思ってもいなかったので、子ども達のことは心配でしたが、一方で、やっと自分が感じていた不調の原因が分かったことや、手術が終われば症状は進行はしなくなると聞いたことで、すごく安心したのを覚えています。
入院生活が新しい夢をくれた
編集部
どのように治療を進めていくと医師から説明がありましたか?
ELENAさん
キアリ奇形でも症状がない場合は経過観察ということもあるけれど、当時の私のように症状が強く出ていたり、進行していたりする場合は手術をしないといけないと言われました。ただし、手術は症状の進行を止めるためのものであって、現在出ている腕の痛みや頭痛、感覚異常などを治せるわけではないとも説明がありました。
編集部
ようやく治療に進めたのですね。
ELENAさん
はい。手術まであと1ヶ月という時に、急に右足に重りがついた感覚になり、思うように動かなくなりました。溜まった髄液が新たに運動神経を圧迫してしまい、運動麻痺が出ていると言われました。一度神経が傷つくとなかなか治らないそうです。そんなこともあったため不安を抱えながらの入院、手術でした。入院したその日、世の中は初めての緊急事態宣言が出され、病院も厳戒態勢で、家族であっても面会は原則禁止という中での入院・手術でした。
編集部
どんな手術だったのですか?
ELENAさん
後頭部と、第一頚椎と呼ばれる首の一番上の骨をドリルで削って、人工硬膜を縫い付け、狭くなっている空間を広げることで、下がっていた小脳を持ち上げるという手術だそうです。全身麻酔で5時間かかりました。
編集部
入院生活はどうでしたか?
ELENAさん
初めての手術で緊張し、術後もリハビリがうまくいかず、このまま帰って大丈夫だろうかという不安もある中、先生や看護師さん、リハビリの先生、准看護師さんがとても優しく私の気持ちを汲み取ってお話ししてくださいました。励ましてくださったり、他愛のない話にも付き合ってくださったりしたことで、毎日笑って過ごせました。一人で寂しい、痛い、辛いだけの入院ではなくなり、とても感謝しています。この時、素晴らしい医療従事者の方々と出会えた事がきっかけで今の仕事を選びました。
編集部
今のお仕事とは?
ELENAさん
現在、医療事務員として働いています。看護師や医師になるのは難しいかもしれませんが、医療事務であれば私も勉強して、病院や患者さんのお役に立てるのではないかと考え、秋に医療事務の学校へ入学したのです。もちろん、1ヶ月近く入院し、医療従事者の仕事を間近で見て、強い感銘を受けたからです。きっかけをくれた医療従事者の方をはじめ、急に学校へ行く。働きたいと言い出したにもかかわらず、快く協力してくれた家族にもとても感謝しています。
編集部
病気の前後で変化したことを教えてください。
ELENAさん
今まで『原因が分からない』などと言われるたび、突っ込んだ質問をしたりどうしたら良いか聞いたりせず、また違う病院を探してドクターショッピングを繰り返して来ました。今は分からないことがあれば、かかりつけの先生に相談するようになりました。不安なことなども聞けるようになったし、例えその先生の専門じゃなかったとしても「何科に行ったら良いですか?」と尋ねるだけでもその後の病院探しがスムーズになります。医療に関することは、その道のプロフェッショナルに聞いて頼ってみるようになりました。
不調のある方はそのままにしないでほしいです。
編集部
今までを振り返ってみて、後悔していることなどありますか?
ELENAさん
初めて異変を感じてから診断まで14年。途中で諦めず、自分の納得のいくまで原因を追求していれば、今も後遺症に悩むことも、薬を飲む毎日にもならなかったのではないかと思うことがあります。この14年の間に少しずつ進行していたと考えると、「もっと早く治療できていれば……」と今でも考えてしまうことは多いですね。
編集部
現在の体調や生活はどうですか?
ELENAさん
手術も成功して小脳の下垂も無くなったことで、脊髄に溜まった髄液は少しずつ減ってきました。嬉しいことに足の痺れ、屈んだ時の頭痛はなくなりました。今はお薬で痛みをコントロールしています。使っていたお薬で突然アレルギーが出たり、頸椎ヘルニアが見つかったり(後日、複合性局所疼痛症候群[CRPS]だと判明した)と、スッキリしないところはありますが、主治医からはキアリ奇形と脊髄空洞症は今以上に悪くはならないから心配しなくていいよ、と言っていただけました。右手の温痛覚が乏しいので、火傷や怪我には気をつけながら生活しています。
編集部
医療機関や医療従事者に望むことはありますか?
ELENAさん
受診する時って苦痛や不安など、色々な気持ちを抱えて病院に来ている方がほとんどだと思います。医療従事者から見れば、心配しなくてもいい病気かもしれないけれど、笑ったり軽くあしらわれたりすると、ととても嫌な気持ちになります。「若いから大丈夫」「『気の持ちよう」「『病は気から」「思い込みじゃないですか?」これらは私が実際に言われた言葉です。
編集部
最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。
ELENAさん
今、感じている不調があるのに原因が分からない方がいらっしゃったら、そのままにせず病院を受診してほしいです。原因が分かった時、心配しなくていいものであればそれで安心できるし、進行するものや治療が必要な病気であれば早く見つかるに越したことはありません。少しでも早く、不安が解消し良くなる事を願っています!
編集部まとめ
確定診断までに何ヶ所もドクターショッピングを繰り返していたというELENAさんのお話を伺いました。診断まで14年というのは本当に長く、不安な時間だったかと思います。その分、入院や治療で素晴らしい医療従事者の方々と出会えたのは本当に良かったですね。退院後、学校に通い、今は病院で働く側になっているというELENAさんの「不調をそのままにせず、受診してほしい」という言葉は、とても力強く心に響きました。ELENAさん、ありがとうございました。