睡眠時無呼吸症候群の原因や治療について医師が解説 放置すると危ない理由とは
「睡眠時無呼吸症候群を放置すると生命に関わることがある」ということをご存知ですか? 睡眠時無呼吸症候群は、単に睡眠に関する問題ではありません。一体、どのようなリスクがあるのか? みらいメディカルクリニック茗荷谷副院長の松本先生に教えていただきました。
監修医師:
松本 昌和(みらいメディカルクリニックグループ)
睡眠時無呼吸症候群とは?
編集部
睡眠時無呼吸症候群とはなんですか?
松本先生
睡眠時無呼吸症候群とは、文字通り、睡眠中に呼吸が一時的に停止してしまう病気のこと。Sleep Apnea Syndromeの頭文字をとって、「SAS(サス)」とも言われます。数年前、睡眠時無呼吸症候群が原因で大きな列車事故やバスの事故が起き、それ以来、広く知られるようになりました。
編集部
どれくらい呼吸が停止すると、睡眠時無呼吸症候群と診断されるのですか?
松本先生
一般的には、睡眠中に10秒以上呼吸が止まる無呼吸や、呼吸が浅くなる低呼吸が睡眠1時間当たり5回以上起きる場合のことをいいます。
編集部
睡眠中に無呼吸になっているかどうか、なかなか自分では調べられないと思います。どうやって気づくのですか?
松本先生
確かに、睡眠中に無呼吸になっているかどうか、なかなか自分で気づくことができません。実際、診察にいらっしゃる患者さんは、「家族に呼吸が止まっていたり、いびきをかいていたりすることを指摘されて、受診した」というケースが多いですね。また、睡眠時無呼吸症候群になると睡眠が浅くなるため、日中、強い眠気に襲われます。そのため、強い眠気から睡眠時無呼吸症候群を疑い、受診される方もいらっしゃいます。
編集部
強い眠気のほか、どのような自覚症状があるのですか?
松本先生
倦怠感、集中力低下、疲労感が主な自覚症状です。また、起きたときに「すっきりと起きられない」「口のなかが乾いている」「頭が重い、痛い」などの症状がある場合も、睡眠時無呼吸症候群が疑われます。そのほか、「就寝中にトイレに起きる回数が多くなった」ということも、睡眠時無呼吸症候群の症状です。
睡眠時無呼吸症候群の原因は?
編集部
なぜ、睡眠時無呼吸症候群が起きるのですか?
松本先生
睡眠時無呼吸症候群は、2つのタイプに分類されます。1つは、空気の通り道である気道が狭くなって、物理的に呼吸ができなくなるタイプ。これを閉塞性といいます。もう1つは、脳や神経などの異常が原因となって起きるタイプ。これを中枢性といいます。このなかで多いのは、気道が狭くなって、物理的に呼吸ができなくなる閉塞性のタイプです。
編集部
なぜ、気道が狭くなるのですか?
松本先生
これにはさまざまな原因があります。たとえば、太っている人が仰向けの姿勢で寝ると、舌やのどの周りについた脂肪が下がり、気道を塞いでしまいます。実際に、肥満は睡眠時無呼吸症候群を引き起こす最大の要因です。一般に女性に比べて男性の方が太ると顎や喉の周辺に脂肪が蓄積されやすいため、女性よりも男性の方が、睡眠時無呼吸症候群の発症率が高いとされています。
編集部
ほかに、気道が狭くなる要因はありますか?
松本先生
扁桃が肥大している、顎が小さい、慢性副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎など鼻の疾患がある、などが挙げられます。そのほか、喫煙は喉に慢性的な炎症を起こし、気道を狭くする原因になりますし、また飲酒も筋肉を弛緩させるために気道を塞ぎやすくなります。
編集部
これらは自然治癒するのですか? それとも、発症したら一生付き合わなければならないのでしょうか?
松本先生
基本的に、自然治癒することはありません。そのため、もし睡眠時無呼吸症候群だとわかったら、減量や禁煙、禁酒など、できることからはじめましょう。早めに診察を受け、治療を開始することも大切です。
編集部
どのように治療が進められるのですか?
松本先生
軽症〜中等症の場合はマウスピースを装着したり、横向き寝をしたりすることで症状の改善を目指します。また重症の場合は、CPAP(持続陽圧呼吸)療法といって、特別なマスクを装着して、強制的に空気を送り込むことで気道が閉塞しないようにする治療を行うこともあります。
編集部
それらの治療をすると、睡眠時無呼吸症候群は完治するのですか?
松本先生
手術やダイエットをして状態が大きく改善した場合は、マウスピースやCPAPなどの器具が不要になることもありますが、基本的に、ずっと治療は継続するものと考えてください。なぜなら、マウスピースやCPAPによる治療は対症療法であり、根治をめざすものではないからです。それ以上重症化しないように、また、睡眠時無呼吸症候群によるリスクを引き起こさないように、治療を継続することが必要です。
睡眠時無呼吸症候群のリスクは?
編集部
睡眠時無呼吸症候群を放置すると、どんなリスクがあるのでしょうか?
松本先生
まずは、睡眠不足による集中力低下や強い眠気などにより、日中に事故などを引き起こす可能性があります。さらに眠気や疲労感などによるストレスが原因となって、高血圧、脳卒中、心筋梗塞などのリスクを上昇させます。
編集部
単純に「睡眠不足」や「眠気」だけの問題ではなくなるのですね。
松本先生
また、糖尿病のリスクも増加させます。なぜ、睡眠時無呼吸症候群が糖尿病のリスクを増加させるかということについては、まだメカニズムが解明されていませんが、おそらく、睡眠時無呼吸症候群が原因で交感神経優位の状態が続き、また、インスリンの抵抗性が増すため、糖尿病のリスクが高まると考えられています。
編集部
さまざまな病気のリスクになるのですね。
松本先生
アメリカで行われた研究によると、睡眠時無呼吸症候群の人は正常な人と比較して、糖尿病は1.5倍、高血圧症は2倍、心疾患は3倍、脳卒中は4倍も発症リスクが高まるということがわかっています。 実際、睡眠時無呼吸症候群の患者さんが突然死されるケースも少なくありません。
編集部
そんなに睡眠時無呼吸症候群は恐ろしいのですね。
松本先生
現在、日本では人口の2%以上(200万人以上)が睡眠時無呼吸症候群を発症していると考えられています。しかし、そのなかで実際に治療を受けている人は4分の1程度。残りの4分の3が見過ごしていると考えられます。家族に呼吸が止まっていたり、いびきを指摘されたり、日中強い眠気を感じたりする場合は、できるだけ早めに内科や呼吸器内科、循環器科などを受診してほしいと思います。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
松本先生
睡眠時無呼吸症候群は、自分では気がつきにくいため、放置されることが多い病気です。当院では健康診断や人間ドックなどで血圧や血糖値、尿酸の数値が高かった人には、睡眠時無呼吸症候群の検査をお勧めしています。睡眠時無呼吸症候群になると、これらの数値が高くなることがわかっているからです。通常、睡眠時無呼吸症候群の検査は入院して行うのが一般的ですが、血圧などの数値が高かった方にお勧めする検査は、ご自宅でできる簡易的なものなので、気軽に受けていただけます。ぜひ、それらのサインを見逃さず、早期発見に努めていただきたいと思います。
編集部まとめ
同居する家族がいる人は、家族の指摘により、睡眠時無呼吸症候群に気づくチャンスがありますが、一人暮らしの人などは、なかなか自分では気付きにくいもの。「日中の強い眠気」などの自覚症状があったら、念のため、病院で相談を。初期であれば、生活習慣の改善で症状を緩和できるかもしれません。早期発見を目指しましょう。
医院情報
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アクセス | 東京メトロ丸ノ内線「茗荷谷駅」から徒歩1分 |
診療科目 | 内科、アレルギー科、小児科、呼吸器内科、消化器内科、循環器内科、腎臓内科 |