大腸内視鏡検査は空気よりも「二酸化炭素」を注入する方が確実に“楽”! 患者ファーストの医療機関を探そう
大腸内視鏡で腸管の様子を見るとき、気体で膨らませるという手法が採られます。腸管のひだを広げて見るためです。このとき、一般には「普通の空気」を用いるものの、「二酸化炭素」でおこなう医療機関が増えてきたようです。今回は、その狙いと理由を「福田内科医院」の福田先生に伺いました。
監修医師:
福田 信宏(福田内科医院 院長)
近畿大学医学部卒業。近畿大学大学院医学研究科修了。大学病院で消化器内科や救命医療に従事した後の2020年、岐阜県瑞穂市に、父親より継承した「福田内科医院」をリニューアルオープン。大学病院での臨床経験を地域医療へ反映している。医学博士。日本消化器内視鏡学会指導医・専門医、日本消化器病学会専門医、日本超音波医学会指導医・専門医、日本内科学会認定医。
二酸化炭素は大腸で速やかに吸収される
編集部
喉を通す胃腸内視鏡はもちろん、大腸内視鏡も「苦しい」と聞きます。
福田先生
大腸は胃と違って管腔が長く、蛇腹のような構造であり可動性に富んでいます。したがって、送気による腹部の張り感や腸管が内視鏡で伸びることによるつっぱり感などが苦しさの原因となります。この苦しさは、検査機器や医師の技量でも変わってきます。
編集部
空気で膨らませるのは、内視鏡の通り道を広げるためですか?
福田先生
観察時に大腸の内腔を広げて見落としのないようにするためです。ひだの隙間に病変があったとしたら、広げないと見えませんよね。この送気には、「空気」で膨らませる方法と「二酸化炭素」で膨らませる方法があります。二酸化炭素は空気よりもはるかに早く吸収されますので、二酸化炭素で膨らませる検査方法の方が、より楽に感じるでしょう。
編集部
受ける側としては二酸化炭素の送気の方が助かりますが、対応している医院は多いのでしょうか?
福田先生
長らくは空気による送気がおこなわれていましたが、最近では二酸化炭素を用いる医療機関も増えてきました。大腸内視鏡検査とはいえ、送気すればその先の小腸や十二指腸にも気体が届いてしまいます。空気で送気した場合、腸管全体の「膨満感」がなかなか引きませんし、便秘の時のような「おなかが張っている感」がしばらく続きます。また、ポリープやがんを発見して治療をおこなえば、それだけ時間が長くなるので送気量は多くなります。このとき、二酸化炭素であれば腹満感が減り、患者さんの苦しさを軽減することができるのです。
編集部
そもそも、気体で腸を膨らませずにおこなう大腸内視鏡検査はあるのでしょうか?
福田先生
大腸内視鏡には、「奥まで挿入すること」と「病変を観察すること」の2つの過程があります。誤解のある部分かもしれませんが、挿入時にはなるべく送気せずに、まず大腸の奥まで内視鏡を届かせます。腸管に送気しすぎると腸が風船のように膨らみます。そうなると腸管が伸びて奥まで挿入することが難しくなり、患者さんの苦痛が大きくなってしまいます。そうならないために、最小限の送気で挿入をおこないます。そして帰り道は、挿入時とは逆で腸管を気体で膨らませながら見落としがないように観察していく流れです。この帰り道を送気せずに検査することはありません。
挿入技術も患者の苦痛を左右する
編集部
もう一方で、「腸管の鋭角な曲がり角では痛む」問題もあるとのことでした。
福田先生
はい。一般に、S状結腸から下行結腸に移行する部分で曲がり角が形成されやすいです。これは内視鏡挿入技術の問題になりますが、S状結腸は固定されておらずぷらぷらとした状態ですので、腸管を折りたたんで短縮させながら挿入すると屈曲がない状態となり、痛むことなく挿入できます。反対に折りたたまずに挿入すると、伸びた状態となり屈曲部が形成され痛みが生じやすいです。挿入技術に関しては色々ありますが、総じて楽に検査することは可能です。
編集部
鎮静剤を使うのは、いかがでしょうか?
福田先生
その点は、患者さんのご希望によります。内視鏡検査が怖いから眠った状態で受けたいと希望する患者さんや、他方で検査中に医師と意思疎通を図りたいから覚醒していたいと希望する患者さんなどです。また、大きな早期大腸がんに対して内視鏡治療する場合は長時間となることがあるため、治療の大きさに応じて鎮静剤を使用して患者さんの負担を軽減させる目的もあります。
編集部
患者が意識を保っていない間に「グイグイ進める」ということはないのですか?
福田先生
覚醒していようが寝ていようが挿入法を変えることはなく、あくまで腸に優しく丁寧に内視鏡を挿入していきます。無理にグイグイ進めると、腸管に負担をかける恐れがありますので避けるべき方法です。あくまでも鎮静剤は、患者さんが緊張せずに楽に検査を受けることができる方法の1つです。
編集部
S状結腸はもともと曲がりくねった状態だと思われますが、挿入時にまっすぐにしてもいいのですか?
福田先生
問題ありません。S状結腸は固定されていないため、内視鏡を抜けば元に戻ります。大腸は部分的に固定された箇所を除くと、「中ぶらりん」の状態で存在しているからです。内視鏡でまっすぐにした箇所が、検査後にそのままの状態で残ることはありません。
患者ファーストの象徴は「トイレ」
編集部
結論として、二酸化炭素にしても挿入技術にしても「患者の苦しさを軽減する手法の1つ」ということですか?
福田先生
そういうことですね。加えて、鎮静剤も該当します。内視鏡医として避けたいのは、患者さんが内視鏡検査にトラウマをもってしまい、検査機会を遠ざけてしまうことです。例えば、潰瘍性大腸炎のような難病の患者さんは何度も内視鏡検査を受ける必要があります。けれども、最初の検査が苦痛であったため、その後の検査を受けたがらないといったことが起きないようにしないといけません。
編集部
患者ファーストの姿勢は、結果として検査機会の増加に結びつくのですね?
福田先生
嫌なものは誰でも嫌ですよね。ですから、大腸内視鏡検査を受けるとしたら、気体の種類については「二酸化炭素」あるいは「炭酸ガス」をキーワードに調べてみてください。また、寝ているうちに検査を受けたい場合は「鎮静剤」などで検索してください。
編集部
ただし、本来目的は「異常の発見」であることも忘れないようにしたいですね。
福田先生
もっとも重要なことですね。内視鏡検査で大事なことは、挿入時間が短いことでも検査件数が多いことを誇ることでもなく「十分な時間をかけてしっかり大腸を観察すること」です。十分な時間をかけていない観察では、病変の見落としが多くなります。また、内視鏡は電子機器なので、やはり最新の機材ほど高性能で高画質です。しかし、患者さんは機器が最新かどうかを判断するのは難しいと思います。そこで、「患者さんのために色々な配慮をしているかどうか」を医院選びの目安にしてみてはいかがでしょうか。そうした配慮の一環が、最新機材の導入にも現れると思います。私個人としては「トイレの重要性」に触れておきたいですね。
編集部
「トイレの重要性」とは、どういうことでしょうか?
福田先生
私が大学病院に勤めていた頃、大腸内視鏡の検査前に飲む下剤で便意が切迫しているのに、トイレが満室という状況を目の当たりにしてきました。また、下剤を飲む場所や検査後鎮静剤から覚めるまでのリカバリー室といった場所には、プライバシーに配慮すべきだと強く思いました。そこで当院では、すべての患者さんにトイレ付きの完全個室をご用意してプライバシーの確保をしています。内視鏡設備や挿入技術に限らず「環境整備」も患者さんの苦痛・気遣いを取り除く工夫となります。こうした積み重ねによって、検査機会の増加に結び付けられれば幸いです。
編集部まとめ
二酸化炭素は大腸で速やかに吸収されるため、大腸内視鏡検査後の「腸のパンパン感」が起こりにくいということでした。しかし、空気と二酸化炭素の比較は、数ある大腸内視鏡の論点の1つでしかありません。どうせ検査を受けるなら「いかに快適に検査を受けることができるか」「病気をより発見できる内視鏡技術と設備があるか」という配慮がきめ細かくなされている医療機関にお願いしたいものです。その意味で「個室のトイレ」は面白い観点でした。
医院情報
所在地 | 〒501-0236 岐阜県瑞穂市本田1017-1 |
アクセス | 樽見鉄道樽見線「美江寺駅」からバスで11分 東海道本線「穂積駅」からバスで18分 |
診療科目 | 内科、小児科、循環器内科、消化器内科 |