内視鏡で切除できる胃がんの条件とは
小型のレーザーメスを使用すれば、胃腸内視鏡で簡単な切除がおこなえます。では、内視鏡による切除操作に限度や適応はあるのでしょうか。今回は、開腹手術との見極めについて、「たけうち内科クリニック」の竹内先生を取材しました。
監修医師:
竹内 俊文(たけうち内科クリニック)
内視鏡で切除できる条件
編集部
胃の内視鏡は、「見る」だけでなく「切除」もできるのですよね?
竹内先生
はい。ただし、限度はあります。内視鏡の特性上、胃の内側からの治療になるので、胃の外側のリンパ節や離れた臓器に病変が広がっている場合は、開腹手術などほかの治療が必要です。
編集部
ほかにも、「切除できる」条件はありますか?
竹内先生
端的に言うと、「胃腸内視鏡で取りきれる大きさであること」です。切除後、少しでもがん組織が残っていたら、増殖・転移するかもしれません。したがって、内視鏡で手術した意味は薄れます。がん組織が大きい場合、後日、開腹手術などで切除することになるでしょう。
編集部
大きさではなく、胃がんの「性質」が関わってくることはないでしょうか?
竹内先生
いわゆる「たちの悪いがん」のことですよね。内視鏡の適応は、胃がんの深さにも関わってきます。大きさとしては小さくても、胃壁の内側まで潜り込んでいるような胃がんは、やはり開腹手術でおこなうべきという印象ですね。もっとも、胃腸内視鏡技術の発達により、できることは多くなりました。
編集部
胃腸が荒れているときでも、切除自体はできるのですか?
竹内先生
胃がんと胃潰瘍を併発しているケースでは、併発のないケースと比べて周辺組織が線維化しやすくなります。線維化によって固くなると、技術的に切除の操作が難しくなるのです。また、線維化を含めた病変の深さでも変わってきますので、切除前のより詳しい検査が必要です。
胃がんの前段階で内視鏡にできること
編集部
内視鏡による「切除」の場面は、がんに限らずポリープでもありますよね?
竹内先生
あります。しかし、前提として胃のポリープは“良性のまま”でいることが多いため、ほとんど切除しません。もちろん、悪性化が疑われた場合は切除します。あるいは、こすれることで出血しているポリープで、「出血を止めるため」に切除するケースなどでしょうか。また、ポリープとがんとの鑑別が付きにくい場合、診断のために切除し、組織を検査に回すこともあります。
編集部
ピロリ菌検査にも内視鏡が用いられると聞きます。
竹内先生
正確には、「ピロリ菌の除菌を保険でおこなう場合、内視鏡検査が前提になっている」ということですね。内視鏡でピロリ菌による慢性胃炎が認められれば、保険適用となります。なお、ピロリ菌の検査方法自体には、呼気や尿・便などを利用したものなど多数あります。内視鏡で組織の一部を取ってきて検査する方法は、そのなかの1つです。
編集部
ピロリ菌に感染すると、胃の収縮を起こすそうですが?
竹内先生
ピロリ菌は、主に0~5歳の子どもの頃に感染すると言われています。ピロリ菌に感染すると数十年単位の長い年月をかけて慢性胃炎となります。具体的には、「胃の委縮」といって胃の粘膜が弱り薄くなってしまいます。
編集部
ほかにも、胃の内視鏡検査でわかることがあれば教えてください。
竹内先生
胃もたれや胃痛などの症状はあるのに検査しても異常がみられない場合、「機能性ディスペプシア」という病気を疑います。その際、本当に異常がみられないのか胃カメラで確認したうえで診断すべきでしょう。機能性ディスペプシア専用の薬がありますので、処方の中身にも関わってきます。
胃がんは「治る」病気
編集部
話を胃がんに戻すとして、初期であれば切除によって「治る」と考えていいのでしょうか?
竹内先生
国立がん研究センターは、公式サイトに「胃がんでは、治療によりがんが消失してから5年後までに再発がない場合を“治癒”とみなします」と記載しています。その意味の治癒なら、可能な時代になりました。これとは別に、胃がんの5年生存率という指標があり、胃がんのステージⅠだと100%近くとなっています。また、参考までにステージⅢの5年生存率は60%ほどです。
編集部
再発の有無と生存率は別の指標ですが、初期で治療することに意味がありそうですね。
竹内先生
そうですね。さらに言えば、胃がんになる前からピロリ菌の有無を確認しておきましょう。日本の場合、胃がんの原因はほぼ、ピロリ菌による胃炎と言っていいと思います。ただし、一部の特殊な胃がんはピロリ菌と関連なく発生することもあるので、注意が必要です。
編集部
例外を除くと、ピロリ菌が除菌できていれば、胃がんにならないのでしょうか?
竹内先生
ところが、そうとも言えないのです。胃がんのかかりやすさは、「現在のピロリ菌の有無」ではなく、「過去にどれくらいの期間、ピロリ菌に感染していたか」で左右されます。つまり、ピロリ菌の発見もできるだけ早くおこなう必要があるのです。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
竹内先生
胃がんは治癒が見込める時代になってきました。ただし、「症状の出ていない段階」での早期発見が前提です。できれば、1~2年おきに、定期的な胃の内視鏡検査を受けましょう。ピロリ菌検査をしていない人は、なるべく速やかに確認してほしいと思います。
編集部まとめ
竹内先生によると、内視鏡による切除が不向きな「たちの悪いがん」の発症確率は数%台ということでした。症例として圧倒的なのは、やはりピロリ菌感染を経由した胃がんです。そして、ピロリ菌感染を経由した胃がんなら、早期発見と内視鏡切除による治癒が見込めます。胃がんが治せるかどうかは、無自覚なうちに決まるのですね。なおのこと、定期検査の必要性を実感しました。
医院情報
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診療科目 | 内科、消化器内科、内視鏡内科 |