【闘病】原因不明の熱。「血球貪食症候群」「皮膚筋炎」の診断には半年以上かかった
コロナ以前、咳と発熱があった程度なら、仕事を休まず様子をみながら働くという人も多かったのではないでしょうか。でも、それが数ヶ月続いたらどう感じるでしょう。闘病者の一郎さん(仮称)は、咳と微熱が出てから半年近くも確定診断が付かなかったそうです。診断名「血球貪食症候群」と「皮膚筋炎」がわかった頃には、歩けないほどになっていたという一郎さんに、当時の話を聞かせてもらいました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2021年11月取材。
体験者プロフィール:
一郎さん(仮称)
栃木県在住、1991年生まれ。救急救命士。2016年に皮膚筋炎、血球貪食症候群を発症した。現在は、月に一回の通院によりプレドニンとネオーラル、イムランを内服しながら治療を続けている。
記事監修医師:
副島 裕太郎(医師)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
原因不明の熱がきっかけ
編集部
最初に不調や違和感を感じたのはいつですか? どういった状況だったのでしょうか?
一郎さん
2016年10月下旬頃に、咳や微熱がありました。風邪だと思って2週間ほど様子をみていましたが、なかなか改善しないので近所の病院へ行きました。そこでは肺のレントゲンと採血を行いましたが異常はなく、「風邪」と診断され一般的な風邪薬を処方されました。そこから更に2週間ほど様子をみたのですが、改善するどころか、むしろ悪化してきて体温は39度台まで上がっていました。約1ヶ月もの間、熱が下がらないのはおかしいし、体調も明らかに悪くなったため、11月下旬頃に知人が勤務している総合病院の救急外来を受診しました。
編集部
受診から、診断に至るまでの経緯を教えてください。
一郎さん
救急外来の受診が深夜帯であったため、その日は解熱剤の処方のみで、翌日に診てもらうことになりました。翌日の外来では、採血後診察という流れでした。採血の結果は、炎症反応を示すCRPという値が正常よりやや高値だったくらいで、それ以外は特に異常なしでした。
編集部
その日もそのまま帰宅となったんですか?
一郎さん
はい。原因がはっきりしなかったため、週に1回のペースで通院を続けることになりました。通院を続けるうちに、毎週の採血で白血球の値が徐々に減少していったため「壊死性リンパ節炎」、もしくは「白血病疑い」ということで専門性の高い病院へ転院となりました。このときの症状は、高熱が継続しており手指に発疹のようなものも多数できていました。この2ヶ月弱の間、解熱剤が手放せない状態だったのですが、仕事もなんとか行っていました。
編集部
そんな状態で働くなんて、すごいですね。
一郎さん
2017年1月下旬から専門性の高い病院への通院が始まりましたが、それでも仕事は続けていたんです。病院でも採血と診察が続きましたが、相変わらず原因が分かりませんでした。ある時、悪性リンパ腫も疑われることからPET検査を行うことになりました。その結果、全身のリンパ節に炎症が起きているということで「リンパ節の生体検査」と「骨髄穿刺」を行いましたが、やはり原因がわかりませんでした。
編集部
そこまで突きとめられないと、精神的にも辛そうですね。
一郎さん
2月下旬になり、自己免疫疾患の疑いもあるということで、膠原病に関する採血を行ったところ反応が出て、膠原病疑いで再度転院となりました。仕事は、2月中旬に「不明熱」と診断書をいただき、休職することになりました。最初の体調不良から4ヶ月近くたってからのことです。
編集部
その後はどうなりましたか?
一郎さん
紹介状を書いていただき、また別の病院へ行くことになりました。この頃すでに歩けなくなっており、両親に両肩を抱えられながら車に乗り、病院到着後は車椅子移動となっていました。まず採血を受けましたが、その結果、電解質の値が危険すぎると言われ即入院となりました。医師からは「今の状態は、高齢者があと数日で老衰で亡くなってしまうときくらいの状態です。よく意識を保っていられるし、最近まで仕事ができましたね」と言われたことを覚えています。「今、この病院で一番状態が悪いといっても過言ではない」とも言われました。
編集部
それは危険な状態でしたね。
一郎さん
1週間の精密検査でも確定診断には至らず、再び転院となりました。この頃は、自力歩行困難、食事摂取困難(食べてもすぐに戻してしまう)、高熱、激しい咳嗽(がいそう)などでとても辛い時期でした。大学病院に転院し、原因を調べる検査を毎日行って、やっと病名が「血球貪食症候群」と「皮膚筋炎」と確定しました。これが2017年3月21日です。確定診断まで半年近くかかりました。
編集部
どんな病気なのですか?
一郎さん
「血球貪食症候群」は、本来、体を守ってくれるはずの免疫の働きが異常に活性化され、白血球や赤血球などの血液成分を食べてしまう病気です。「皮膚筋炎」も同じく自己免疫疾患で、免疫細胞が自分の皮膚を攻撃してしまう病気で、手や太ももに発疹が出ていたのはこのためだったようです。
元の状態に回復するのを諦めていた
編集部
治療は順調に進んだのですか?
一郎さん
はい。まずステロイドパルス療法というのを3日間行い、その後プレドニンと免疫抑制剤を併用していくことになりました。ただ、診断直後の状態はベッドに寝たきり(全身の炎症反応)で、約5ヶ月間の高熱、肺炎、白血球の減少などもあることから、治療を行ってもこのまま寝たきりになってしまうか、良くても車椅子生活、最悪の場合、体力がもたず亡くなってしまうかも、という話でした。
編集部
そのときの心境について教えてください。
一郎さん
このときは、状態が悪すぎて意識朦朧で首から下を動かすこともできない状態でした。正直もう元の状態に回復することを諦めていたというか、悲観に暮れる気力すらなかったです。
編集部
そこからどのように這い上がったのですか?
一郎さん
まず、ステロイドパルス療法が開始されると、劇的に体調が良くなったんです。食事も少しずつ出来るようになりました。ただ、病状が良くなっても、落ちてしまった筋力や体力は薬で戻るわけではないので、ステロイドパルス療法から一週間ほど様子をみて、体を動かすリハビリも開始されました。
編集部
リハビリの内容としては?
一郎さん
まずは、車椅子に30分程度座るというものです。ただ車椅子に座るといっても、そもそもベッドから車椅子に移る力もないため介助が必要で、車椅子に移動した後も、そこに座っているだけということが、汗が出るほど大変でした。手すりを持って座位をキープしていました。これを一週間ほど行ったら、実際に個室から廊下までの数メートルを歩く練習が始まりました。それから、看護師さんの付き添いのもと、病棟の廊下を散歩、その次は別の病棟まで散歩、というように段階的に活動性を上げていき、元のように歩けるようになりました。
編集部
治療や闘病生活で、何か印象に残ったことなどあれば教えてください。
一郎さん
病気発症前まで救急救命士として救急車に乗っていました。患者さんによっては、一見元気そうに見えても、じつは自力で移動ができないという方を度々見てきました。その時は、単純に「自分で移動できないなら介添(かいぞえ)しよう」というように、患者さんの気持ちを深く考えられていませんでした。しかし、実際に自分が自力で歩く事やベッドから車椅子まですら一人で移動できないくらい辛い経験を得たことで、あの時の患者さんは、こんなに辛かったんだな、救急隊としてもっと患者さんに寄り添って対応をしなければならなかったと気付きました。
編集部
それは一郎さんならではかもしれませんね。
一郎さん
自分が患者になってみてはじめて、相手を思いやる気持ちを本当の意味で理解できたのかなと思います。現在はドクターストップのため現場活動が出来ませんが、これからは、患者さん一人ひとりの気持ちに寄り添い、精進していきたいと思います。
編集部
病気の前後で変化したことを教えてください。
一郎さん
大きく変化したことは、人生観です。病気以前は、休日に家にいてもつまらない、外出してなにかアクティブな遊びをしないともったいないと思っていました。しかし、病気になって大きく変わりました。今の私は、代わり映えのない何気ない日常に幸せを感じられるようになりました。そして、入院中のとても辛かった経験から、何事もなく1日を過ごせて、自分の家のベッドで眠りに付けることが1番の幸せと感じるようになりました。
自分を大切に出来ない人は、他人も大切に出来ない
編集部
今までの生活を振り返って思うことなどありますか?
一郎さん
もっと早く仕事を休めばよかったと思います。高熱が続いていても、解熱剤を飲んで仕事に行っていましたが、とても辛かったことを覚えています。職場の方々にも気を遣わせてしまったので、我慢せずに辛いことを伝えるべきでした。
編集部
現在の体調や生活はどうですか?
一郎さん
月に1回のペースで通院し、薬を内服しています。普通に生活しているだけでとても疲れやすい体となってしまったので、無理をしないように心がけています。
編集部
医療機関や医療従事者に望むことはありますか?
一郎さん
私も医療従事者の1人ですが、近年のコロナ禍で大変な業務が続いていると思います。また、感染対策を始め様々な事に気を使わなければならないことが多くあります。今後も大変な環境の中での仕事となりますが、頑張りましょう。
編集部
最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。
一郎さん
大病を経験して改めて感じたことは、何事も自分の体が一番大切だということです。健康でなければ、どんなにお金があっても自分のやりたいこともできません。よく耳にするかもしれませんが「自分を大切にできない人は、他人も大切にできない」と思いますので、自分の体を一番大切にしましょう。体調が悪い時は絶対に無理をしないでください。病院できちんと原因を調べてもらいましょう。
編集部まとめ
「最悪の場合、亡くなってしまうかも」という病状説明を受けても「回復を諦めていた」というほど気力まで奪われていた一郎さん。大病を経験したことで、人生観も変わり、医療従事者として患者さんの気持ちにも一層寄り添えるようになったと言います。そして、「自分を大切に出来ない人は、他人も大切に出来ない」「体調が悪いときは無理をしないでください」と、自分の体を大切にすることを教えてくれました。一郎さん、ありがとうございました。