「眼瞼下垂の手術後に、左右差が気になってしまう」再手術を検討する基準はあるのか?
多くの傷痕がそうであるように、手術痕の治り方には予測不可能なところがあります。一方、オペの精度のような、左右差を予測できるファクターもありそうです。この見極めが、再手術検討の判断基準になっていきそうですね。詳しい話をオジスキンクリニックの王子先生に伺いました。
監修医師:
王子 富登(オジスキンクリニック 顧問医師)
慶應義塾大学医学部卒業。同大形成外科、東邦大学医療センター佐倉病院形成外科医局長などを経た2020年より現職へ。医学博士。日本形成外科学会認定専門医、日本医師会認定産業医。日本形成外科学会、日本美容外科学会の各会員。
2種類の手術方法による違い
編集部
上まぶたは、年と共にたるんできますよね?
王子先生
はい。ヒトは1日に約2万回のまばたきをしています。ですから、まぶたを引き上げる筋肉や構造が次第に劣化してしまいます。また、まぶたのたるみ具合は、患者さんの日々の過ごし方に大きく関わってきます。この機能を元通りに近づけるのが、眼瞼下垂(がんけんかすい)手術です。
編集部
どうやって調節しているのですか?
王子先生
大きく2種類の方法があります。1つは「まぶたを外側から切開する方法」で、筋肉を直接見て調整できるので、細やかな調整が可能とされています。なお、患部が落ち着くまで3カ月ほどかかるのですが、手術痕は固く癒着するので、比較的、後戻りの出にくい方法といえます。眼瞼下垂手術の主流となっていますよね。
編集部
続けて、もう1つの方法についてもお願いします。
王子先生
もう1つは「まぶたの裏側から“切らずに”糸を通して施術する方法」です。糸の通す位置や糸の縛り加減で筋肉を調整します。どちらの方法でも左右差が見られることがあるものの、後者の方法の場合は、施術者がまぶたの筋肉を直視できないので、微調整が難しくなります。加えて、うまく糸がかかっていれば長持ちするケースもありますが、逆に糸のかかり具合によっては後戻りしやすい場合もあります。この方法でも落ち着くまで1カ月ほどかかるのですが、逆に考えれば、1カ月で落ち着くほどマイルドな方法ともいえます。
編集部
いずれの方法にしても、術後すぐには効果が出ないものなのでしょうか?
王子先生
傷全般にいえることですが、患部が完全に治るまでには時間を要します。左右差を問うのは、ダウンタイム後の話でしょう。ご高齢の方の場合、半年ほどかかることもあります。このときに何かしらのご不満があった場合、切開手術をもう1度やり直すのか、糸の調整といった「再処置」で済むのかは、最初に選んだ手術方法によります。
コミュニケーションに割ける時間
編集部
回復後の左右差は、担当医師の腕にもよるものなのでしょうか?
王子先生
左右差が生じるファクターは、大きく3つあるでしょう。冒頭に説明した患者さんのもともとのまぶたの状態や開き方、術後の治り具合、そして、担当医師による手術の内容です。なお、当院では、眼瞼下垂手術を0.5mm単位でデザインしています。例えば、紙を切り抜いて形をつくるとき、「切り取り線」が太いと、全体として曖昧になってしまいますよね。まぶたの切開も同様で、仮に「3mmの太さの切開ライン」を引いたら、最大で3mmのズレ幅が生じかねません。加えて、2本切開した間を癒着するわけですから、ズレは積み重なります。
編集部
手術中に仕上がりを確認できれば、認識差も少ないはずですよね?
王子先生
もっともな考え方だと思います。当院では術中、患者さんに最低でも10回は目を開いて確認していただいています。その都度、微調整をおこなっているということです。ここまできめ細かく対応しているクリニックは少ないと思います。とくに保険診療では、費用との関係から、時間をかけにくくなってくるでしょう。
編集部
満足度の高い手術を受けられるクリニックを探すとしたら、どういう点がポイントになりますか?
王子先生
繰り返しになるかもしれませんが、「時間をかけて患者さんとコミュニケーションを取っている医療機関」でしょう。手術内容の説明もなしに、オペの予約日だけを決めるような流れは「NG」ですね。手術の説明だけでなく、術後の経過はどうなっていくのかという予想の説明も大切です。自分のまぶたのタイプに近い症例写真なども見せてもらいましょう。
編集部
先生ご自身が眼瞼下垂手術を受けるとしたら、説明の有無や説明内容で決めるということでしょうか?
王子先生
その時は「手術後の検診の流れはどうなっていますか」と、ストレートに聞きますね。おそらく、抜糸までの流れは、どこでも説明してくれると思います。しかし、大切なのはその後です。手術痕が完全に落ち着くまではどれくらいの期間がかかって、その間にどう変化していって、検診などの機会がどれくらいの頻度で設けられているのかを確かめましょう。医師としても、抜糸後の変化を追っておいたほうが「自分の財産」になりますよね。次の施術に反映できるはずです。
保険診療の目的は、あくまで「機能」
編集部
手術痕が落ち着くまで待ってから再手術を望む場合、費用は別途かかりますか?
王子先生
保険診療の目的は、「まぶたが下がってきたことによる見えの不具合の改善」です。機能が改善されていなければ再度保険適用で手術を受けることが可能ですが、仮に機能が改善されていて見た目だけの問題だとすれば、別途、自費治療として費用がかかることが多いと思います。一方の自費診療では、「自分の希望や重要視している点をうまく伝える」ことが基本でしょうね。「どうなりたい」というご希望はもとより、「どうなりたくないか」という聞き取りも重視しています。
編集部
でも患者の心証は、いわば「曖昧」ですよね?
王子先生
そうかもしれませんね。ですから、「想定の範囲から“2mm以上”ズレていたら、再手術を検討する」というような数値化も必要でしょう。同時に、患者さんのご要望に対してできないことがあったら、私たちは最初から正直に言うべきです。
編集部
再手術に対して「1回までなら無料」といったサービスはないのでしょうか?
王子先生
医療機関によりけりですね。これは初回の術前に「不満足が起きないように患者さんとコミュニケーションを取れている」うえでの話で、あくまで一般論になりますが、「無料で手術をしたら、クオリティは落ちる」傾向もあるはずです。前回以上のクオリティを出すとしたら、それに見合った最低限の対価は必要でしょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあればお願いします。
王子先生
今回の結論ですが、手術後に毎日、鏡を見ていたとして、「自分でどう感じるか」が再手術検討の判断基準なのでしょう。他人の評価は、良くも悪くも「他人が感じたこと」です。眼瞼下垂手術はまぶたの手術のなかでも「難しい部類」ですから、ぜひ、ご自身で必要性を判断して、ご自身で信頼の置ける医師を選んでください。
編集部まとめ
眼瞼下垂手術による左右差には、大きく3つのファクターがあるとのことです。目の開き方や開き癖は患者要因、オペの中身は医療機関要因、そして、治り方は自然現象で予測のしにくい要因です。よって、一概に「前回の手術が左右差を直接、もたらした」とはいえないことになります。そうなると、自分で鏡を見てみて「どう感じるか」が問われます。簡潔な結論かもしれませんが、みだりに他人の意見で動かないほうが後悔しなさそうです。
医院情報
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診療科目 | 美容皮膚科 |