脳梗塞になりやすい季節はあるのか、脳神経外科医が関連性の有無を解説
脳の血管が詰まってしまい、血流が途絶えることで脳の細胞が死んでしまう病気を「脳梗塞」と言います。一般には、脱水症状で血液がドロドロになると、血栓という“詰まりの元”を生じさせやすくなるようです。では、脱水症状が起こりやすい夏に顕著な病気ということなのでしょうか。今回は「ふくろうクリニック自由が丘」の伊澤先生に、血管の詰まりと季節要因の解説をお願いしました。
監修医師:
伊澤 真理子(ふくろうクリニック自由が丘 副院長)
東邦大学医学部卒業。東邦大学医療センター大橋病院勤務後の2021年、東京都世田谷区に位置する「ふくろうクリニック自由が丘」の副院長就任。脳を中心とした疾患にチーム医療で対応している。日本脳神経外科学会専門医、日本認知症学会専門医・指導医、日本プライマリ・ケア連合学会認定医。
脳梗塞と季節の関係について
編集部
「脳梗塞」は、脳の血管の詰まりですよね?
伊澤先生
はい。脳梗塞とは、何らかの原因で脳に分布する血管が詰まってしまい、血液が運ばれなくなった部分の脳細胞(神経細胞)が酸素不足に陥り、死んでしまう病気です。
編集部
そこで本題です。脳梗塞になりやすい季節はあるのでしょうか?
伊澤先生
一般的に、夏は血管が広がって血圧が低下し、汗をかいて「血液がドロドロ」の状態になりやすく、血栓が生じやすいとされています。脳梗塞もその一例です。逆に冬は寒さによって血管が収縮するので血圧が上昇しやすく、血管にストレスがたまり、脳出血を起こしやすくなるとされます。しかし実際のところ、脳梗塞の発症には季節による顕著な偏りはありません。
編集部
「血液ドロドロ」が詰まりの原因ではなかったということですか?
伊澤先生
たしかに、「血液ドロドロ」も血栓を生む要因です。その一方で、心臓の不整脈によって血栓が生じることもあります。とくに心房細動という不整脈は、心房が正常な動きをできないために血液がよどみ、心臓内に血栓ができてしまうことがあります。この心房細動は冬に新規発症することが多く、心臓の血栓ができると「心原性脳塞栓症」という脳梗塞が起こりやすいとされます。
編集部
つまり、脳梗塞はむしろ“冬の病気”ということですか?
伊澤先生
心房細動による血栓が原因である心原性脳塞栓症に限っては、冬に多いと言えます。心原性脳塞栓症は比較的太い動脈に詰まり、広範囲の脳梗塞をきたすことが多く、高齢者に多くみられることから重症化することが多い傾向にあります。
脳梗塞の予兆
編集部
脳梗塞を防止するうえで、我々は何をすればいいでしょうか?
伊澤先生
動脈硬化が原因となるタイプの脳梗塞では、生活習慣病、すなわち高血圧症や高血糖、脂質異常症などの予防・管理が重要となります。また、脱水がきっかけになることもあるので、季節を問わずこまめな水分補給がポイントです。心房細動については加齢が最大の危険因子であり、誰にでも起こり得る病気なので「兆しをつかむ」ことがカギになります。
編集部
「不整脈の兆し」というと、動悸(どうき)とかですか?
伊澤先生
はい。動悸のほかにも、めまいやフワフワ感、息苦しさなどで自覚される人もいらっしゃいます。それらの症状が「心臓の不調によって生じているのかもしれない」ということを知っておいてください。なお、健康診断などでは、不整脈を拾えきれない場合があります。検査中に不整脈が起きないと見つけられないからです。
編集部
つまり、日頃の自覚が問われるということですか?
伊澤先生
そうですね。上述したような自覚症状を受診動機としていただければなによりです。
編集部
受診をしておけば、家庭で気をつけたいポイントも教えてもらえますか?
伊澤先生
症状の原因がわかれば、予防策や危険なサインなどをお伝えできる可能性があります。また、脳梗塞の危険因子をおもちの場合、リスクを減らす方法をアドバイスできるかもしれません。
脳梗塞になったときの対処法
編集部
話題が不整脈に集中してしまいましたが、本題は「脳の血管の詰まり」でした。
伊澤先生
脳梗塞の自覚症状は様々です。ある瞬間から急に手足のしびれ感や動かしにくさ、歩行時のふらつき、言葉が出ない、ろれつが回りにくい、視野が欠ける、などの症状が出現した場合、脳梗塞の疑いがあります。なお、多くの場合、頭痛は認めません。
編集部
国立循環器病研究センターは、こうした自覚があったら「すぐに119番」としているようですが?
伊澤先生
はい。とくに脳梗塞では、早めの診断・治療が重要となります。なぜなら、脳梗塞は発症後どれくらい時間が経過しているかによって治療方法が異なってくるからです。例えば、発症4.5時間以内はT-PAという薬で血栓を溶かせる可能性があります。発症8時間以内では、血管内治療で血栓を取り除くことができる可能性があります。こうした早めの診断によって、治療の選択肢は広がり、後遺症のリスクも減らすことができます。
編集部
たしかに、「脳梗塞=後遺症」のようなイメージがあります。
伊澤先生
脳梗塞で後遺症を残すかどうかには、梗塞の大きさと発症からの時間が大きな影響を及ぼします。血流再開が早いほど、症状の回復も早く、後遺症が軽くなる可能性が高まります。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
伊澤先生
心房細動が原因となる脳梗塞は冬に多いと言えますが、動脈硬化が原因の脳梗塞は暑い季節にも注意が必要です。結局のところ、1年中注意が必要ですが、後遺症を残さないためには少しでも早めの受診が重要です。脳梗塞でどのような症状で現れるかを理解しておき、もしものときには救急車を呼びましょう。また、心臓に起因しない脳血管の詰まりも当然にして起こり得ます。この場合、生活習慣病が大きなファクターです。あと、高血圧で動脈硬化になると、血栓が詰まりやすくなります。いわゆる「血液ドロドロ」は血栓の元ですよね。よく言われることですが、「十分な睡眠・栄養バランス・適度な運動」を心がけてください。結論としては、季節問わず「血管の老化を予防しましょう」ということです。
編集部まとめ
脳梗塞全体に季節性はないものの、「心房細動による血栓が脳血管に詰まる症例」に限ると、冬に多いそうです。なおかつ、心房細動由来の脳梗塞は重篤化しやすいとのことです。よって、重篤化を避けるのであれば「冬に用心」なのでしょうが、血管の老化は日々の生活の結果です。1年を通して、健康管理に心がける必要がありそうです。
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