「ビールに用いられるホップが骨粗しょう症予防に効果的」このウワサを医学的な視点から解説
「矢吹整形外科」の矢吹先生によると、医療従事者の間であまり注目されていなかったのが、ビールのホップと骨粗しょう症の関係だそうです。飲料メーカーがプロモーションに利用したことで、急に日の目を見るようになってきたこの研究。その是非や実効性について、考えていきましょう。
監修医師:
矢吹 尚彦(矢吹整形外科 院長)
東海大学医学部卒業。大学病院や総合病院などで整形外科領域の診療を積んだ後の2004年、神奈川県横浜市に「矢吹整形外科」を開院。治療に限らず、トレーニングマシンを備え、各種運動のアドバイスもおこなっている。日本整形外科学会専門医。日本骨粗鬆症学会、日本抗加齢医学会の各会員。
ビールと骨粗しょう症の関係性
編集部
そもそも、「ビールが骨粗しょう症を防ぐ」という説は、どこから出てきた話なのでしょうか?
矢吹先生
日本栄養・食糧学会で報告されたラットの研究が有名です。研究によると、ヒトに換算した場合、「体重60kgの成人で1日約100ml」のビールが骨密度減少に効果的とのことです。これは、ビールに含まれるホップ成分が関係していると考えられています。
編集部
なるほど。ビールというより「ホップ」が効くということなのですか?
矢吹先生
そういうことです。つまり、「ホップを含んだノンアルコール飲料」にも同じ効果が望めます。もっとも、コップ半分のビールとなると、かえって飲酒の呼び水になるかもしれないので、難しいところですよね。健康には、十分に配慮してほしいと思います。
編集部
実質、コップ半分だけ飲んで残りのビールを捨てるということは、考えにくいですよね?
矢吹先生
そうですね。残りをとって置いたとしても、炭酸が抜けてしまいますしね。現実には、「あるだけ飲む」ことになるのでしょう。なお、日本骨粗鬆症学会では別途、アルコールによる骨粗しょう症リスクを呼びかけています。アルコールには利尿作用があり、体内のカルシウムを排出してしまうからです。
編集部
そのまま深酒に入ってしまうと、肝臓にもよくないですよね。
矢吹先生
はい。同ラット研究が、「お酒を飲む口実」として使われると問題ですよね。骨粗しょう症対策としてのカルシウム補給なら牛乳でも可能ですし、説は説としてあるものの、自分の都合のいいように受けとらないようにお願いします。
足りていない栄養を補うことが最優先
編集部
昨今のビール風味飲料には、内臓脂肪を減らす効果を謳っているものもあります。
矢吹先生
そうみたいですね。しかし、「一定の効果が認められた」からといって、それが何かを証明するものではないと思います。たまたまかもしれないし、想定していなかった成分による効果の可能性もあります。その意味でラット研究は、「科学的根拠がしっかりと示された」報告です。「一定の効果が認められた」レベルよりも、信頼性はあるでしょう。
編集部
しかし、「飲みすぎリスク」を考えると、ホップにこだわらなくてもいいように思えます。
矢吹先生
カルシウムの含まれている牛乳やヨーグルトの方が、よっぽど健康的ではないかということですよね。骨粗しょう症を気にされる年代なら、1日650mgのカルシウム摂取を推奨します。ただし、この量を“牛乳だけ”で補おうとすると「牛乳ビン3本とちょっと」ということになります。
編集部
毎日の摂取を考えると、結構な量ですね?
矢吹先生
はい。そこで、「摂り方の工夫」が求められます。カルシウムだけでなく、吸収を促進する栄養素も並行して摂取していただきたいと思います。けっして「ビールを飲んでいれば、骨粗しょう症にならない」ということではありません。
編集部
結局、「栄養バランス」ということになってくると、素人には限界があります。
矢吹先生
そうですね。そのため、ぜひ「食事の相談に乗ってくれるかかりつけ医」をもってみてください。食材に含まれるカルシウム量を計算して日々の食事に反映させるのは、一般の人には困難でしょう。その点で専門家なら、メタボの兆候やアルコールによる肝硬変リスクなども把握してもらえると思います。骨粗しょう症で言えば、日光を浴びることによるビタミンDの生成も大切です。昼夜が逆転しているような生活は、骨を弱くしかねません。こうしたアドバイスを、ぜひ医師から受けていただきたいですね。
苦手な人もいる「運動」を取り入れる知恵
編集部
ところで、骨粗しょう症の一因は「運動不足」にあるとも聞きます。
矢吹先生
そのとおりです。骨は常につくり直されているのですが、負荷がかかるほど、「強い骨」に生まれ変わります。また、運動は種類を問わず骨の負荷になります。ご自身でできる範囲で構わないので、生活の中に運動を取り入れてください。
編集部
一方で、運動のために外出すると、新型コロナウイルスの流行が気になります。
矢吹先生
当院には併設したジムがあるのですが、やはり、運動不足の人を散見するようになってきました。「コロナロコモ」という言い方もあるくらいです。例えば、人と接しないウォーキングであれば、感染リスクはほとんどありません。それでも怖ければ、室内でできるヨガなどに取り組みましょう。
編集部
なおのこと、ホップを「万能薬」のように考えない方がよさそうですね。
矢吹先生
たしかに、科学的根拠のある説なので、参考にはなるでしょう。しかし、ほかにも骨粗しょう症の予防方法はあります。運動を習慣化し栄養バランスの良い食事を摂れるのであれば、それに越したことはない印象です。栄養バランスの良い食事や運動は「あらゆる病気の予防方法」でもありますからね。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
矢吹先生
ホップと骨粗しょう症の関係は、科学的に示されたものの「骨を強くするためにビールを飲みましょう」という話にはならないと思います。ラットの研究が広告やプロモーションなどに使われたとしても、一歩引いて、冷静に判断してほしいと思います。
編集部まとめ
「ホップが骨粗しょう症の予防になる」。これは、科学的根拠が示された確たる説のようです。しかし、運用を考えると、アルコールの悪影響が懸念されます。加えて、特定の栄養素ばかりを摂るのは、本当に必要な栄養素を遠ざけてしまうかもしれません。また、おつまみによる塩分過多も考えられそうです。ここは基本に立ち戻りましょう。ここで言う基本とは、個人ごとに異なる栄養素の不足を、「かかりつけ医」と相談しながら摂っていくことです。
医院情報
所在地 | 〒235-0011 神奈川県横浜市磯子区丸山2丁目3-6 |
アクセス | JR根岸線「磯子駅」 バスで10分 |
診療科目 | 整形外科、リハビリテーション科、皮膚科 |