〜実録・闘病体験記〜 長男・小学1年生、母・抗がん剤治療1年生《乳がん》
子育て真っ只中のゆりかんさん(仮名)に突然降りかかった乳がん。健康診断はオールA。胸に違和感を感じることもなかったのに、乳がん検診を受けたことで乳がんが発覚したそうです。現在も抗がん剤治療中。「乳がんは早期発見がとても大事だと思います」と話すゆりかんさんに、乳がん発覚から現在までの話を聞きました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2022年2月取材。
体験者プロフィール:
ゆりかんさん(仮称)
神奈川県横浜市在住、1979年生まれ。2児の母、子ども・夫との4人暮らし。2020年10月下旬、自治体から届いた乳がん検診のクーポン券で検診を受けたところ11月下旬にがんと診断され、全摘手術を行う。その際、リンパへの移転が確認され、約1年半の抗がん剤治療を開始。現在も抗がん剤の治療中だが、副作用はなく元気に過ごせている。Instagram(https://www.instagram.com/yurican_can/)にて自身の闘病について発信。そこで出会った仲間と音声配信をしたり、がんサバイバーの人へ向けたTシャツ制作をしたりするなどの活動を行っている。
記事監修医師:
村上 友太
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
自治体のクーポンで受けた検診で発覚した乳がん
編集部
乳がんと診断されるまでの経緯を教えてください。
ゆりかんさん
2020年10月下旬に自治体のクーポン券が届いたので、近所のクリニックへ検診に行きました。その当日にMRIも撮るという話になったのですが、私自身は「誤診だろう」という程度の感覚でした。それが一番初めの感想です。その後細胞診を行い、良性か悪性かわからないものがあるということで、大きな病院を受診することになり、紹介状を書いてもらいました。
編集部
紹介状を書いてもらった病院は新型コロナウイルスの影響で受診することができなかったそうですね?
ゆりかんさん
そうなんです。友人に相談した結果、がんセンターへ行くことにしました。それが11月下旬のことです。がんセンターの初診で、乳がんだと告知されました。検査はエコー、超音波、MRIを受けました。
編集部
そのときの心境をお聞かせください。
ゆりかんさん
健康診断でオールAだった私が、まさかがんになるとは思ってもみませんでした。何かの間違いだと思っていましたし、根拠のない自信もありました。
編集部
痛みや違和感などの自覚症状はあったのでしょうか?
ゆりかんさん
自覚症状はなく、しこりすらありませんでしたが、病理結果では、浸潤性の乳がんで5mmほどのものが見つかりました。
編集部
そうなのですね。ちなみに、セカンドオピニオンは受けられましたか?
ゆりかんさん
私がお世話になったがんセンターは、主治医の先生とほかの乳腺外来の先生が集まり、患者の治療内容などを会議で話し合ってくれるので、主治医だけの判断ということがなく、様々な観点から手術、治療方法を決めてくれるので、病院の先生を信じて、セカンドオピニオンは受けませんでした。
編集部
医師からは、治療についてどのような説明がありましたか?
ゆりかんさん
“赤ちゃん”のような、ステージ0か1くらいのものが乳頭近くにできていて、手術が難しいので、できれば全摘手術をしたほうがよいと言われました。また、全摘すれば、おそらく大丈夫という話だったので、主人と相談して、全摘手術を決断しました。コロナ禍もあってすぐに手術はできず、手術は年が明けてからの1月中旬に決まりました。再建手術も同時に行うことになり、形成外科の受診もして準備万端で手術を迎えました。
手術してわかった転移
編集部
いざ手術をしてみると、状況が違ったそうですね。
ゆりかんさん
はい。リンパ節への転移が確認でき、主治医自身も驚いていました。検査結果と違い、がんの進行が早かったのかもしれないということでした。手術直後そんな話があり、なんだかあまり状況が理解できていませんでした。
編集部
そのときはどのようなお気持ちでしたか?
ゆりかんさん
もともと計画をしていなかった抗がん剤治療をしなくてはいけないかもしれないということが術後に判明して、モヤモヤした気持ちで日々を過ごしました。結局1か月後の病理検査の結果で、約1年半の抗がん剤治療が決まりました。コロナ渦の入院、手術ということで、面会もなし、基本的には病室でずっと過ごすなど、本当にコミュニケーションの少ない静かな入院生活でした。でも、そこで友達になった方もいて、今でも連絡を取っています。
編集部
病理検査ではどのような結果が出たのですか?
ゆりかんさん
がんの顔つき(病理学的悪性度)がグレード3、HER2陽性、ホルモン受容体陰性で、良いとは言えない結果だったので、「抗がん剤治療をしましょう」ということになりました。病理検査の結果と同時に、治療計画書を渡されて、抗がん剤治療の具体的なスケジュールが書かれていました。
編集部
抗がん剤治療はお子さんの小学校の入学式を終えてからスタートされたとのことですが。
ゆりかんさん
長男が保育園から小学校に上がるという節目の年で、卒園式や入学式とイベントが多い時期だったため、主治医にお願いをして、2021年4月7日、長男の入学式当日午後より、抗がん剤治療を始めることにしました。長男・小学1年生、母・抗がん剤治療1年生の生活がスタートしました。AC療法を受けたほか、パクリタキセル、パージェタとハーセプチンという薬を使いました。
※AC療法とは、アドリアマイシン(Adriamycin)とシクロホスファミド(Cyclophosphamide)という2種類の抗がん剤を組み合わせた治療のこと。
編集部
「AC療法」について詳しく教えていただけますでしょうか?
ゆりかんさん
AC療法は3週間に1回の合計4回の抗がん剤を使う治療で、副作用が強く、4月28日の自分の誕生日に行った2回目の抗がん剤治療の頃から髪の毛が抜けだしました。正直、抜け切るまでの姿は本当にいやでしたが、抜けてしまえば、慣れてきたのか、少しかわいいと思えるほどになっていました(笑)。AC療法の点滴直後は、とても食欲があったのですが、その後、約6日間ぐらいはほぼ寝たきりになりました。倦怠感がひどく、家にいる日々が続きました。その後は、回復期を迎え、次の抗がん剤までの2週間ちょっとは本当に元気な体に戻り、友人とランチに行けるほどでした。吐き気止めが効いたので、倦怠感があったものの、吐くことは一度もなく元気に過ごせる日々が続きました。
編集部
では、「パクリタキセル」の副作用はどうでしたか?
ゆりかんさん
7月頭から始めた2つ目の薬であるパクリタキセルでは、脱毛がさらに進み、まつ毛、眉毛もなくなりました。また吹き出物がひどく、本当につらい症状が続きました。それに加え夏場のウィッグが非常に暑く、マスク生活もあり、この頃は友人と会うことは、AC療法の時よりもかなり減り、静かな夏を過ごしました。地味な副作用は続きましたが、夏場が過ぎ、パクリタキセルがもうすぐ終わるころという時期に新型コロナウイルスの感染が拡大し、少し早いと思いましたがワクチン接種もこの時期にしました。
編集部
現在は、最後の抗がん剤である「パージェタ」と「ハーセプチン」の治療中だそうですね。
ゆりかんさん
はい。ハーセプチンとパージェタは、3週間に1回を18セット行うことになっていて、現在はこの治療中です。9月中旬にパクリタキセルが終わったのですが、なかなか髪の毛が生えてこなかったのですよね。でも11月下旬に無事生えてきて、現在(取材時)は高校球児のちょっと伸びたぐらい、高3の冬ぐらいです(笑)。
闘病中に始めたInstagramで得た出会いや経験
編集部
病気と向き合っていく上で心の支えになっているものはなんでしょうか?
ゆりかんさん
抗がん剤治療が始まってから、Instagramを利用するようになったのですが、そこで出会った同病の人たちとのコミュニケーションに支えられています。自分の闘病アカウントの記録用として始めたのですが、今はそこからたくさんの出会いと刺激をもらっています。
編集部
それを機に、さまざまな活動をされているそうですね。
ゆりかんさん
2021年10月乳がん月間が始まるころに、同じ乳がん罹患の人とInstagramで出会い、彼女と一緒に、“今のジブンを好きでいたいあなたへ”をテーマにバーチャル写真展を開きました。抗がん剤治療で脱毛した方々のお写真が集まりました。そのプロジェクトがFM桐生のDJの方の目に留まり、桐生FM出演まで果たしました。2020年年末に、全摘手術を不安に思っていた自分には夢にも思っていなかった2021年を過ごすことができました。現在の活動は、Instagramで出会った仲間と音声配信をしたり、がんサバイバーの方向けにTシャツ制作をしたり、リアルイベントの開催など、小さい活動をしています。2022年もまだ治療は続きますが、楽しいこと、面白いことをしたいと考えています。
編集部
発症後、生活に変化はありましたか?
ゆりかんさん
多少の変化はありましたが、特に変わらず生活することを心がけているので、そこまでの変化はありません。変わったところといえば、必ずウィッグをかぶって外に出るというところです。
編集部
現在の体調や生活などの様子について教えてください。
ゆりかんさん
今はがんだけを攻撃してくれる抗がん剤のため、脱毛などの副作用はなく、関節痛や肌荒れなど、以前の薬の副作用と比べようのないぐらい元気に過ごせています。
編集部
乳がんを意識していない人にメッセージをお願いします。
ゆりかんさん
定期検診は必ず受けてください。違和感があれば必ず先生と話をしてください。放置はしないでほしいです。それからテレビやインターネットなどで紹介されている乳がんのセルフチェックもぜひやってみてほしいです。私の周りではセルフチェックでしこりに気づいたという人も結構います。また、授乳期は乳がんになりにくいと言われていますが、私の周りでは結構います。授乳期は赤ちゃんのお世話でとても忙しく、自分のことは後回しにしてしまいがちだと思うのですが、ぜひ検診へ行ってほしいです。早期発見・早期治療をして元気でいることがお子さんのためにもなると思うのですよね。
編集部
医療従事者に望むことはありますか?
ゆりかんさん
私はおかげさまで、クリニックの先生や主治医などに恵まれているので、医療従事者の方へは感謝しかないです。特に化学療法の看護師さんは、世間話などしてくれて本当にリラックスした環境を作ってくれます。医療従事者の方がフレンドリーに接してくださることが嬉しいです。
編集部
最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。
ゆりかんさん
早期発見すれば、がんは怖い病気ではありません。必ず治療法があります。がんや病気は、自分のことを、自分の人生をしっかり見ることのできるきっかけだと思います。私はがんになり、時間は有限であるということや、人との出会いなど、今まで見えていなかった大事なことを感じることができ、これから残された時間を大切にしていきたいと思うようになりました。がんになっても、大丈夫です。私は生きています。
編集部まとめ
育児、家事、仕事などで毎日忙しくしていると、自分の体のことはつい後回しにしてしまいがちですが、家族のためにも「元気でいること」が大切だと気づかされるお話でした。乳がんは早期発見・早期治療をすれば治せる可能性の高い病気です。違和感を感じたらなるべく早めに受診をすること、違和感を感じなくても毎年の検診は必ず行くようにしましょう。