乳がんは遺伝する? 予防のための遺伝子検査や治療についても教えて!
乳がんは遺伝によって発症するケースもあるといいます。また遺伝性の乳がんが疑われる場合には、遺伝子検査を受けたり予防的に乳房を切除する手術を行ったりすることで早期発見・予防ができるケースがあります。そこで、遺伝性乳がんや遺伝子検査、治療法について、あさか台乳腺クリニックの中村慶太先生に話を聞きました。
監修医師:
中村 慶太(あさか台乳腺クリニック 院長)
平成14年東京医科大学医学部医学科卒業。慶應義塾大学病院外科教室、東京医科大学病院第二外科(現:心臓血管外科)、東京医科大学八王子医療センター乳腺外科、がん研究会有明病院病理部、戸田中央総合病院乳腺外科を経て令和3年にあさか台乳腺クリニック開院。日本外科学会認定外科専門医、日本乳癌学会認定乳腺認定医、検診マンモグラフィ読影認定医師(評価AS)、乳がん検診超音波検査実施・判定医師。日本乳癌学会、日本外科学会、日本臨床外科学会に所属。
乳がんは遺伝によって発症することもある
編集部
血縁に乳がんになった人がいると、自分も乳がんなりやすいというのは本当ですか?
中村先生
血縁者に乳がんを発症された方が複数いる場合、乳がんになりやすい体質を受け継いでいることがあります。これを「家族性乳がん」といいます。この中で遺伝が原因であることがはっきりしているものを「遺伝性乳がん卵巣がん症候群」(HBOC)といいます。
編集部
遺伝性乳がん卵巣がん症候群について、もう少し教えてください。
中村先生
乳がんのうち、遺伝が関与していると考えられるものの一つです。日本人の女性で、乳がんを発症する方は年々増加していて、年間9万人が新たに乳がんと診断されています。そのうち5〜10%の方の発症に、遺伝が大きく関与していると考えられており、最も代表的なものが「遺伝性乳がん卵巣がん症候群」です。この患者さんは、生まれつき特定の遺伝子(BRCA1/2)に異常があり、乳がんや卵巣がんを発症する可能性が高いことがわかっています。
編集部
どのような場合に遺伝性乳がん卵巣がん症候群が疑われるのですか?
中村先生
- 40歳未満で乳がんを発症された方がいる
- 年齢を問わず卵巣がんを発症された方がいる
- ご家族の中で、お一人の方が両側もしくは片方の胸に2個以上、乳がんを発症された方がいる
- 男性乳がんを発症された方がいる
- ご家族の中で、ご本人を含め、乳がんを発症された方が3名以上いる
- トリプルネガティブ乳がんを発症された方がいる
- ご家族の中にHBOCと診断された方がいる
遺伝子検査について
編集部
どうしたら遺伝子検査を受けることができますか?
中村先生
先述したチェックリストで当てはまる項目があって不安を感じる方は、まずは遺伝カウンセリングを受けていただきます。カウンセリングが受けられる病院のリストは「日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構」(JOHBOC)のホームページより検索できます。
※HBOC全国登録事業 参加施設一覧
https://johboc.jp/kakeitoroku/shisetsulist/
編集部
遺伝子検査はどのようなことを行うのですか?
中村先生
検査方法は採血です。BRCAという乳がん発症を抑えるための遺伝子に異常がないかを調べます。
編集部
カウンセリングを受けたら、必ず検査を受けるのですか?
中村先生
検査を受けるか否かはご本人の自由です。施設によって異なりますが、カウンセリングを受けた後に、実際に遺伝子検査を受けられる方は半数ほど。検査を受けることのメリットとデメリットについて説明をよく聞いた上で、考えて決めることができます。
編集部
遺伝検査を受けるメリットとデメリットは何ですか?
中村先生
メリットは、ご自身がなり得る病気がわかり、それに対して対策を立てられることです。デメリットは、ほかの検査と違い、結果が自分以外の親族に広く影響を及ぼす可能性があることでしょう。仮に結果が陽性であった場合、血縁者に不安を与えたり、結果を伝えたりすることで、その人の将来に悪影響を及ぼす可能性があります。そのため、事前に家族とも相談しておくことが大切です。
編集部
遺伝子検査を受ける場合、費用はどれくらいかかりますか?
中村先生
- 45歳以下の発症
- 60歳以下でトリプルネガティブ乳がんを発症
- 2個以上の原発性乳がんを発症
- 男性乳がん
- 卵巣がん(卵管がん・腹膜がんを含む)を発症
- トリプルネガティブ乳がんを発症された方がいる
- 3親等以内に乳がんや卵巣がんを発症した血縁者がいる
乳がんの治療法
編集部
遺伝子検査を受けて遺伝性乳がん卵巣がん症候群と診断された場合、どのような対策ができるのでしょうか?
中村先生
より精密な検査を受けることや、予防的な手術を受けることなどができます。遺伝性乳がん卵巣がん症候群と診断された人が、必ずしも乳がんや卵巣がんを発症するわけではありません。しかし、診断されていない場合に比べ、乳がんや卵巣がんを発症する確率は格段に上がります。そのため、より精密な検診を受けることが必要です。乳がんについては2020年4月から25歳以上の方へのMRIなどを併用した検査が保険適用となりました。また、希望される方には、乳がん発症のリスクを減らすための予防的な乳房切除手術も行われています。
編集部
自分が遺伝性乳がん卵巣がん症候群だった場合、この手術を受けた方が良いのでしょうか?
中村先生
手術を受けるか否かは患者さんの自由ですが、手術を受けたからといって完全に乳がんの発症リスクがなくなるわけではないため、信頼できる医師とよく相談して決められると良いでしょう。
編集部
ありがとうございました。最後に読者の皆様へメッセージをお願いします。
中村先生
乳がんは日本人の女性の中で最も多い「がん」であり、生涯で11人に1人が乳がんになると言われています。このうち「家族性乳がん」とHBOCを合わせても罹患者は20%以下であり、多くの方が家族性や遺伝性と関係なく発症しています。そのため、だれもが他人事と考えず、普段からご自分の乳房に関心を持っていただくことが大切と考えます。いまや乳がんは早期に発見すれば治る病気になりました。怖がらずに定期的な検査を受けていただき、乳がんで悲しい思いをする人が一人でもいなくなるよう、少しでもお力になれたら嬉しく思います。
編集部まとめ
家族内に乳がんを発症した方がいる場合でも、ご自身も必ずしも乳がんを発症するわけではありません。しかし、そうでない場合と比較すると、将来的に乳がんを発症するリスクがあることは明らかであるということが分かりました。遺伝子検査や予防的に手術を受けることは患者さんの自由意志です。メリット・デメリットを考慮して家族や医師とよく相談し、検査や手術を検討してみると良いでしょう。
医院情報
所在地 | 〒351-0022 埼玉県朝霞市東弁財1-5-18 カロータ3階 |
アクセス | 東武東上線「朝霞台駅」徒歩1分 JR武蔵野線「北朝霞駅」徒歩2分 |
診療科目 | 乳腺外科 |