予防理学療法とは何ですか? リハビリとの違いを理学療法士が解説
予防理学療法と聞いて「予防はわかるけど、理学療法が付くとよくわからない」という印象をもつ方も多いでしょう。そこで一般的な理学療法と予防理学療法の違いや予防理学療法の取り組みについて「理学療法士」の大平さんにお伺いしました。
監修:
大平 拓巳(理学療法士)
大手総合病院の勤務を経て、地域密着型の軽費老人ホームに勤務。正しい情報をなるべく分かりやすく伝えることを目的に医療・介護に関するWeb医療ライターとしても活動中。
予防理学療法とは?
編集部
予防理学療法の前に、理学療法について教えて下さい。
大平さん
理学療法とは病気やケガなどで動かなくなった基本的な動作を回復するための手段、いわゆる「リハビリ」のことを指します。基本的な動作とは、「座る、立つ、歩く」といった生活するために必要な基本的な動きになります。また基本動作の回復手段として運動療法や物理療法を用いることが多いですね。
編集部
理学療法は病気やケガをした人だけに行われるものなのでしょうか?
大平さん
理学療法は病院や老人介護施設で行われることが多く、一般的には病気やケガのリハビリになります。
編集部
次に予防理学療法と理学療法との違いについて教えてください。
大平さん
予防理学療法の目的は「老化による筋力や運動能力の低下」の予防と、「老化に伴って起こりやすい病気やケガ」の発症予防・再発予防になります。つまり、病気やケガの患者の方に向けたリハビリは理学療法で、健康的な生活を続けるための予防に視点を置いたアプローチが予防理学療法になります。
予防理学療法は「全ての人を」対象にしている
編集部
予防理学療法の対象年齢は何歳からでしょうか?
大平さん
予防理学療法の対象は「病気やケガの有無に関わらず全ての人」となっています。対象が広い理由は、予防には1~3次予防まで段階があるためです。その中でも、1次予防(一般の人に向けた健康増進)、2次予防(病気やケガのリスクが高い人を早期発見・治療を行う)に重点を置いています。その2つに重点を置くことで、将来病気になったり、介護が必要になったりしないように予防するのが目的となります。
編集部
高齢者に向けたものという印象がありますが、実際どうでしょうか?
大平さん
確かに、高齢者への取り組みが社会的に注目されていることもあり、目にする機会が非常に多いようです。例えば、地域に住む高齢者の体力維持を目的に「介護予防体操」などの運動を行う場を設けたり、安全かつ安心して自宅で過ごせるようにアドバイスを専門家の視点でおこなったりもしています。
編集部
高齢者以外にはどのような取り組みをしているのでしょうか?
大平さん
中高年世代へは退職後を見据えて、生活習慣のアドバイスを検診などを通じて行っています。また、健康増進イベントや企業における健康管理の啓蒙なども積極的におこなわれています。
予防理学療法は社会課題を解決する糸口となる
編集部
予防理学療法における課題はありますか?
大平さん
予防理学療法はまだまだ発展途上のためアプローチ方法が統一されていないことが課題となります。そのため、これから研究を積極的に行っていくことで、より効果的なアプローチ方法が可能になると考えられます。
編集部
どのような研究がおこなわれているのでしょうか?
大平さん
予防理学療法は社会的ニーズに対応するため、その時代ごとの社会問題や課題の研究が中心となります。現在は介護予防や地域包括ケアシステムと言われる地域課題が中心となっています。また、発症すると介護が必要になりやすい「脳卒中」や「加齢に伴う筋力や運動能力の低下」を予防するための研究もおこなわれています。さらに予防理学療法を一般の人に届けるための制度立案にも力を入れています。
編集部
研究の結果として社会にどのような影響がありますか?
大平さん
予防分野の研究における大きな影響は社会保障費の増大抑制だと考えられます。少子高齢社会により医療費、介護費、年金等社会保障費が増大しています。このような社会において、社会保障費を抑制するためには、多くの国民が健康を維持することで、医療費や介護費を減らすことが重要です。予防理学療法の研究が進み、転倒予防を実施することで高齢者の転倒が減少すれば、あるいは脳卒中を誘発する肥満や高血圧を予防できれば医療費、介護費の抑制につながります。
編集部まとめ
予防理学療法の対象は「病気やケガの有無に関わらず全ての人」であることが分かりました。一人ひとりが予防意識を高めて健康的な生活を送れるように支援することが、予防理学療法の大切な取り組みだといえます。