子どもの近視を予防。さまざまな検査でチェックして進行を抑える
近視は、将来的に緑内障や黄斑変性などの重篤な疾患を発症するリスクを高めるとされています。成長とともに発症頻度が高くなるといわれる一方で、最近では近視の低年齢化が問題になっています。病的な近視を予防するには、早めに検査を受け、進行を抑えることが重要です。そこで今回は、さまざまな検査から近視発症リスクなどを解析する「学童近視ドック」を行っている医療法人医新会新見眼科の吉田達彌先生に話を聞きました。
監修医師:
吉田 達彌(新見眼科 院長)
北里大学薬学部卒業、岡山大学医学部卒業、東京大学医学部眼科学教室入局。公立昭和病院に勤務、眼科主事を経て新見眼科院長に就任。日本眼科学会認定眼科専門医、薬剤師。日本眼科手術学会、日本網膜硝子体学会などに所属。白内障・多焦点眼内レンズ手術、網膜硝子体手術、オルソケラトロジー、屈折矯正手術などが専門分野。
目次 -INDEX-
近視とは
編集部
そもそも近視とはどのような状態なのでしょうか?
吉田先生
編集部
近視になってしまう原因は何でしょうか?
吉田先生
近視の原因には、大きく遺伝によるものと環境によるものがあります。両親が近視の場合には、その子どもも近視になるリスクが高いとされるほか、日本人などの東洋人は遺伝子的にも近視になりやすいといわれています。また、環境によるものでは、タブレットやスマートフォンなどの使用時間が長い場合や屋内で過ごす時間が長い場合、近視になるリスクが高いといわれています。
編集部
最近では、子どもの近視も多いといわれていますよね。
吉田先生
そうですね。近年は小中学生で近視の割合が増加し、低年齢化してきています。都内の小中学生を対象にした最近の報告では小学生の76.5%、中学生の94.9%が近視であるといわれています。特に近年はタブレットやスマートフォンなどのデジタルデバイスの長時間使用に加え、コロナウィルスの流行で屋外活動が減ったため、さらにその傾向に拍車がかかっているかもしれませんね。
編集部
子どものうちから近視になってしまうのは心配ですね。
吉田先生
そうですね。眼軸長は成長に伴って長くなりますので、近視になった年齢が早い人ほどマイナス6D以上の強度近視になってしまう可能性が高くなります。眼軸長を短くする方法はありませんので、なるべく早い段階でいかに進行を抑えられるかがポイントになります。
編集部
近視が進行したり強度の近視になってしまったりすると、どんなことが懸念されるのでしょうか?
吉田先生
強度の近視とは、眼軸長が過度に伸びてしまった状態です。眼球が変形して網膜や脈絡膜、強膜といった眼球を構成する様々な部位に障害をきたしやすくなります。その結果、将来的に緑内障や、網膜剥離、黄斑変性といった失明につながる重篤な疾患を発症するリスクが高くなってしまいます。強度近視の場合、白内障になるリスクは5倍、緑内障は14倍、網膜剥離は22倍、黄斑変性のリスクは40倍にも上るといわれています。
学童近視を予防する検査について
編集部
「学童近視ドック」についてお聞きします。どんなことを調べているのでしょうか?
吉田先生
視力、屈折(遠視や近視の程度)、眼位(目の位置のずれ)、色覚、眼底検査といった一般的な検査だけでなく、より高度な最新の検査機器や遺伝子検査を用いて近視進行の予測や疾患リスク評価なども行います。
編集部
検査結果からはどんなことが分かるのでしょうか?
吉田先生
検査結果と統計データと照らし合わせて、将来どのくらい近視が進行するか、どのような治療が適切か、またその治療によってどの程度の効果が期待できるかといったことが分かります。ドック受診時の病気の有無はもちろん、将来的な緑内障や黄斑変性などの疾患リスクも評価できます。
編集部
検査を受けるときの注意点などはありますか?
吉田先生
より正確な屈折の度合いや眼底疾患を検査するため、散瞳作用のある調節麻痺剤を点眼して検査を行います。その結果、検査翌日程度までは見えにくさや眩しさを感じることがあります。自転車の運転などは控えるほか、ころんだりしないよう親御さんは注意してあげてください。
近視の予防や治療法
編集部
子どもが近視になってしまった場合には、どのような治療が行われるのでしょうか?
吉田先生
一度、眼軸長が伸びて近視になってしまうと元に戻らず、成長に伴ってさらに進行していくため、成長期の子供は手術ができません。近視の進行を完全に止めることはできませんが、進行を抑えるとされる治療法がいくつかあります。最近は近視進行抑制を目的として、低濃度アトロピンの点眼薬、就眠時に特殊なコンタクトレンズをつけるオルソケラトロジー、クロセチンを含有するサプリメント、軸外収差を補正する多焦点コンタクトレンズなどの処方をおこなう施設も増えてきています。
編集部
近視の場合には、子どもでも眼鏡やコンタクトレンズをつけた方が良いのでしょうか?
吉田先生
もちろん黒板の文字が読めない、友達の顔がわからないなど日常生活、学校生活に支障をきたす場合は眼鏡やコンタクトレンズの使用をおすすめします。眼鏡や一般的なコンタクトレンズを使わずに裸眼で見えるようにする方法としてオルソケラトロジー治療があります。これは寝ている間に特殊なコンタクトレンズを装着して起床したら外すことで、角膜の形を矯正して日中の裸眼視力を維持するものです。眼鏡や一般的なコンタクトレンズでは近視の進行を抑制する効果はありませんが、オルソケラトロジーは近視の進行をある程度抑制することも期待できます。
編集部
子どものうちに近視を予防したり進行を抑えたりするためには、どんな事が大切なのでしょうか?
吉田先生
編集部
ありがとうございました。最後に読者の皆様にメッセージをお願いします。
吉田先生
近年デジタルデバイスの普及やコロナウィルスの流行にともなう活動自粛で以前と比べ子どもの近視が爆発的に増えています。一度近視になってしまうと元の状態には戻らないだけでなく、成長とともに進行していくことが多いので、両親のいずれかが近視の場合や学校検診で視力低下が指摘された場合は早めに検査を受け、適切な対処をしていくことが重要です。家の中にこもらずできるだけ外で遊ぶ時間を作るほか、タブレットやスマートフォンの使い過ぎには注意して規則正しい生活習慣を心がけてください。
編集部まとめ
近視になってしまうと将来的に失明するリスクも生じます。遺伝や生活環境から近視が懸念される場合には、早めに検査を受けるようにしましょう。最近では感染予防の観点からなかなか外で遊ぶことができず、自宅でテレビやスマートフォンで遊ぶことも多いでしょう。しかしこうした生活環境は近視のリスクを高めるため、十分な感染対策を行なった上で散歩などを習慣にしてみると良いかもしれません。
医院情報
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診療科目 | 眼科 |