「陣痛がなかなか来ない…」分娩予定日を過ぎたときの対処法を紹介
出産の予定日が近づくにつれて、幸せと不安が入り混じるかと思います。しかし、「陣痛がなかなか来なかったら……」と心配になる妊婦さんもいるでしょう。万が一、分娩予定日を過ぎてしまったら、どうすればいいのでしょうか。「ローズマタニティクリニック」の前先生に教えていただきました。
監修医師:
前 和幸(ローズマタニティクリニック 院長)
東京大学医学部医学科卒業。その後、各地の病院で産婦人科部長などを歴任。2021年、埼玉県さいたま市に「ローズマタニティクリニック」を開院。「かけがえのない命の誕生を、できる限り自然な状態で迎えて頂きたい」という思いを大切に、医師や看護師が一丸となって母子の健康を温かく見守っている。日本産科婦人科学会専門医、母体保護法指定医、日本医師会認定産業医。
予定日を過ぎたのに陣痛が来ない……なぜ?
編集部
分娩予定日を過ぎても陣痛が来ないことはあるのですか?
前先生
はい。それほど珍しいことではありません。通常、分娩予定日は妊娠40週0日に設定されていて、この頃に陣痛がくるのが一般的です。しかし、場合によっては予定日を過ぎてお産が始まることもあります。妊娠期間が42週を超えると「過期妊娠」といい、それ以後のお産を「過期産」といいます。
編集部
過渡妊娠や過渡産はどのような人に多いですか?
前先生
一般的には、初産だとなりやすいと考えられています。とくに、35歳以上の高年初産婦は胎児の通り道である子宮頸管が広がりにくく陣痛が起きにくい傾向があります。また、高年初産婦の場合、「微弱陣痛」という陣痛がきても弱いままの状態になりやすく、それもお産が長引く原因になります。
編集部
高年の初産婦の場合、とくに気をつけた方がいいのですね。
前先生
はい。ただし、一度、妊娠を経験した人でも体質などの関係で過期妊娠になるケースが考えられます。
分娩予定日を過ぎたら、どんなリスクがある?
編集部
過期妊娠になった場合、リスクはあるのでしょうか?
前先生
一般には、妊娠40週を過ぎると様々なトラブルが増えると言われています。実際、生まれた赤ちゃんが病気になる確率や死産・死亡率のデータを見ると、39週~40週で生まれた赤ちゃんが最も健康的です。それより早くても遅くても、病気になったり、死亡したりする可能性が高まることがわかっています。もちろん、分娩予定日を過ぎても健康な赤ちゃんを出産する人もいますから一概には言えません。
編集部
なぜ、そのようなトラブルが起こるのですか?
前先生
一例として、子宮の寿命の問題が挙げられます。分娩予定日を過ぎると、子宮内の環境が悪化したり、胎盤機能が低下したりすると言われています。
編集部
もう少し詳しく教えてください。
前先生
胎盤の寿命は妊娠41週目くらいで、それを超えると羊水が濁ったり、水量が減少したりすることがあります。このように、胎盤の環境が悪くなると胎児が苦しくなってしまいます。そして、胎児が胎便をすると、「羊水混濁」という状態になり、お産のときに赤ちゃんがこの羊水を吸引してしまうと、生まれてから呼吸障害を起こすことがあります。
編集部
胎盤の寿命という問題があるのですね。
前先生
はい。それから、胎内で胎児が育ちすぎて大きくなるという問題もあります。例えば、分娩時の鎖骨の骨折や、首から肩や肘の神経に障害が起きる「Erb麻痺」などが起こり得るのです。
編集部
赤ちゃんの健康を考えると、過期産はとても危険なのですね。
前先生
そうですね。それから、母体への影響もあります。赤ちゃんが大きく育つことで、分娩時の外傷は大きくなりますし、出産時に赤ちゃんの肩が引っかかって出てこられない「肩甲難産」や、お産が途中で止まってしまう「分娩障害」などを起こすこともあります。
編集部
母体にとっても様々な影響があるのですね。
前先生
はい。また、出産が長引けば母体に大きな負担がかかるので、血圧が上がりやすくなります。その場合、出産してしばらくしたら戻りますが、一時的に、体に大きな負担がかかることは間違いありません。
分娩予定日を過ぎても陣痛が来ない場合は?
編集部
過期産に対して、どのように対処すればいいのでしょうか?
前先生
先述したように、過期産には様々なリスクがあるため、現在では42週に入る前に医師が介入して、分娩をするケースが増えています。ただし、病院や医師によって考え方は異なるので、事前にかかりつけ医に確認しておくといいでしょう。
編集部
42週に入る前に医師が介入する場合は、どのような処置をおこなうのですか?
前先生
まず、妊娠週数の計算が正しいのかを再度チェックします。妊娠初期まで遡って、超音波写真などを確認しながら妊娠週数を確かめます。そこで間違いがなければ、過期産にならないように対処します。
編集部
具体的には、どのようなことをおこなうのですか?
前先生
入院していただき、誘発剤を使って陣痛を起こします。ただし、これは子宮口が柔らかくなって開いていることが必要です。もし、子宮口が柔らかくなっていない場合は状況を確認しながら必要な処置をして分娩まで導きます。
編集部
具体的にいつ、実施するのでしょうか?
前先生
大抵の場合は、41週4日目など41週の後半におこないます。なぜなら、陣痛促進剤を使ってもすぐに陣痛が起きるわけではなく、3日ほどかかることもあるからです。
編集部
それでも陣痛が起きない人もいるのですか?
前先生
はい。体質的に誘発剤に反応しない人もいらっしゃいます。その場合は、42週になる前に帝王切開をおこないます。いずれにしても、41週後半になると胎児が大きく育ちますし、胎盤の状態も悪くなるため、42週の直前に胎児を取り出すことが必要です。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
前先生
出産の予定日を過ぎても陣痛がこなくて陣痛促進剤を使用するのは、決して稀なことではないので、あまり焦らないようにしましょう。また、陣痛促進剤を使わなくとも、40週を過ぎたあたりで陣痛が来る人も大勢います。40週を超えると週2回くらい外来で受診し、41週に入ったあたりで医師から「このまま陣痛がなかったらどうしましょうか」という話があると思います。その際、我々医療スタッフは母子の安全を考え、一人ひとりに最善の選択肢をご提案します。ぜひ、かかりつけ医と相談したうえで、納得のいくお産をしていただきたいと思います。
編集部まとめ
陣痛がなかなか来なかった場合のことを、事前に知識として身につけておけば、いざというときも焦らずにすむはずです。そして、一人ひとりに「ベストなお産」の形は異なります。医師や家族とたくさん話をして、納得のいくお産をしましょう。
医院情報
所在地 | 〒336-0026 埼玉県さいたま市南区辻7丁目8-17 |
アクセス | JR埼京線「北戸田駅」 徒歩14分 |
診療科目 | 産科、婦人科 |