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「出産まで安心できなかった」流産を乗り越えて、ついに不妊治療が実を結ぶ【体験談】

 公開日:2023/04/05
【体験談】「出産まで安心できなかった」流産を乗り越えて、ついに不妊治療が実を結ぶ

「かわいそうな人」と思われたくなくて、友達にも親にも不妊治療のことを話せなかったというりんこさん(仮称)。そんな中、励ましとなったのはtwitterで知り合った同じ境遇の仲間たち。身体的にも精神的にも辛かった不妊治療を終えた今、思うこととは。現在の心境をりんこさんに語っていただきました。

※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2023年2月取材。

りんこさん

体験者プロフィール
りんこさん(仮称)

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東京都在住、1983年生まれ。職業は会社員、現在は育児休職中。2018年に結婚をして、2019年から妊活を開始。流産・不妊治療・休職の経験を乗り越えて第一子を出産。

浅野 智子

記事監修医師
浅野 智子(医師)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。

結婚してすぐに不妊治療を開始。夫側に不妊の原因が……

結婚してすぐに不妊治療を開始。夫側に不妊の原因が……

編集部編集部

お子さんを授かろうと思ったのはいつ頃ですか?

りんこさんりんこさん

34歳で結婚してすぐ、夫と「すぐ子どもが欲しいね」と話しており、妊活をスタートしたのですが、なかなかできなかったんです。夫の友人が不妊治療の末に出産をしていたこともあり、「私たちも病院に行った方がいいかな」と話し合いました。不妊の定義は「妊活を開始してから約1年間妊娠しないこと(※)」ですが、心配だったため入籍して半年後には不妊治療をおこなっている病院を受診しました。

※日本産科婦人科学会「不妊とは」
https://www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=15#:~:text=%E3%80%8C%E4%B8%8D%E5%A6%8A%E3%80%8D%E3%81%A8%E3%81%AF%E3%80%81%E5%A6%8A%E5%A8%A0,%E3%81%A8%E5%AE%9A%E7%BE%A9%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82

編集部編集部

まずは検査をおこなったのですか?

りんこさんりんこさん

そうです。不妊の原因を探るため、夫婦で一通りの検査を受けました。夫の精液検査で「精子の状態が悪いね」と結果を告げられたときは、夫婦で頭が真っ白になりました。ただ、医師からは「日によって精子の状態が変わりますから、少し間隔を空けてまた検査しましょう」という説明があったので再検査を受けたり、タイミング法や人工授精をおこなったりしました。

編集部編集部

その後の経過はどうでしたか?

りんこさんりんこさん

なかなか上手くいかなくて「もう体外受精に切り替えた方がいいかな」と夫婦で相談して、体外受精のための病院を探していたとき、たまたま男性不妊に強いクリニックを見つけたんです。夫が受診したところ、初診で「手術をした方がいいでしょう」という話になり、精索静脈瘤の手術を受けました。

編集部編集部

男性不妊を解決する手術としては一般的なものですね。

りんこさんりんこさん

そうです。手術後も精子の状態が改善するか様子を見ながら人工授精をしたのですが、それでも妊娠できませんでした。私もそのクリニックで処方された薬を服用しながら人工授精をおこなっていたのですが、薬の影響でだるさや眠気などが起こり、体がだんだん辛くなってきて……。その時期は仕事も忙しく、海外出張もあったので、「このクリニックで体外受精に進むのは厳しいだろうな」と思っていました。

編集部編集部

それで転院されたのですか?

りんこさんりんこさん

はい。低刺激の体外受精が得意なクリニックに転院しました。以前のクリニック通院時と比べると体は楽になりました。しかし、採卵して移植したところ、7週で流産。その後、採卵したのですが卵を1個しか凍結できなかったり、次の移植も上手くいかなかったりと……。「このままここで受けても意味がないんじゃないか」「高刺激の体外受精も試してみた方がいいんじゃないか」と思い、再び別のクリニックに転院したのですが、そこでも結果が出ませんでした。

編集部編集部

低刺激と高刺激両方を試してもダメだったのですね。

りんこさんりんこさん

そうです。「高刺激は体が辛いからもう一度だけ低刺激に切り替えて、これでもダメだったら諦めよう」というくらいの気持ちで、再び低刺激の体外受精をおこなうクリニックに戻ることにしました。治療に集中しようと思い、ちょうどそのタイミングで会社の制度を利用して、1年間の休職届けを出しました。その後まもなく、採卵済みの卵で体外受精をおこなったら、幸いにも妊娠することができたんです。

編集部編集部

何度も転院したり、治療を切り替えたりして大変でしたね。

りんこさんりんこさん

そうですね。とくに高刺激のときは体もしんどくて大変でしたし、何度も流産・化学流産を繰り返していたので、精神的にも相当きていました。

「かわいそうな人」と思われたくない

「かわいそうな人」と思われたくない

編集部編集部

不妊治療中、大変だったことはなんですか?

りんこさんりんこさん

やはり、仕事と治療を両立させることです。頻繁に受診する必要がありましたし、急にクリニックへ行かなければならないことが多かったですね。仕事もフルタイムで忙しかったので、会社のフレックス制度を利用して検査を受けてから出社といったように、なんとか時間をやりくりしていました。

編集部編集部

職場の人には不妊治療をしていることを話していたのですか?

りんこさんりんこさん

いいえ。直属の上司には相談したのですが、それ以外の人にはほとんど話しませんでした。そのため、同じチームの人には「どうしてあの人だけフレックス制度を頻繁に使っているんだろう」と不思議に思われていただろうし、海外出張を後輩に変わってもらうときには「なんで俺が行かなくちゃいけないんだ」というような言葉も耳にしました。

編集部編集部

周囲にも相談したら、理解してもらえたのでは?

りんこさんりんこさん

たしかにそうかもしれませんが、「妊娠できない、かわいそうな人」と思われたくないという気持ちが強かったんです。心配されたり、変に気を遣われたりするのも嫌でした。仲の良い友人にも不妊治療のことをなかなか話せずにいましたが、勇気を持って話してみたら「実は私も……」と言う子もいて、その子たちと話すのはとても心の支えになりました。

編集部編集部

不妊治療中、ほかにも励みになったことはありますか?

りんこさんりんこさん

twitterで不妊治療に関する情報を集めていたのですが、そこで私と似たような境遇の人を探したり、体験談を読んで共感したりすることが、私にとってはとても大きな励みでした。講演会に出席した際、twitterでやりとりしている人と初めてリアルに会ったときは、とても心強い気持ちになりました。

編集部編集部

不妊治療中、夫のサポートはありましたか?

りんこさんりんこさん

ありました。仕事と治療の両立で本当に辛かったとき、その辛さが顔に出ていたのか「辛かったら、いつやめてもいいんだよ」って言ってくれました。

編集部編集部

治療が実って妊娠したときは、どんな気持ちでしたか?

りんこさんりんこさん

まさか妊娠すると思っていなかったので、ビックリしました。じつは最後に体外受精をおこなったとき、血液検査の数値があまり良くなかったので「手持ちの凍結胚のうち、グレードの低い卵を移植しましょう」という話が出たんです。だから、それほど期待していませんでした。妊娠が発覚してからも流産を経験していたこともあったので、嬉しいという感情より不安でいっぱいでした。

編集部編集部

「またダメだったらどうしよう……」という不安ですね。

りんこさんりんこさん

そうです。医師にも「一般的には安定期という言葉があるけれど、医学的な定義としては存在しない」とも言われていましたし、頭の中は不安でいっぱいでした。私は会社の制度を利用して休職した後に妊娠したので、一度復職して数カ月働いて再度産休に入りました。コロナ渦での妊娠だったため、幸いにもほとんど在宅勤務で済みました。ただ、産休前の最終勤務日、久しぶりに出社したとき、もうお腹が大きくなっているにもかかわらず必要以上に妊娠していることを知られたくなくて、職場から逃げるようにさっと帰宅してしまいました。

編集部編集部

その不安は出産まで、ずっと続いたのですか?

りんこさんりんこさん

はい。通常なら、ベビーグッズなどの準備をすると思うのですが、私も夫も出産するまでずっと不安で、臨月に入るまで買えませんでした。twitterを見ると、不妊治療を経て妊娠した人は「出産するまでずっと不安」と書いている人が多く、私も共感しました。

医療機関探しで“迷子”にならないように

医療機関探しで“迷子”にならないように

編集部編集部

不妊治療を経て、夫婦の関係性には変化がありましたか?

りんこさんりんこさん

結婚して間もなく不妊治療を開始したので、治療の前後で夫婦の関係性が変わったということはありませんでした。ただ、治療を通してたくさん話し合う機会があったので、お互いの理解が深まったと思っています。

編集部編集部

治療を始める前と実際に経験したときで、ギャップはありましたか?

りんこさんりんこさん

ありました。こんなに心身ともに辛いものだと思わなかったですし、お金も想像以上にかかりました。正直に言って、「しなくて済むなら、不妊治療なんてやりたくなかった」と今でも思います。とくに女性側の負担は大きいですから。

編集部編集部

心身ともに、相当負担が大きかったのですね。

りんこさんりんこさん

はい。治療を無事に卒業できれば、その後は出産や新生児のお世話が待っています。本当に子育てはずっと大変です。もちろん幸せなことではありますが、不妊治療中からこれまでずっと休む間がないですね。

編集部編集部

治療を始める前、万が一治療が上手くいかなかったら「どのタイミングで治療をやめるか」ということは夫と話し合っていましたか?

りんこさんりんこさん

いいえ、治療を始める前にはそういう話をしませんでした。しかし、会社を1年間休職して治療に専念しようと決めたとき、「これでダメだったら終わりにしよう」という思いはありました。幸いにも、不妊治療休職期間に入ったらすぐに妊娠したので、治療期間は2年半で終わりました。

編集部編集部

不妊治療を終えた今、政府や医療機関に望むことはありますか?

りんこさんりんこさん

できれば、不妊治療に関する情報をオープンにしてほしいです。振り返ってみると、色々な医療機関を転院したり、採卵をやり直したりしたことで、時間とお金がもったいなかったなと感じました。例えば、不妊治療をおこなう医療機関が条件を一定にして成績を公開すれば、「自分にはどの医療機関で、どの治療をするのが向いているんだろう」と客観的に判断することができますよね。でも、現在はそうした基準がないので、たくさんの人が自分にふさわしい医療機関や治療法を探して迷子になってしまっている。それはとてももったいないことだと思います。

編集部編集部

なるほど。情報がきちんと公開されていれば、効率的な選択ができるということですね。

りんこさんりんこさん

実のところ、私はあと4つ凍結胚が残っていました。だから、頑張れば第二子を望み、治療することもできたんです。でも、第一子で時間もお金もだいぶかかってしまったので、第二子は難しいと諦めました。もし、医療機関を選ぶ時間が短縮できて、費用も軽減できていたら、第二子を望めたかもしれない。私と同じ思いをしている人はきっとたくさんいるんじゃないかと思います。

編集部編集部

政府も「少子化対策」と唱えているなら、そのあたりの情報整備も期待したいですね。

りんこさんりんこさん

そう思います。聞くところによると、海外だと不妊治療の情報公開が進んでいる国もあるそうです。ぜひ、日本の不妊治療もそうなってほしいと思います。

編集部編集部

最後に、これから不妊治療を始める人や治療中の人へメッセージをお願いします。

りんこさんりんこさん

不妊治療中、私はずっと情報収集ばかりしていました。血液検査を受けたら、「私の検査結果は他人と比べてどうなんだろう」って検索したこともありました。治療に目を向けすぎて、気分転換ができていなかったんだと思います。でも、今思うのは「もっと自分を労る時間があってもよかったな」ということです。お茶を飲んだり、散歩をしたり、自分の時間を作れば、もっと気持ちを楽にすることができたかもしれないと思います。治療が無事に進んで卒業できれば、その後は出産や子育てが待っています。治療中に心身が疲れ果ててしまったら、出産や子育てを乗り切れません。治療を諦めることになった場合も、この2年半は治療以外何もせず過ぎてしまった、と振り返って辛かったと思います。これから不妊治療を始める人や現在治療中の人には、ぜひ自分を労ることも意識して、あまり頑張りすぎないでほしいと思います。

編集部まとめ

「どの医療機関で治療を受けたらいいか悩んで、迷子になっていた」というりんこさん。この言葉には、きっと多くの人が頷くのではないでしょうか。医療機関選びは不妊治療の第一歩ですが、後悔しないためにも、ぜひセカンドオピニオンやサードオピニオンも参考にしながら、自分に合った医療機関や治療法を探したいですね。

この記事の監修医師